メビック発のコラボレーション事例の紹介

イラストレーターとタッグを組んだ“アート”なメモ帳。
「デザインメモロール」の商品化

デザインメモロール

期間限定のアートグッズから、暮らしのなかで愛される商品へ。

吉川紙商事株式会社が初めて自社でプロデュースを手掛けた「デザインメモロール」なる商品が、この春から始動する。ポップ&キュートなイラストがひときわ目を引く、ミシン目入りのロールメモだ。透明ケースからくるくると引き出して1枚ずつ使うという形状で、1ロールにつき6種類の絵柄が楽しめ、たっぷり400枚が使える仕様となっている(価格は上代750円)。 同社がメビック扇町主催の「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に参加したことから何名かのイラストレーターとの出逢いがあり、商品化が実現した。
「これまでは展覧会のグッズとして、期間限定で販売することがほとんどでした。たとえばミュシャやラファエロといった名画であるとか、人気アニメをテーマにした展覧会会場で販売するアートグッズ的なものですね。お客様も展覧会を訪れた記念品として購入される方が多かったと思います。弊社としては、もっとユーザーの暮らしに密着したところで日々使っていただけるものができないだろうか、という思いがあったんです」と松岡智美さん。
今回、サトウノリコ*さん、大原そうさん、ヒキノユウジさんを起用する決め手となったのは、コアターゲットとして20~30代半ばの女性を想定しており、明るく親しみやすい、可愛らしさが感じられる作風だったこと。さらに、松岡さんが三者と会って面談した際に、「ぜひ一緒にやりたい」という熱意と誠実な人柄を感じたことも後押しとなった。

デザインメモロール
ミシン目付きで、1枚ずつ切り離せる。

手持ちの作品をさまざまな工夫で魅力的な商品に。

一方、今回の案件はプレゼンから納期までが約2週間という、厳しいスケジュール事情が背景にあったため、手持ちのストックからの作品提供が条件ともなっていた 。既存のフォーマットにイラストを落とし込むデザイン作業も各イラストレーターが請け負ったが、そこには1枚1枚をより効果的に見せようとするそれぞれのこだわりや工夫があった。
「私は東京で展覧会をしたときにパンダや白鳥を描いた、動物園の絵を提供させていただきました。デジタルデータではなくキャンバスに描いた作品なので、若干、苦労したところがあります。フォーマットに合わせて木の長さを延ばしたり、本来はなかった部分を、つぎ足して描いたりしました。制作中は、次回はたとえば博物館向けに絶滅危惧種や恐竜をテーマにするものもいいな、といろんなアイデアが浮かびましたね」(サトウさん)
「私の場合、手持ちのイラストはすべてデジタルデータになっているので配置を変えて微調整するだけで大丈夫でした。彩色もPhotoshopですし、パーツごとにレイヤーに分けてあるので作業自体はスムーズにできましたね。工夫した点といえば、デザインメモロールは6枚の絵が繰り返し続くことになるので、使う人が楽しめるよう、青い絵の次は赤い絵が来るようにしたり、色の並びには気を使いました」(大原さん)
「僕もアナログで描いたものを、パーツごとにスキャンしています。細かな修正にも対応しやすいですし、サイズの違うプロダクトに展開するときも、拡大縮小できますから。今回はデザインメモロールのフォーマットに合わせて、最適なバランスを見ながら、新たに組み直しました。完成後に商品をおつきあいのある制作会社さん宛の請求書に同封したり、名刺代わりに持っていくと、『商業施設のディスプレイに、こういう絵を使いたい!』とか、うれしい反響もいただきました。営業未満の、もっと気軽なコミュニケーションツールとして役立っています」(ヒキノさん)

デザインメモロール
メモの罫線まで遊び心のあるデザイン。

デザイン性の高さを付加価値に、新たな市場をつくる。

そうして仕上がった三者三様のデザインは、くすっと笑えたり、旅気分が味わえたり……驚くほど表情豊か。裏面はスミ一色で、表面のイラストに合わせてデザインされた罫線付き。たとえばサトウさんの動物モチーフの裏面には、動物の足跡がどこまでも続いていたりと、隅々にまで遊び心があふれている。
現在、同社では「デザインメモロール」という名称とロゴマークを、商標登録として特許出願中。ゆくゆくは自社オンラインショップでの販売、そして全国の雑貨店等への卸をめざしている。
「他社さんにも実は類似商品があるのですが、無地や単色で機能性を重視した事務用品的なものが多いですね。弊社がこだわっているのは色彩の豊かさやデザイン性なので、そういう意味では他にない商品といえます。我々としてはまず、このデザインメモロールの認知度をあげることが目標。最終的にはマスキングテープのように、日常使いしながら、好きなデザインをコレクションすることも楽しめる、そんな商品にうまく育てていけたらいいですね」と下原充弘さんは語る。
「ありがとう」や「これ、食べてね」などのちょっとしたお礼や伝言を、一筆箋ほどかしこまらず、軽やかに伝えてくれるデザインメモロール。今後は切り取ってそのままディスプレイとしても使えるような、ハロウィンやクリスマスなどのイベントバージョン、春夏秋冬で使い分けられる季節ものなども考えているそうだ。受け皿の広い商品だけに、イラストはもちろん、テキスタイルや写真にいたるまでアイデアは無限に広がる。オフィスで、家庭で、学校で……近い未来、「デザインメモロール」が私たちの暮らしのスタンダードとなる日が来るかもしれない。

デザインメモロール
上から
サトウノリコ*さんの作品:元絵はキャンバスに描かれた作品。パンダのポーズなどに、さりげないユーモアが隠れている。
大原そうさんの作品:エッフェル塔や猫など、女性の好むモチーフがいっぱい。色の並びに配慮し、バラエティ感を出した。
ヒキノユウジさんの作品:家や木などのパーツをフォーマットに合わせて組み直し、軽やかで愛らしいデザインに仕上げた。
風景

yellowgroove

サトウノリコ*氏

http://www.yellowgroove.com/

uramabuta

ヒキノユウジ氏

http://www.uramabuta.com/

オフィスアベチカ

大原そう氏

吉川紙商事株式会社 大阪支店 販売課

松岡智美氏

下原充弘氏

http://www.yoshikawa.co.jp/

公開:2017年4月7日(金)
取材・文:野崎泉氏(underson

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。