クリエイティブサロン Vol.139 布施順一郎氏

成功するプロモーションの仕組みとアイデアを生み出す思考法

139回目のクリエイティブサロンに登場したのはビジネスデザイン&ストラテジックプランナーの布施順一郎氏。
ダスキンの広告本部本部長およびダスキン・デザイニング・センターの初代センター長として、ミスタードーナツやダスキンなどのマーケティングに携わった後、広告会社やドミノピザ経営戦略部門のコンサルティング、大手印刷会社の管理職マーケティング研修、マーケティング責任者などを経て、現在はマーケティング・ファーマシーとして独立し、プランナーとして活躍している。
今回は布施さんのこれまでの実績を振り返りつつ、日本中にインパクトを与えた「金さん銀さん100番100番」のCM制作の裏側や効果的なプレゼン手法、クライアントの要望の上を行くアウトプットをクリエイトする思考法など、多くの経験を通して得た気づきや確立したロジックを語ってもらった。

布施順一郎氏

自己紹介を一通り終えると布施さんは、テーブルの上に用意された付箋に魚の絵と自分の名前を書くように参加者を促した。「なにがはじまるのだろう」という期待感で会場の空気が温まる。全員が書き終え、ホワイトボードに貼り付けると、「答えは後半で」とニヤリ。そして話は布施さんが過去に手がけた作品の解説へ。

ワークショップ

まずはじめに紹介されたのは、1989年に制作したダスキン・ユナイテッド・レントオールのTVCM。ジャズシンガーの阿川泰子さんの美しい歌声をBGMに、ビルの窓からスーツケースがスローモーションで落ちていく映画ワンシーンのような映像が流れた後、まだ知名度が低かった清水ミチコさんによる桃井かおりさんのモノマネで「買ってしまうと邪魔になるのよねえ」というコピー。予算がほとんどなかったことからオンエアは深夜、それもローカル局のみだったにも関わらず「子供が真似をする」とACに苦情が多数寄せられたという。
次に紹介されたのは「金は100歳、銀も100歳」というセリフが印象的なダスキンコールセンターの告知CM。それまでダスキンでは加盟店のスタッフが営業を行っていたが、本部主導型の顧客創造にきりかえるために打ったコールセンターの認知率アップのためプロモーションだ。

「きんは100歳、ぎんも100歳」でコールセンターの認知率が99.9%に。

「きんは100歳、ぎんも100歳」と聞けば、おそらく一定以上の年齢の人なら多くがこのCMを覚えているのではないだろうか。それほどインパクトがあったにもかかわらず、実際にオンエアされたのはクリスマスを過ぎたあたりから1月5日までの短期間。年末年始の短い期間に放送を集中させて一気に知名度を向上させる戦略だ。放送頻度はなんと1分間に3回。その結果ダスキンコールセンターの電話番号である「100番・100番」は見事に国民の脳裏に刻みこまれた。シンプルな構成にしたのは、商品ではなく「100番・100番」の認知度にフォーカスしたことと、ご高齢の金さんと銀さんの負担にならないよう配慮したためだ。
結果は成功に終わったが、オンエアまでにはさまざまなハードルがあった。まず第一に、万が一、放送期間内に金さんと銀さんになにかがあった場合、差し替えなければならないというリスク。広告代理店には「その場合、責任はとれないので、我々としては制作を受けられない」と言われた。さらに高齢者を採用することで親近感のある企業イメージが損なわれるかもしれないという危惧もあった。「自分だけでは判断はむずかしいので、各広告担当者の意見を聞きたい」そう考えた社長は社員を集め、意見を募ったところ、「受け入れられるよりもリスクの方が大きい」と答えた社員が一人もいなかったため、制作がスタート。オンエアに合わせて元旦の5大新聞に全面広告を展開した。数件の苦情はあったものの、1992年のACC賞TVCM部門で金賞を受賞し、ダスキンコールセンターの認知率は1月末に99.9%まで向上し大成功を収めた。
また、布施さんはこの後も数々の広告を手がけ、1998年のダスキン信頼回復のための新聞広告では東京新聞社賞銀賞を受賞。携わるものが次々に評価された。

作品
1998年度東京新聞社賞銀賞受賞

プレゼンで相手の首を縦に振らせる提案方法

1990年代、日本でも加速度を増してグローバル化が進む中、ダスキンのロゴをカタカナからアルファベットに変更する案が出た。ちょうどその頃、江坂駅前に自社ビルを建設することになっており、布施さんは社員が駅を降りてビルを見上げた時に「ここに勤めていてよかった」と思えるような新たなロゴを作ってビルに設置したいと考えていた。そこで500枚のカンプを制作。500枚すべてをチェックしていた時にあることに気づく 。左右をビジネス(Business)軸と人(People)軸で結び、上下をインテリジェント(Cool)、パッション(Hot)で結んだマトリックスの「パッション」「人」領域のデザインが一枚もなかったのだ。企業として本質的に何を伝えなければいけないのか。それを考えた時、サービス業である限り自分たちのパッションを訴求したいと考えた布施さんはクリエイティブ・ディレクターに「サービス業として“人”を中心に表現したうえで、熱意や情熱を表すロゴを制作してほしい」と依頼。 「i」の文字は人とパッションそのものを表し、働く社員が情熱を持ってサービスを届けているという思いを込めた。最初はロゴの刷新に乗り気でなかった社長もデザインを気に入り、役員会では会長や役員達から拍手が起こるほど賛同を得た。そのときに生まれたロゴは今も本社ビルの壁面で存在感を示している。
布施さんはプレゼンをするとき、基本的にテーゼ(肯定)、アンチテーゼ(否定)、ジンテーゼ(総合・否定の否定)の3案を考えるという。初回のプレゼンでテーゼ、アンチテーゼと両極端な2案を提示し、否定をされることで基準となる杭を打つ。その範囲内の3案目がクライアントに有無をいわせない提案になるというのが布施さんの考えだ。新ロゴの提案で社長の首を縦に振らせたのもこの手法によるものだ。

クリエイティブに必要なのは論理性とエビデンス

90年代前半はミスタードーナツの「スクラッチカードキャンペーン」と「原田オサムシリーズ」のノベルティーが大きな注目を集めた。1回3週間程度のキャンペーンでスクラッチカード4500万枚を印刷し、傘や弁当箱などのノベルティーは250万個を製作するという大規模なプロジェクトだ。そんな中、さらなる若年層の取り込みと、ミスドブランドのさらなる浸透を目的に、キャラクターを立てることになり、当時の担当部長は所ジョージ氏を提案。しかし、役員会で氏のイメージがミスタードーナツに合わないと却下された。所ジョージ氏に対する役員の意見は「素行が悪そう」「好きになれない」など大半が「主観的・絶対的基準」だったため、担当部長は、好き・嫌いや正・誤という「主観的基準」ではなく、必要か不必要か、有効か無効という「客観的基準」を以って、「ミスタードーナツの将来にとって所ジョージ氏がいかに有効で必要なキャラクターであるか」を次の役員会で説明。「論理的にまとめ、エビデンスを持ってどのように説得できるストーリーを考えるのがプレゼンテーションの本質」布施さんはそう語った。

思考の癖を知ることで行動につなげるクリエイティブが実現できる。

ここで、前半に書いた魚の絵のタネ明かしがされる。ホワイトボードに並んだ絵を確認すると15枚が左向きの魚、2枚が右向きだった。少数派の2人になぜ右向きで書いたのか尋ねると「流れでなんとなく描きやすかった」「理由はない。なんとなく」との回答。社内コンサルティングも行う布施さんいわく、右向きで描く人は全体の約16%。常識にとらわれない自由な考えを持っているケースが多いとのことで、このテストは人材募集などにも使えるそう。さらに、全く同じ2枚を反転させた顔の絵が映し出され、人が人に相対した際、相手の顔の左半分に視覚反応を示すことを立証。さらにアメリカのYahoo!のアイトラッキング調査ではユーザーの多くが左上から逆N字の順に視線が動くことがわかった。そういった思考の癖を知ることが効果的なクリエイティブのヒントになるという。
「プロモーション・プランナーとして思うのは、行動につながるクリエイティブと情報が拡散する・つながる仕組み、これらの要素が揃ったプロモーションは間違いなく成功する、それが私の考えです。」布施さんのそんな言葉で会は幕を閉じた。

イベント風景

イベント概要

クリエイティブサロン Vol.139 布施順一郎氏
オリエンにおけるクライアントの本質

これまで大手企業の広告部門の責任者として広く活動されてきた経験を踏まえ、クライアントが行うオリエンの背景に潜むその本質を、提供された表層的な要素(素材)からいかに推察するか、見抜くための方法を伝授するとともに、クライアントが気づいていないアウトプットをクリエイトする思考法についてお話しします。

開催日時

2017年11月20日(月)18:30〜20:00

会場

メビック扇町

布施順一郎氏(ふせ じゅんいちろう)

株式会社ピーバイエー / ビジネスデザイン&ストラテジックプランナー
元株式会社DUSKIN広告本部本部長。DDC(ダスキン・デザイニング・センター)を設立し、初代センター長として、主に「金さん銀さん100番100番CM」等のTV/CMや新聞広告制作、新ロゴ制作と全社VIアプリケーションの管理、ミスタードーナツをはじめとする「全事業FCパッケージ」の制作、各事業のマーケティング・サポートやマッキンゼーPJTの流れで大前研一氏と全社の経営戦略を立案、各事業本部の中期経営計画等を統括してきた。2007年に広告会社に転職。ドミノピザ経営戦略部門のコンサルティング、大手印刷会社の管理職マーケティング研修、マーケティング責任者として各企業の新規顧客開拓に向けたプロモーション企画等に取り組む。2017年マーケティング・ファーマシーとして独立し、現在に至る。
株式会社ピーバイエー

公開

2017年12月25日(月)

取材・文

N.Plus 和谷尚美氏

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