メビック発のコラボレーション事例の紹介

緑茶と焼き物。ニッポンのええもんを五感で味わえるカフェ。
印刷系ツールとWebサイトのデザイン制作

カフェ風景

商店街の一角に、誕生した「市中の山居」。

南北およそ2.6km、日本一長い商店街で知られる天神橋筋商店街の一画に2016年8月30日、オープンしたのが「CAFE大阪茶会」。日本のお茶と陶器を新しいスタイルで紹介するカフェで、コンセプトは「市中の山居」。千利休が大成した茶の湯の精神から生まれた表現で、都会にある草庵を意味する。
店内の壁面を、高知県で和紙の作家として活躍するオランダ人、ロギール・アウテンボーガルトさんの作品が飾る。ほかにも金銀箔、真鍮漆、国産黒竹など日本の伝統工芸の美意識が貫かれている。デベロッパーやベンチャー企業での新規事業立上げの経験を経て、大阪茶会株式会社を設立した児玉薫さん。総合芸術である茶道と生活を豊かに彩る陶器に注目したのは「ニッポンらしい価値を大切に、五感に響く商品・サービスを提供したい」と思ったからだという。

モノとヒトに出逢い、新たにつながる。

メイン商品は「農薬不使用の茶葉」を使うドリンクとした。滋賀県甲賀市役所の人に「朝宮茶」のお茶農家を紹介してもらった。自分の故郷である和歌山に足を運んで那智勝浦町の「和歌山茶」、御堂筋のマルシェを通じて兵庫県篠山市の「丹波茶」、商店街の産直イベントで鹿児島県南さつま市の「鹿児島茶」に出逢い、これらのお茶をラインアップした。
お茶の生産者だけでなく陶器の窯元もどんどん訪ねた。現地で作り手の声を聴くことが大事だと思っているからだ。東海から関西にかけての窯元からさまざまな器を仕入れた。
「事業を継続発展していく上で、作り手・買い手・売り手・地域・共感投資家の『五方良し』に貢献していきたい。アートや日用食器を直接仕入れることで双方の利益を確保しつつ、作り手を発見した喜びを伝えられれば」と児玉さん。

ふんわりラテ
人気メニューの一つが、挽きたて緑茶と六甲山麓牛乳を使った「ふんわりラテ」

ここにしかない日本茶と器のマリアージュ。

大阪茶会では、客の注文を受けてから茶葉を挽く。それを、客自身が奈良県生駒市産の高山茶筅でお茶をたてるか、店のスタッフに入れてもらうか。どちらも香り高く、こくのある味わいにはっとする。挽きたての茶葉を生かしたラテは、ふんわりした味わい。茶葉にバナナ、小豆や麹を交えるジュースもおいしい。抹茶のソフトクリームやお茶氷、オリジナルのチョコレートなどデザートも多彩で上品な味わいだ。100種類以上が並ぶチョイス棚から好きな器を選ぶのも楽しい。マグカップや抹茶碗などいろいろな器がある。書架には焼き物や茶の湯、大阪の名所などアートにかかわる書籍が並ぶ。全国の手漉き和紙のオリジナルポストカードや大阪初登場の陶芸作家の陶器、茶葉も販売している。

ロゴ、パッケージ、ショップカード
ロゴは「文紋(ふみもん)」に茶葉をあしらったデザイン。茶葉型のショップカードは、ファーストヴィンテージの紙に少しだけお茶の香りをつけた。メニューは五つ目和綴じ仕様で、紐には麻を使って良い風合いに。販売している茶葉のパッケージも美しい。

商店街から発信する新しい事業に。

内装と商品構成が決まった後、最後に残ったのがプロモーションだった。
2016年6月、児玉さんは、メビック扇町主催の「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」でプレゼンを行った。大阪茶会のコンセプトを熱く語る児玉さんの前には、たくさんのクリエイターが並ぶ。その一人に、デザイン事務所iD.(アイディー)代表で、グラフィックデザイナー・版画家の泉屋宏樹さんがいた。「大阪茶会さんの住所を聞いて驚きました。天神橋筋商店街で呉服屋を営む実家の2軒隣りだったからです」。商店街で生まれ育った者と、これから商店街で生きていこうとする者。泉屋さんと児玉さんは出逢うべくして出逢ったといえようか。
「『市中の山居』というコンセプトに対して、しっかり和の本質をついたのは泉屋さんだけでした。生まれ育った環境に加え、和の仕事の経験もあり、この人だと確信しました」と児玉さん。「単にかっこいいクリエイティブを提供するのではなく、むしろ児玉さんがこの商店街で、いかに長くお客さんに愛され、長く商売をしていくか、商店街の人間として何を発信していけるかが大切だと思いました。商店街で生き残っていくためにも児玉さんと一緒にやっていきたいし、私自身も商店街に貢献したい。そして自分しかできないことは何かを改めて考えさせられました」と泉屋さん。

ウェブサイト画像
Webでも大阪茶会が扱う器の作家や和紙・折り紙を丁寧に紹介している。英語表記でもお茶や作家を取り上げ、興味をひきやすい。

スパイラル状に広がる人の輪。

カタログ、ショップカード、メニュー、ちらしなど販促物、お茶のパッケージなどのデザイン業務に次々と着手。ロゴは、古くからの家紋である「文紋(ふみもん)」に、グリーンの茶葉をあしらっている。メニューを和綴じに仕上げたのは、版画家として活躍する泉屋さんならでは。
一方、同じく「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に参加したのが縁となり、大阪茶会のWeb媒体への展開をするために加わったのが、合同会社Sugar-cogの竹内美里さんだ。「InstagramやSNSなどのソーシャルメディアとの役割分担も考え、泉屋さんのグラフィックを元に、現代にフィットするWeb展開を考えました。児玉さんが担当するInstagramではフォトジェニックな情報を、フェイスブックでは身近で、ニュース性のある情報を発信しますが、Webサイトでは正確な情報を送り出していくことが大切です」と竹内さん。竹内さんによると、「解析ツールでも日々アクセスが増え、上々の滑り出し」。竹内さん自身、この仕事を機にあらためてお茶のおいしさに気付き、会社ではコーヒーを緑茶に変えたという。
日本茶と陶器を核に、長い目でまちづくりに貢献し、街のポテンシャルを上げられる新しいビジネスモデルを目指す大阪茶会。人の出逢いとお茶の輪はさらに広がっていきそうだ。

カフェ風景

iD.(アイディー)

泉屋宏樹氏

http://www.id-izumiya.jp/

大阪茶会株式会社

児玉薫氏

https://www.osakachakai.jp/

合同会社Sugar-cog

竹内美里氏

http://www.sugar-cog.com/

公開:2017年4月17日(月)
取材・文:鶴見佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。