メビック発のコラボレーション事例の紹介

製造業にクリエイティブをつなぐディレクターと、高いポテンシャルを持つ印刷会社が生み出した「ビンゴ」という名のコミュニケーションツール
遊んで学べるビンゴシリーズ

イラスト

コミュニケーションを楽しむビンゴゲーム

パーティーなどの集まりで必ずや盛り上がるビンゴゲーム。有限会社セメントプロデュースデザインのオリジナル商品「アニマルビンゴ」は、その定番ゲームにひと味違ったアイデアがプラスされた新しい感覚のビンゴゲームだ。その人気商品が2014年、『遊んで学べるビンゴシリーズ』として仲間を増やして再登場した。印刷・加工を手がけたのは有限会社山添。1968年の創業以来、40年以上の実績を持つ印刷会社だ。「ゲームの中で交わすコミュニケーションを大切に」という、セメントプロデュースデザイン代表・金谷勉氏のアイデアから生まれたビンゴカードセットは3種類。人気商品だった動物モチーフの「アニマルビンゴ」、新しく加わった野菜・果物がモチーフの「ベジフルビンゴ」、ひらがなモチーフの「ひらがなビンゴ」。柔らかい手触りの紙に特色一色で印刷されたカードセットは、どれも美しく洗練されたイメージ。モチーフがシルエットで描かれ、下にはモチーフ名が英語で表記されている。ちょっとおしゃれなパーティーでも、親しい仲間との集まりでも、さらに幼稚園や英会話教室での教材としても使える。ビンゴゲームだけではもったいない。大人も子どもも、アイデア次第でいろいろな使い方ができそうな商品だ。

製品写真

“大阪市城東区生まれ”という物語でつながった

「従来の印刷加工の仕事だけではなく、オリジナル紙製品の企画・販売も積極的に取り組みたいと考えていました。金谷さんとの出逢いはとてもいいタイミングでした」と語るのは、大阪市城東区に拠点を持つ有限会社山添の代表・野村いずみ氏。20代で先代から会社を受け継ぎ、技術や業界のつながりを大切にしながらも、印刷会社としての新しい可能性を求めて精力的に活動してきた。
「印刷業者とクリエイターは、単なる受発注の関係だけでは“いかに安くて早いか”というだけの世界に陥りがちです。それではいい印刷物は生まれません。例えば素材や加工をこちらから提案したり、設計を一緒に考えたりするなど、これからの山添は、印刷加工業者としてクリエイターと共にものづくりをするパートナーでありたいと考えてきました。今回のコラボレーションは、そんな考えにぴったりとはまるものでした」と語る野村氏。より多くのクリエイターと知り合って仕事の幅を広げたいと考えていた矢先、メビック扇町を通して金谷氏と出逢ったという。

一方、金谷氏も大阪市城東区出身。広告制作会社で営業マネージメント職を経て、1999年にセメントプロデュースデザインを設立した。現在グラフィック、ウェブ、プロダクトデザインの受注制作と、オリジナルプロダクトの企画・販売との2つを主軸に経営する。プロデュースする製品は「使われている情景が目に浮かぶもの。背景にストーリーの感じられるもの」と語る金谷氏。経験で培った直感で、ものづくりの現場との協業製品を多く生み出してきた。現在、大阪市西区京町堀に本社、東京都港区南青山に支社とショールームを持ち、取引している店舗は百貨店、インテリアショップ、デザイン雑貨店など全国に約500店。全国のものづくりの現場からオリジナル製品の開発に携わってほしいとの声が後を絶たないという。

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そんな金谷氏が「アニマルビンゴ」のリニューアルと新シリーズの追加に伴って印刷会社を探し、メビック扇町に相談。すぐに山添の野村氏を紹介されたという。
「クリエイティブな仕事に理解があり、オリジナル商品の開発に興味持っていそうな印刷会社を紹介してほしいと相談しました。さらなるステップを、という高いポテンシャルを持つ会社と出逢いたかったんです。話をしてみると、私の出身地であり、ビンゴゲームのデザインをしているスタッフの出身地でもある城東区が拠点だと。これはちょっとしたストーリーでつながっていると直感し、すぐに協業することを決めました」という金谷氏。一方「金谷さんからは多くのこと学びました」という野村氏。クリエイターたちといくつかのオリジナル商品を作ってみたものの、販路開拓に苦戦していたという。「例えば原価と販売価格、ロット設定の方法、宣伝や売り方の工夫など、ビジネスの手法でも勉強になったことがいっぱいでした。さらにいろいろ語り合う中で、金谷さんのビジネス哲学のような部分にも少し触れることができたかなと思います。この協業の経験は今後の私の仕事にも大きなプラスになると思います」

製造者と消費者のストーリーが匂い立つ商品を

製品写真

「デザイナーのロジック(論理)にも、製造のロジックにも、販売のロジックにも偏ることがない、ニュートラルな立ち位置でいる」。これが商品をプロデュースするときの金谷氏の哲学の一つ。そして商品は店頭や展示会などで多くの人のいろいろな意見にさらす。厳しい意見にさらされることがプロデューサーを育て、ひいては製品そのものをよくしていくという。
「商品には “有形の資産”と“無形の資産”があると考えています。有形の資産とは“売り上げ”。つまり“いかに売れるか”ということ。対して無形の資産とは“社会からの注目度”。つまりメディアにいかに多く取り上げてもらい、人に知られるかということ。たとえその商品が売れなくてもメディアへの露出が多ければ、人々に認知され、他の部分で経済効果が生まれます。極端に言えば、1個しか売れなくてもメディアに100回取り上げてもらえればそれでいい。ビジネスマンはつい“有形の資産”ばかりを追いがちですが、それだけではおもしろい商品が生まれません」
繊維製品、陶器や木工など、全国津々浦々の地場産業との商品開発、そして販路開拓。その中で、金谷氏自身は常に絶妙な立ち位置を保つ。だからこそ、そこで生まれるユニークな商品からは、製造者とユーザーそれぞれが生み出すストーリーが匂い立つのだ。『遊んで学べるビンゴシリーズ』にもアイデアと遊び心がたっぷり。例えば「ひらがなビンゴ」のゲームカードには言葉が隠されていたり、「アニマルビンゴ」「ベジフルビンゴ」の取扱説明書にはモチーフにまつわるちょっとした豆知識が書かれていたり…。ビンゴゲームをしながらはずむ会話の光景が目に浮かんでくる。「この商品の開発に携わることができたのは、私にとっての大きな資産」と語る野村氏。「これをステップに、また新しい企画に挑んでみたい」という二人の気持ちは同じだ。次はどんな風景を私たちに届けてくれるのだろうか。

野村氏、金谷氏
「ビンゴシリーズのお話をお聞きしたときに、おもしろいものができそうだと直感しました」と語る野村氏(右)。
金谷氏との出逢いのきっかけはメビック扇町だ。

有限会社山添

野村いずみ氏

http://www.yamazoe-p.jp/

有限会社セメントプロデュースデザイン

金谷勉氏

http://www.cementdesign.com/

公開:2015年3月12日(木)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

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