カッティングマット
クリエイターの客観視点で業容を洗い直すと、旧来の技術が生きる新たなステージが拓けた。

カッティングマット

変わらなければ。変革したい――。堅実に実績を重ねてきた企業がそう駆り立てられる時、あるいは一方で、守りたい、リスクを避けねば、という守旧ベクトルが働くのもまた現実かもしれない。そして結果、方向を探しあぐねるというスパイラルは、そんなに珍しい話でもない。モノづくりの町、東大阪で3代続く文具事務用品メーカーの若き後継者も、そんな悩みの最中にいた。突破口を、と臨んだメビックでの出会いで、大きな前進のきっかけをつかむことになる。

「脱皮できない当社」という率直なお悩みこそ、クリエイターの課題解決力の出番だ!

その若き後継者とは、株式会社ミワックスの取締役、美馬徹也さん。事務机や学習机の上に敷くデスクマットや、カッターナイフを使用する際のカッティングマットのメーカーの3代目だ。机上に敷く透明ビニールマットは今ではすっかりおなじみだが、戦後、他社に先駆けてミワックスが開発した商品で、塩化ビニールの加工にかけては当社の技術は国内でもトップレベルと誇れるものだ。またカッティングマットは、カッターの傷が目立たない上に反りなどの変形に強いという品質の高さで、学校や役所はもちろん、デザイナーや設計者などの御用達ツールになっていると言ってもいい。硬さの違う3種類の樹脂を層に重ねる技術は、国際特許を取得済みでもある。OEMでの商品展開もあり、行政関係を中心とした得意先も広く、業績は安定している。それなのに、いや、それだからというべきか。美馬さんは、2013年9月にメビック扇町で開催されたクリエイター募集プレゼンテーションに登壇し、「脱皮できない当社は…」というストレートなテーマで自身の問題意識を訴えた。当時“脱皮”のために会社が仕掛けていたのは、塩ビシートを使ったカップや小物入れといった雑貨など、店頭販売を想定した商品。行政の予算が低迷する中、市場拡大戦略の一環として、持てる技術を違った形で転用したアイデアだったが、美馬さん自身「これじゃないだろ」とモヤモヤしていたのは事実だった。メビックのこのプレゼンに初参加してミワックスの“脱皮”方針を聞いていた、株式会社モート商品デザインの正田勝之さんも「なんかおかしいなぁ」とすぐさま思ったという。

必要なのは小手先のアイデアじゃなくて、
技術をちゃんとブランディングすること。

「会社の歴史を聞いて、素晴らしい技術開発力を持っておられることがよく分かった。技術を前面に出していくので十分じゃないかと」と正田さんは直感したという。プレゼン後の交流会でその考えを美馬さんに伝えた。「奇をてらったものじゃなくて、御社の技術をちゃんとブランディングしませんか?」という正田さんの言葉が、美馬さんの胸にストンと落ちた。実は、ミワックスに入社する前に数年、シューズメーカーに勤務していた美馬さんは、「メーカーが造りたいもんが売れるというのは幻想ですよね」と悟っていたし、消費者を動かすのは商品への信頼、つまりブランド力だと経験上学んでもいた。正田さんは「たとえば、鉛筆と言えばミツビシ、消しゴムと言えばMONOという風に、ユーザーに刷り込まれていくのがブランド力。ミワックスも技術の裏付けがあるんだから、そんな風に定番のブランドになれるはず」と、初顔合わせから1か月も経たないうちに、企画書を携えて東大阪に向かっていた。
デザイン事務所を開設して15年目になる正田さんは、長年のプロダクトデザインの経験から、ミワックスのような技術力のあるメーカーが陥りやすいジレンマをよく知っていた。「技術に自信があるゆえに、何かというと製品にさらなる機能をオンする方向で商品開発をしてしまいがちのようですね。それより市場が何を求めているか、市場からどう見えているか?という視点の大切さをじっくりお話しさせてもらいました」(正田さん)。同じくモートのデザイナー、成田吉宣さんも「カッティングマットは僕らも頻繁に使う道具ですが、実は満足する商品に出会えてなかったんです。品質は問題ないんだけど、なんで緑色ばかり?デスクでへんに目立ちすぎじゃない?などと思っていました」。コレ、まさに市場の声。そこで提案したのが、モノクロデザインのカッティングマットだ。色はブラックとグレー。従来は表面に印刷されていた方眼の白い線の印刷は廃止し、1センチ目盛りの白いドットだけを控え目に配した。コンセプトは“創造をサポートする”。モノづくりの場で、使い手のイメージを邪魔しない道具でありたいという意図がそのまま形になった商品だ。美馬さんも「今までにない発想でした。これならカッティングマットと言えばMIWAXと言ってもらえる看板商品に育つなと感じました」。

販売までを視野に入れたブランド戦略だから、
商品の成長をともに見守る良好な関係が作れる。

一方ミワックスの社内では、声高な反対意見はなかったものの、「売れるんかいな~」といった消極的な空気は否めない様子だった。孤軍奮闘気味の美馬さんを強力に後押ししたのが、販売戦略にも踏み込んだ3つの提案だ。ひとつはパッケージデザインを企画に盛り込んだこと。ふたつめに、商品を初披露する展示会を従来とは違った切り口で選んだこと。そして商品単独のウェブサイトとネットショップ(予定)を開設したことだ。商品はできたものの、どこで誰にどう売るかを決める上で、パッケージは重要な部分だ。従来から販売しているホームセンターではなく、雑貨店や大規模小売店を想定して、さらには「プレゼントとしても使ってもらいたい」(成田さん)と、店頭で映えるスタイリッシュさを追求した。展示会については、これまで出展してきた文具展などとはまったく客層の違う『インテリアライフスタイル展』に、おしゃれな雑貨類に交じってブースを構えた。「今までとは違う販路で認知された方がブランディングは成功しやすいんです」(正田さん)という戦略はドンピシャで、「展示を見たクリエイターの方たちに、こういうのが欲しかったと言われて、すごく新鮮でした!需要を実感できたのがうれしかった。ブランディングによって想定ユーザーを変えていけるということを教わりました」(美馬さん)。また、新設されたウェブサイトももちろん、商品に連動してグッと洗練されたイメージになった。特筆すべきは、技術力を強くアピールするために、ミワックスの製造現場の写真を随所に配置している点だ。職人さんの作業風景がまるでドキュメントっぽくちりばめられていて、技術への誇りがしみじみ伝わってくる。企業とクリエイターが想いをひとつにして創り上げた作品の証だ。

発売にこぎつけるまで約2年。特別なトラブルもなくプロジェクトが進められた秘訣について正田さんが言う。「僕たちも美馬さんと同じ思いをしているからだと思うんですよ。デザイン事務所ってともすれば下請け仕事みたいになりがちなところがあるんですが、それに危機感を感じて、自分たちで発信するブランドを持とうということで自社商品のプロダクトを始めたんです。自転車用の小物雑貨で『moca』というブランドです。自分たちにモノづくりから販売まで手掛けている経験があるから、美馬さんの立場や困難も理解できるし、逆に僕らの提案を安心して受け入れてもらえていると感じます」。MIWAXも同じ販路で展開する予定だとか。展示会以降、海外のバイヤーからの問い合わせもあり、ウェブサイトに急きょ英訳をプラスするという、想定を超えた展開もあった。同時に、SNSを意識した設計もしているので、新しいユーザー認知が一気に進むはずだ。


左から 美馬徹也氏(株式会社ミワックス)、正田勝之氏(株式会社モート商品デザイン)、成田吉宣氏(株式会社モート商品デザイン)

株式会社ミワックス
東大阪市玉串元町2-12-18
Web:http://www.miwax.co.jp/
Web:http://www.miwax.jp/

株式会社モート商品デザイン
大阪市西区新町1-25-14
nicinaビル
Web:http://www.moat.jp/
クリエイティブクラスター:(株)モート商品デザイン

『MEBIC COLLABORATION CASE STUDIES 2016
メビック扇町から生まれた協働事例集2016』

『MEBIC COLLABORATION CASE STUDIES 2016 メビック扇町から生まれた協働事例集2016』表紙

メビック扇町を起点に生まれたクリエイターと企業等、またクリエイター同士のコラボレーション事例をまとめた『MEBIC COLLABORATION CASE STUDIES 2016 メビック扇町から生まれた協働事例集2016』を無料で配布しております。ご希望の方は、メビック扇町事務局までお越しください。

公開日:2015年09月28日(月)
取材・文:大野尚子 大野尚子氏
取材班:メイクイットプロジェクト 白波瀬博文氏、design rubato 宮窪翔一氏