メビック発のコラボレーション事例の紹介

子どもたちとともに「読むよろこび」を分かち合う。読書の国の案内者たち。
わくわく文庫

中西カツミ氏、下向峰子氏、しかたこうき氏
左から中西カツミ氏、下向峰子氏、しかたこうき氏

メビック扇町での座談会がきっかけに

「読書を通じて、自ら学ぶ力を育てたい」。そんな想いをこめて作られた子ども向け学習教材に、ロゴとキャラクターというエッセンスが加えられ、新しく生まれかわった。舞台となったのは、大阪市淀川区で学習塾向け教材システムを開発・販売する株式会社日本コスモトピアの商材『わくわく文庫』。耳で朗読を聞きながら、手にした本を黙読するというマルチメディア教材だ。子どもたちはパソコンに収録された朗読を好きな速度で再生し、楽しみながら本を読み進めていけるという。その教材ソフトのロゴとキャラクターをリニューアル制作したのがイラストレーターの中西カツミ氏、両者のコーディネートをしたのがアートディレクターのしかたこうき氏。「お二人との出会いによって、教材にいのちが吹き込まれました」と話すのは日本コスモトピアの下向峰子氏だ。
出会いは2013年5月。中西氏としかた氏がメビック扇町で行われたクリエイティブ・クラスター・ミーティングに参加したことがきっかけだ。「メビック扇町にはイベントで来たことはありましたが、ミーティングに参加したのは初めてでした。非公開形式の座談会だったので、参加者みんなが本音で語り合えたように思います」と語る中西氏。広告会社でグラフィックデザイナーとしての実績を積み、現在はポスターやパンフレットなどの広告媒体、雑誌のカットなどを中心に活躍するイラストレーターだ。一方のしかた氏は、テレビ局内の映像関連会社などでグラフィック制作経験を持ち、現在はクリエイティブ・プロデューサーとして日本コスモトピアの制作物にも関わる。「私自身もミーティングに参加するのは初めてだったのですが、お互いの人となりが分かり合えるほどじっくり話し合えました。中西さんはイラストのタッチの幅が広く、こちらの要望にも柔軟に対応していただけそうだという印象を受けました。いつか何らかの形で一緒に仕事ができるんじゃないかと直感したんです」と語る。

ナビゲーター役のカエル「Mr. ホンスキー」
ナビゲーター役のカエルは「Mr. ホンスキー」、ヒゲと魔法のステッキがトレードマークの頼りになる紳士。
知性とユーモアにあふれ、趣味は「読書」と「オヤジギャグ」だそうだ。

三人で思いの丈を語りつくした制作過程

そんな二人の出会いのポテンシャルに、タイミングよく巡り合った下向氏。三年前に日本コスモトピアの代表となり、それまで社内で行っていたという制作・デザインの一部を外注するようになった。ちょうど内容のリニューアルを進めていた『わくわく文庫』もその一つだ。「“読む力はすべての学習のベースとなるもの”という考えのもとに生まれた『わくわく文庫』。対象年齢が幼児・小学生・中学生と幅広く、顧客からの期待度も高い商品です。だからこそ子どもたちに愛されるキャラクター、印象に残るようなロゴがほしかった」という下向氏は、しかた氏にビジュアルのリニューアルを相談。そこで中西氏と出会った。「中西さんが描かれるキャラクターたちは、単純にかわいらしいだけでなく、場面設定や時代背景など見えない部分まできちんと表現されていると感じました。『わくわく文庫』は私たち社員にとっても、思い入れの深い教材です。そのビジュアル制作を中西さんにお願いしたら、新たな世界が広がるにちがいないと確信しました」。一方の中西氏は話を聞いて、まず教材のコンセプトに共感したという。「楽しみながら読む力が身につくって素晴らしいですよね。私自身も子どもの成長を考える親であり、より身近に感じられる案件でした。子どもたちが愛着を持って一緒に読書を楽しめるような、マネをして描いてくれるようなキャラクターやロゴをつくりたいと考えました」
制作にあたっては、三人でアイデアを出し合い、キャラクターの使われ方から設定背景、その世界観までイメージをふくらませた。シンプルなラインの中に、ちょっとしたユーモアやストーリーの要素を埋め込むのは、中西氏の得意とするところだ。「一方的に注文をして描いてもらうのではなく、みんなで方向性を探りながら制作できました」と語る下向氏。どうすれば子どもたちを本の世界に引き込むことができるか、読むよろこびを伝えることができるか。キャラクターの息づく世界を想像し、子どもたちの姿を思い浮かべながら、三人で思いの丈を語りつくした。

わくわく文庫ロゴ

社の想い、ユーザーの願いがカタチになった

こうしてできたのが、イントロから朗読、さらに読後感想文のためのフィードバックまで一連の流れを誘導するナビゲーター役のカエル、子どもたちの仲間として共に読むよろこびを味わう男の子と女の子という3つのキャラクターと、それに伴う商品名ロゴだ。教材の中で子どもたちはキャラクターと挨拶を交わし、本の世界を旅し、感じたことを綴る。そしてまた次の読書へとモチベーションを高めていくという。「子どもたちは自分の挑戦に対し、“よくがんばったね”と励まされることを望んでいます。今回の協働では、そんな子どもたちにも、指導される先生方にも、そして私たち社員にも、愛されるものが生み出せたと自負しています。社の想いも、ユーザーの願いもカタチになった。この出会いには本当に感謝しています」と下向氏。今後、キャラクターたちが繰り広げる読書の世界を、さらに「わくわくしたもの」に展開し、理解すること、表現することの楽しさを伝えていきたいと語る。
読むことは「知の原点」だ。「知」とはつまり人間らしく生きること。そして協働とは、人と人が出会い、自らの知をぶつけ合うことで起こる化学反応のようなもの。メビック扇町で出会った三人の知が、未来の小さな「知の芽たち」にそっと寄り添う。そんなやさしい光景が映った。

男の子、カエル、女の子のキャラクター

CA-RIN WORKS

代表 / イラストレーター・デザイナー
中西カツミ氏

https://ca-rin.com/

株式会社日本コスモトピア

代表取締役社長
下向峰子氏

https://www.cosmotopia.co.jp/

しかたこうきデザイン室

アートディレクター
しかたこうき氏

公開:2014年5月15日(木)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。