メビック発のコラボレーション事例の紹介

もっと、開かれた場所へ —— 進化し続ける空間、ギャラリーondoの舞台裏。
ondo

池田敦氏、片桐誠二氏、石倉康平氏
左から池田敦氏、片桐誠二氏、石倉康平氏

ondoをもっと開かれた場所にしたい。そんな思いが、改装計画につながった。

2013年1月のオープンから、wassa、ニシワキタダシ、yamyam、西淑といった今をときめくアーティストたちの企画展を行ってきたギャラリー「ondo」。アートディレクター池田敦氏が率いるデザイン事務所、G_graphicsが運営するこの場所は、同世代が持つ“温度感”を共有する人にとってはたまらない魅力を秘めている。

アートビジュアルブック「オノマトヘア」
wassa氏と共同制作したアートビジュアルブック「オノマトヘア」。レーヨンの束を髪の毛に見立て、物としての存在感を強めた実験的なデザイン。

オープン時の設計や内装にはじまり、1周年を迎えるにあたって改装を手掛けたのは「メビック扇町」のパーティを通じて出会い、意気投合した一級建築士の石倉康平氏。そして、氏の哲学や思いを共有し、「想像した以上の」かたちにしていったのが大工職人・片桐誠二氏である。
そもそも、池田氏がondoをはじめたきっかけとは、「デザイナーとして、一般社会のリアルな空気感をいつも肌で感じていたかった」からだという。

本

「エンドユーザーのことが見えていないと、本当の意味で、人の心に届くデザインができないんじゃないかなと思って。ギャラリーというオープンな場を持つことで、それができるんじゃないかと。そういう僕の思いみたいなものを石倉さんに伝えて、どうかたちにしていくのかはすべてお任せしました」
雑居ビルの3階という立地もあり、街ゆく人々にも発信ができるようにと、手はじめに半透明だった窓ガラスをクリアなものに替えた。窓辺に置く棚を片桐氏が制作し、その時々で何らかのディスプレイができるように工夫。アーティストのドローイングや、ポストカードなどの雑貨を展示販売するショップスペースも拡張した。さらに、デザイン事務所とギャラリー&ショップをゆるやかに仕切る装置として、天井に張りめぐらしたワイヤーから白いファブリックを吊るすことに。無機質だった空間が、ほんの少し、やわらかさや動きを感じる空間へと表情を変えた。
「ギャラリーだけじゃなくショップスペースにもお客さんに来てもらって、なおかつ、僕らが仕事をしている奥のデザイン事務所の空気感も感じてもらえたら、と。お客さんがゆっくり作品を楽しめるよう、さりげなくこちらの目線を隠しながらも、ゆるやかにつながっているというニュアンスは残したかったんですね。隠したいんだけど、開けときたい……みたいな(笑)。その辺で石倉さんはきっと苦労されたと思います」(池田氏)

ギャラリー内風景
改装後、初となった展覧会は川村淳平氏の「Long time no see」。今後も美術家・元永彩子氏による不可思議な未知の生物をテーマにした「SOMEWHERE」など新たな才能に出合える企画展を予定。

いい仕事は、いい人間関係がつくる。ondoが人と人を結ぶ新たな場になれば。

今まで以上に愛すべき空間に生まれ変わったondo。依頼する人、つくる人がともに満足するためには、技術やセンスといったもの以上に「人間関係」が最大の鍵になるという。
「個人の邸宅だとクライアントさんと出会った当初ってまだお互いによく知らない間柄なので、探り合いのような状態なんです。で、この人はどんな人かというのをできるだけ引き出すようにするんですけど、もちろん、簡単に心を開かないタイプの人もいて。家が完成する間際になってやっと、人間関係ができることもあるんです。トラブルのいちばんの原因はやっぱり、コミュニケーション不足ってことが多いですね。『こんなはずじゃなかった』っていう……。人間関係ができてたら、やっぱりいいものができる。ondoをつくり上げて行く工程では予算がなかったこともありますが、みんなで協力してかたちにするということをやれたのもよかったなあと。オープンのときは、ペンキもスタッフみんなで協力して塗りましたしね(笑)」(石倉氏)
「僕らが予算をかけて施工すれば、きれいには仕上がったかもしれないけど、あの味はたぶん出てない(笑)」(片桐氏)
「改装が終わったからこれで終わりということではなく、いずれまた課題も見つかるだろうし。それでまたどうしようかって相談して、たぶんondoはずっと完成しないのかもしれない。なんかそんな気もしますね」(池田氏)
ほぼ同世代の3人は仲のいい友人でありつつ、互いの仕事に敬意を払い、ジャンルを越えた共感で結ばれている。デザインにしろ、設計にしろ、「この人のためにつくりたい」という思いでいつも仕事をしているというのもひとつだ。いち業者として請け負うのでなく、顔の見える個人としてクライアントと向き合うのが信条でもある。実は、池田氏はメビック扇町でコーディネーターを3年ほど経験している。自分たちがつながったように人と人をつなぎ、新たな何かを生み出す機会をつくりたい、そんな思いも強い。
「だから展覧会のオープニングパーティや会期中には、作家さんをはじめ、その場に足をはこんでくださった人同士をなるべくつなげるようにしているんですよ。そんなスピリットも、確実に受け継いでいますね」
石倉氏と片桐氏も展覧会のオープニングパーティには毎回必ず訪れ、アーティストによってがらりと変わる空気感を味わい、お酒を飲みつつ、ゆるく語らう時間を楽しみにしているのだとか。この場所をともに見守り、刺激を受け、おもしろがる。そんな仲間たちの存在が、ondoのつくり出す、どこか親密で特別な空気感となってあらわれているのだろう。

ギャラリー内風景

G_graphics

クリエイティブディレクター
池田敦氏

https://www.g-graphics.net/

石倉建築設計事務所

一級建築士
石倉康平氏

https://www.ishikura-aa.net/

安田工匠

代表
片桐誠二氏

公開:2014年5月27日(火)
取材・文:野崎泉氏(underson

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。