メビック発のコラボレーション事例の紹介

コラボレーションはものづくり企業の枠組みを越える
自社製品のSPツールプロデュース

Liquid Jet

ものづくり企業の夢、それは自社製品を世に送り出すこと

永年、培ってきた技術を活かして自社製品をつくり、世に問うこと。それは多くのものづくり企業にとっての夢。創業から40年以上、試作品を専門に加工の技を積み重ねてきた渡辺製作所が開発した、初の自社製品「リキッドジェット」は、まさにそんな存在だ。これは手をかざすだけでセンサーが感知し、手や指への水分補給や除菌ができる、世界初の噴霧装置。この製品のために、下から上へと水をはね上げる噴出機構をつくり、社内で初めての特許取得もした。「これまで何度か自社製品をつくる話はありましたが、ようやく形にできました」と語る、渡辺正雄代表取締役社長。
開発から2年経った2018年には、量産化も見えてきた。次に必要なのは、新製品のプロモーションやブランディングをサポートしてくれる人材。それも設計者やプロダクトデザイナーが男性のため、これまでと違った視点を持つ女性デザイナーだ。発案者である渡辺安雄専務は、出会いを求めて5月にメビック扇町で開催された「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に参加する。
そこで出会ったのがECE商店の石井瑞穂さんだ。「プレゼンの内容をお聞きして、私がお手伝いできる仕事だと思ったんです。製品に関してはシンプルで洗練されているぶん、置いているだけだと用途がよくわからないので、きちんとプロデュースしてあげる必要性も感じました」。その後の展開はとてもスピーディ。名刺交換をして翌週には来社、さらに翌週には仕事の依頼がなされる。ちなみに石井さん、メビック扇町の企業プレゼンに参加したのは実はこれが初めて。そう考えると、少し運命的なものも感じる。

「リキッドジェット」のコンセプト
多様な場面での活躍が期待できる製品だが、あえて使用シーンを3つに絞ることでコンセプトを明確にした。

クリエイターとの出会いで、コンセプトが見えてきた

渡辺製作所ではまず、営業にあたってのパンフレットの作成を考えていた。「ただそれだけで営業するのは難しく、お話していくうちに、これもあれも必要となりました」(石井さん)。またパンフレットの作成にあたっては、ブランディングが絶対不可欠。製品の強みやターゲット、今後の販路などについての戦略会議を重ねた。
「リキッドジェット」は開発当初、その用途をスーパーなどで袋の口を開けるために「手を湿らせるもの」と考えていた。「現状は布巾のようなものが置かれていますが、大勢の人が使うもので衛生的ではない。それに代わるものとして開発しました」(渡辺社長)。そのため当初は垂直に噴霧するだけだったが、用途を限定しすぎると売れないのではと考え、360度噴霧できるように機構を変更。さらに中の液体を消毒薬にすれば、介護施設や病院など販路の可能性も広がる。

「リキッドジェット」の使い方
リキッドジェットの使い方はシンプルに手をかざすだけ。

「販路から考えると本当にさまざまな場所に置けますし、ターゲットも老若男女と広くなります。しかしそれだと今度はぼやっとした商品になってしまう。そこでコンセプトの見直しを提案しました」。その過程で使用シーンを3つに絞った。発案時からあった「スーパーマーケット」に加え、消毒を目的とした「エントランス」、事務作業をサポートする「オフィス」、この3つのシーンを販路ととらえて表現していく、そう方針が固まった。

「リキッドジェット」パッケージ
コードレスで場所も選ばず、インテリアにフィットするシンプルデザイン。箱もそのイメージでつくられている。

製品の最大の特徴であるシンプルさを活かすデザインに

ブランディング会議には社長と専務、機構設計やプラスチック成形の担当者が参加。価値観や立場の違う者が集まって話していると、アイデアは尽きなかった。その場でよく出たのが「簡単」という言葉。たしかに水や消毒液を入れて、手をかざすだけ。360度どの方向からでも使用可能。またコードレスなのでどこに置いても使える。「説明なしでも使える、感覚的でわかりやすい製品です。その強みを単純明快に表せるワードが出てきたので、それをデザインに反映しようと決めました」。石井さんが考案したキャッチコピーは「どこでも、触れず、簡単、きれい」。今の時代に求められるわかりやすさを、簡潔に力強く表現した。

パンフレット制作にあたっては、「この製品は文字が少なくても写真で語れる商品。その代わり良い写真でないと伝わらない」と、カメラマンの野田雅也さんに撮影を依頼。「こんなに写真を大きく使われると思わなかったので、とても嬉しい」と野田さん。使いやすく、日々の暮らしになじみ、美しくシンプルで、いつまでも飽きがこない。そんなリキッドジェットの特徴が、一目でわかるものとなっている。「写真が主役なので、雰囲気だけお伝えして、撮影している写真を見ながら、構成やデザインを考えていました」(石井さん)

名刺
受け取った相手の興味を惹きつける商品写真とキャッチコピー入り名刺で、PR効果を高めている。

トータルプロデュースでブランド・イメージを確立する

それ以外にも製品の外箱、取り扱い説明書、販売に携わるスタッフ専用の名刺にいたるまで、自社製品にまつわるセールスツールはイメージを統一して作成。社内や営業先でも好評を得ている。「やはり餅は餅屋だなと感心しています。まわりからも、凝っているねと褒められますから」(渡辺社長)。リキッドジェットは2月末から生産に入り、春には市場で展開予定。渡辺社長は今の気持ちを「期待半分、怖さ半分」と言う。「販促用のツールはすべて揃ったので、成果はこれからですね」

「リキッドジェット」ウェブサイト
リキッドジェットはカテゴリー的には家電になり、BtoCの商品であればウェブは必要不可欠とウェブサイトも作成。

石井さんはパンフレットや名刺などのグラフィックデザインはもちろん、外箱のパッケージデザイン、ウェブサイト、さらには展示ブースの装飾まで、結果として総合プロデュースに近い形で関わった。時間的に追われることもなく、理想的な形で進められたと振り返る。「今回はトータルでおまかせいただけて、ありがたいお仕事だったなと思います。自分の経験値を上げるのにも役立ちましたし、商品を世に出すという楽しさも味わいましたから」
今回の製品は市場ニーズや社会課題に、自社の素材や技術を用いて、いかに応えていくかという視点を持ったもの。そこに新しい切り口や時代にあったプロデュースが加わったことで、よりコンセプトが明確になった。この製品がヒットすれば、受注中心だった同社のあり方に大きな変革をもたらすことだろう。

プロジェクトメンバー

株式会社渡辺製作所

代表取締役社長
渡辺正雄氏

https://www.watanabe-mfg.co.jp/

ECE商店

スタートアップデザイン / ブランディング / プロデュース
石井瑞穂氏

Picto

フォトグラファー
野田雅也氏

http://picto-link.com/

公開:2019年6月18日(火)
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。