I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会 Vol.5

IoT(モノのインターネット)・AI(人工知能)って何だ?

第5回を迎えた「I-LABO クリエイターのためのイノベーション創出研究会」。各分野の専門家から各領域の現状や課題を聞き、クリエイターが持つ創造力や課題解決力を活かし、イノベーションの可能性を探る本企画。今回のゲストスピーカーは、長年行政の現場でものづくり中小企業と向き合い、中小企業が有する技術や現場の課題に豊富な知見を有する、ものづくり知好楽 代表 森田誠氏。ものづくりにおける近年のIoT・AIの動向や今後の発展可能性について話題提供を頂くとともに、クリエイターの果たすべき役割や参入可能性について意見交換を行いました。

進化を続けるIoTとAI。
クリエイターはどう向き合う?

2016年はものづくりにおけるIoT元年と言われ、続く2017年はAI元年と言われた。にわかに活気づき世間の耳目を集める両分野だが、専門外の人からは「いまいちよくわからない」との声も。研究会ではまず、「IoTとは?」「AIとは?」という基本に立ち返って森田氏が解説。それぞれの現状や今後への期待、課題を明らかにした。そこから見えてきた「機械とは?」「人間とは?」との問いは、IoTとAIの時代にクリエイターが果たすことのできる役割を示唆していた。

森田氏による話題提供

モノづくりの歴史は人間を真似る歴史

江戸時代に作られた「茶運び人形」をご存知の方も多いでしょう。手に持ったお盆の上に湯呑みを置くと人形が歩き出し、お客様が湯呑みを手にすると振り返って戻ってくるという人形です。この人形は、人類のモノづくりの歴史を象徴しているとも言えます。どういうことかと言うと、「モノづくりとは、人間を真似ること」なのです。茶運び人形では、歩くという動作が歯車をはじめとしたからくりで再現されています。お茶をお客様にお出ししたら戻ってくるという動作も、人間の行動の再現ですよね。茶運び人形以外にも視野を広げてみると、物を動かすための動力も、最初は人間が自分の力に頼るしかありませんでした。それがやがて動物を使うようになり、水力や風力、そしてからくりにあるようなゼンマイを使うことを発明した。「お茶を出して戻ってくる」という動作は茶運び人形ではからくりで再現されていますが、現代のロボットやおもちゃなどでは、コンピュータを用いたプログラミングが制御しています。
AIもこの文脈から考えることができます。人間はこれまで、自分の行動を機械に真似させ、暮らしを便利にしてきました。その先に考えついたのが、自分の「頭脳」を真似させることです。手足や目、耳、口などのモデル化に成功して機械に移し替えてきた人間が、いよいよ「思考パターン」のモデル化にまで挑んでいる。それがAIの開発です。

計算能力の高さから学習能力の習得へ進化を遂げたAI

人間に対するAIの有利性としてまず挙げられるのが、思考スピードの速さです。数限りない計算やシミュレーションを瞬時に行なうことがAIの強みです。ただ、AIが力を発揮するには条件があります。それは、「ルールと目的が明確であること」です。いま話題になっている囲碁や将棋のAIは、「ルールと目的が明確であること」の代表例です。囲碁には囲碁のルールがあり、将棋には将棋のルールがある。明確なルールに則り、「相手に勝つ」という明確な目的がある。だからAIが有効なのです。それに対して自然界を相手にした場合は、まだまだAIは試行錯誤中です。なぜなら自然界には、ルールを無視した外乱が起こりやすいからです。
ただし、この説明も完全ではなくなりつつあります。代表例は、囲碁AIの進化。初代の「アルファ碁」はルールと過去の膨大な棋譜を入力し、そこから必勝パターンを割り出しました。計算能力の高さが強みだったのです。対する後継機の「アルファ碁ゼロ」は、ルールを入力しただけ。代わりに、複数のコンピュータ同士で対戦を重ねたのです。つまりアルファ碁ゼロは、実戦経験を積んで「学習する」という強みを身につけたのです。いま、このような進化がAIの世界で起こっています。

イメージ

活用範囲が広がるIoT

IoTは「モノのインターネット化」と言われます。新しい概念のように思えますが、実はこれは昔からあることです。どういうことかというと、視覚や臭覚、触覚をはじめとした人の五感をセンサで取り込み、手足などの人の動作をロボットなどの機器に伝えているのです。例えば家庭用の掃除ロボットは、視覚や触覚に相当するセンサで部屋の形状やごみのある場所を認知しています。そして、その情報に基づいて自分で掃除場所へと移動しています。新しいのは、センサが得た情報がインターネットを介して集約され、解析を経てロボットへとフィードバックされていることです。このプロセスが加わることで、より効率的・効果的に掃除が行えます。また、解析は「頭脳」の仕事と言えるので、AIが活用される例も増えていくでしょう。
このようなことがさまざまな分野で行われています。工作機械では加工のデータがネット経由で集約され、「より良い加工方法」として機械にフィードバックされます。農業分野では、雨対策や寒さ対策の設備を、気象データと連動させることで収穫に活かすことができます。このように、IoTとは、自動化技術と情報通信技術の集合体です。活用範囲が広くて可能性が大きいので、私はIoTとは、「I(いろんなことに)、O(応用できる)、T(テクノロジー)」だと考えています。
ここで紹介したような技術は、言ってみれば「見守って適切な対処をする」という人間の仕事を機械に置き換えているのです。ですから、監視作業や繰り返し作業の効率化にIoTは期待が集まります。

カギは情報。そこに不安と課題も潜む

期待も集まりますが、いっぽうで、IoTにはまだまだ課題もあります。
まず、人間の五感に相当するセンサの技術が不十分では、情報を思うように集めることができません。その結果、解析やフィードバックという部分の力を発揮することもできません。
情報を集めることにIoTの特色があるのですが、このことに違和感や危機感を唱える声もあります。掃除ロボットの例で言えば、部屋の形状などの情報は、プライバシーそのものです。これを誰かに預けてしまって、本当に大丈夫なのでしょうか。ネットを経由してプライベートな情報を送信するという行為自体も、本当に安全なのでしょうか。
あるいは、フィードバックされた情報を本当に信用していいのでしょうか。もし、誰かが意図的に操作した情報をフィードバックしたら、私たちは知らないうちにその人の意思に従った行動をすることになります。有名な例が、GPSとカーナビです。現在、ミサイルをはじめとして武器の多くはGPSから得られる情報を使って制御しています。紛争が起こった祭、GPSを意図的に狂わせれば、敵国の武器は制御できなくなります。このとき、GPSを活用しているカーナビも狂ってしまい、私たちの日常生活に影響が出てしまうのです。こういったことに対する不安の声もあります。
AIもIoTも、カギを握るのは情報です。情報がたくさん集積されればされるほど、有益な答えを得ることができます。だからこそ、情報の扱いや信憑性といった、技術とは違う倫理面での不安や課題がついて回るのです。

「曖昧さ」を持つクリエイティブの仕事は、AIと対極!?

AIについては、また別の課題もあります。AIはルールが明確なときに力を発揮します。では人間はどうかと言うと、非常であいまいで不確かな存在です。これは、日々ルールが変わっているようなものです。そのため、人間が現在行っているような判断はできないという意見もあります。
曖昧という点では、みなさんのようなクリエイターの仕事とAIは対極にあるという考え方もあります。クリエイティブな仕事に、明確な答えはありませんよね。同じ条件で同じ制作物を作ったとしても、クリエイターさんごとにまったく違うアウトプットが生まれます。そのため、クリエイティブな仕事はAIには取って代わられないという意見もあります。このあたりは後ほど、みなさんの意見もお伺いしたいと思います。

森田氏との質疑応答

A氏(イラストレーター):広告などのデザインに関わる仕事をしています。私はAIのクリエイティブ分野への活用に期待しています。案件やクライアントの要望を解析してAIがデザイン案を出し、修正もAIが行ってくれるようになれば、いいものが効率的に作れるのではないでしょうか。

森田氏:確かに可能性はあるかもしれません。絵画の世界に「黄金比率」というものがあるように、パターン化されたものがあれば、それに従って最適解を見つけてくれるように思います。ただ、技術革新の歴史を振り返ってみると、不便さがイノベーションの原動力になっている面があります。不便な状況を克服しようと、新たな技術を生み出しているのです。となると、AIに頼ることはイノベーションを停滞させることになりかねない。これはクリエイティブの分野も同じではないでしょうか。そういったジレンマを内包することになります。

B氏(コンサルティング):どれだけAIが進歩しようとも、やはり人間にしかできないことはあるように思います。自由に臨機応変に会話することはその代表例ではないでしょうか。

森田氏:そうですね。人間が考えるためのサポーターとしてAIが活用されるかもしれません。シミュレーションなどのデータ解析に基づく「ヒント」はAIからもらい、最終的な「答え」は人間が判断して出すという役割分担です。

C氏(デザイナー):レーシングカーの分野での話なのですが、レース中、膨大なデータが収集されています。集めたデータはメカの改良や車のセッティングに使います。ところが実際は、それらの作業は職人の勘に頼っている部分が大きい。なぜかというと、職人の手作業を機械に置き換える際に膨大な時間とコストがかかるからです。それに、本当にAIが導入されたら、ドライバーやメカニックの腕ではなくて、AIの性能でレース結果が決まってしまう。そんなのおもしろくないです。極端な話、シミュレーションだけで競っていればいいようなものです。

森田氏:おっしゃる通りです。AIもロボット化も、結局は莫大なコストや手間がかかるのです。となると費用対効果の観点から、機械より人間を選ぶことがあります。逆に、それだけの投資体力を持っている企業や組織だけがAIを導入できるという意味にもなります。これも問題をはらんでいますよね。

D氏(プロダクトデザイナー):日本では最近、ビッグデータを企業が活用しやすくなる仕組みが整備されました。問題はないのでしょうか。

森田氏:日本は企業寄りだなという印象はあります。ヨーロッパでは逆に、ビッグデータをビジネスに使うことを規制する法律があるぐらいです。そうかと思えば、ロシアでは画像技術とビッグデータの活用によって、犯罪を起こしそうな人を予測するという技術が導入されています。防犯カメラなどに写った画像から「あいつは万引きをするかもしれないぞ」と特定して、追跡するのです。

F氏(IT企業):いつの日か、暮らしの大部分はAIやロボットが支えてくれ、人間は生活のために働かなくてもいいようになるかもしれません。そのとき、みなさんはどうしますか?

F氏(ウェブ制作):仕事を選びますね。相手の思いや仕事内容に共感でき、「やりたい」と心から思える仕事だけをします。

B氏(コンサルティング):パターンやルールが土台にあるAIが普及すると、かえって人間らしさへの期待が高まるのではないでしょうか。その代表例がデザインです。いま以上に、世の中のデザイン志向は高まるように思います。

森田氏:私もそう思います。コミュニケーションは人間ならではであり、その部分に長けたクリエイターさんたちの仕事は求め続けられるだろうと考えています。

エピローグ

AIやIoTを考えることは、図らずも「人間とは?」を考えること―。そのことに多くの参加者が気づいた今回の研究会。「クリエイターとしての自分らしさとは?強みとは?」を考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。また、AIが政治や経済の意思決定を行なう社会はやってくるかなど、まるで映画やアニメの世界を語り合うようなシーンも。楽しみつつ、哲学や倫理面まで語り合った意見交換の時間となりました。

イベント概要

I-LABO クリエイターのためのイノベーション創出研究会 Vol.5
IoT(モノのインターネット)・AI(人工知能)って何だ?

今話題のIoT(モノのインターネット)・AI(人工知能)って何でしょうか? IoTは「モノのインターネット」と言われますが、「?」という方が多いのではないでしょうか。AI(人工知能)は、チェスや将棋、オセロなどのゲームで、人間のチャンピオンと対戦し勝利し話題になっていますが、人間の思考をコンピュータに置き換えようとする試みです。これらの技術がものづくりのあり方を変え、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか? このような技術が生まれてきた背景と共に考えていきたいと思います。IoT(Internet of Things):I(いろんなことに)O(応用できる)T(テクノロジー)としてまず考えてみましょう。

開催日時

2017年12月19日(火)19:00〜21:00

会場

メビック扇町

森田誠氏(もりた まこと)|ものづくり知好楽 代表

大阪府出身、大阪府の職員として公共職業訓練で製造系科目の職業訓練指導員を約36年間勤め、今年3月末の定年退職を機に個人事業「ものづくり知好楽」を4月から開業。現在、中小製造業の技術支援(人材育成支援・ものづくりの歴史の伝承)、ミラサポ専門家(中小企業庁委託事業とした中小・小規模事業者支援事業)、大東市が実施するD-Biz(創業を含む企業支援)で、ものづくりアドバイザーとして企業支援を行っています。

公開

2018年01月17日(水)

取材・文

ウィルベリーズ 松本守永氏

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それがデザインのできること。

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