マスコミが飛びつく“ネタ”の作り方、オモテもウラも教えます。
クリエイティブサロン Vol.123 上谷信幸氏

テレビをはじめとしたマスコミやSNSなどを通じて広がる、情報拡散の力はかつてないほど強いものになっている。そんな時代において、世の中が飛びつき、口にせずにはいられないような話題作り、すなわちPR活動に期待が集まっている。この分野の第一人者であり、最小限の費用と労力で最大限の効果を生み出すことに定評がある上谷信幸氏が、具体的かつナマナマしい話を惜しみなく披露してくれた。

上谷信幸氏

PRの基本は、ウソはつかないこと。(すべての事実を語るとは限りませんが……)

「この写真を見て、みなさんは何を考えます?」

スクリーンに表示された写真とともに、こんな問いかけから始まった今回のクリエイティブサロン。映し出されたのは、駅前にある居酒屋さんの外観写真だ。

この問いに対して、会場からはさまざまな意見が出された。そのうえで上谷氏は、「俺なら『朝獲れ』って言葉を見て、『朝獲れって、いつの朝のこと?』って考えますね。この言葉には、PRの基本が詰め込まれているんですよ」と言い、その理由を語り始めた。上谷氏の解説はこうだ。

居酒屋さんの看板に書かれた朝獲れという言葉から、ほとんどの人は「その日の朝に水揚げした魚を使っている。この店の魚は新鮮でおいしい」と考えるはずだ。ただ、看板は「いつの朝」かまでは言っていない。お客さんの想像どおり「今日の朝」かもしれないし、そうではなく、「昨日の朝」かもしれない。もしかすると先週の朝に水揚げした魚を冷凍しているかもしれない。「朝に水揚げした」ことは事実であり、ウソは言っていないが、「いつの朝」というすべての事実までを語ったわけではないのだ。

「商品やサービス、あるいは自分自身を知ってもらいたい、有名になりたいという願いをかなえるのがPR会社の仕事。私たちはこの目標を実現するために、みんなが注目するような“ネタ”を考え、世の中に向けて発信していきます。このときの基本は、ウソをつかないこと。でも、ウソをつかないからといって、『すべての事実を言う』わけではない。朝獲れが『いつの朝か』を言っていないのが、まさにこの状態です」

コンテストの様子
2003年に上谷氏が考案したお好み焼きのレシピコンテスト「TEKO-1GP(てこわんグランプリ)」。2010年には第2回目が開催された。

真面目に考えたって、魅力が生まれるはずがない。(ホントは徹底的に真面目に考えてますが……)

冒頭から繰り出されたPR活動の裏舞台の様子に、狐につままれたような参加者と、「なるほど!」と膝を打つような思いの参加者が入り乱れる会場。ここからはさらに具体例を交え、世間の耳目を集める方法が披露されていった。そのいくつかをここでも紹介しよう。

<モノはいいよう>
シェアハウスのPRを依頼された上谷氏。物件は最寄り駅まで徒歩18分と、立地条件は最悪。建物にも格別の魅力があるわけではない。「こんな物件、誰が住みますの」と頭を抱えていたときに上谷氏が発案したのが、「体重連動型家賃」。すなわち、ダイエットして体重を落とせば落とすほど、家賃も下がるというもの。

「ユニークな家賃システムが話題を呼んで、マスコミから取材が殺到。入居者も確保できました。こうなると徒歩18分は、『ダイエットにはちょうどいい距離なんです』という、セールスポイントになる。というか、モノは言いようですね。弱みだった点を強みだと捉えなおしてみるんです」

<マニアは最強>
依頼主は文具店。お店で扱う商品の特色やお店の強みをヒアリングしてみたが、「普通です」「よそと変わりません」との答えが返ってくるばかり。「話題にできそうなところがまるでない」と諦めかけていたときに、上谷氏はあることに気がついた。それは、店主が文具に対するありとあらゆる質問に答えてくれたことだ。

「尋常じゃないほどの文具マニア、文具フェチでした。そこで彼を、『文房具ソムリエ』と名づけてテレビ局に紹介したんです」

便利な文具やユニークな文具、ストーリー性のある文具など、文具ソムリエの力を借りることでテレビ局は視聴者受けのいい番組を作ることができるようになった。メディア露出が高まることで、必然的に文房具ソムリエの店も繁盛するように。「普通の店」が、唯一無二の「特別な店」になったのだ。

ラーメンローン導入店
2014年には、日本初の「ラーメンローン」を開発。2014年ラーメン新聞・最優秀ラーメン大賞を受賞した。

<真面目に考えない>
次々に“ネタ”を繰り出して話題を集める上谷氏。中には、不真面目ととらえられかねないものもある。その真骨頂とも言えるのが、飲食店で導入した「ツル割」「ぽっちゃり割」「コドク割」。すなわち、髪の薄い人、ぽっちゃりした人、お一人様を対象とした割引制度だ。通常なら「それはふざけすぎ」と言われて却下されそうなアイデアだが、上谷氏はひるまない。

「ふざけたことだから誰も実行しないし、誰も実行しないから話題になる。話題になれば人が集まり、店や会社が繁盛する。私としては求められた仕事の完了です。このゴールに向かって、最短で走れる方法を考えているにすぎません」

ふざけているように思える上谷氏の手法だが、この言葉が表わすように、根底には「プロとして、期待された役割を完遂する」という思いが潜んでいるのだ。

客と自分が良ければそれで良し!(結果として、世の中にもいいことにつながってますが……)

新しいもの、おもしろいものを求められ続けるのはクリエイターにとって、逃れることのできない運命のようなもの。次々に披露される上谷氏のユニークなアイデアに、参加者からは「どうすればそんなにアイデアが浮かんでくるのか?」という質問が寄せられた。

「なんで? 誰が決めたん?っていつも考えているんです。例えばたこ焼きはほとんどが8個入り。あれってなんで?という具合です。理由がわかれば、それを応用して新しいものに作り変えることもできる。言い方を変えておもしろいものにすることもできるんです」

この答えに納得しつつも、「それでもときとして、行き詰まってしまうことがあるのでは?」とさらなる質問を寄せる参加者。上谷氏流の打開策は、まずはそれまでのイメージを捨てて、まったく違う方向から考えることだという。また、異質なものを組み合わせてみるという手法も有効だとか。

「鍋焼きうどんが食べられるサウナっていうのがありました。あれはおもしろかったですね。『やられた!』って思ったのは、カーテン付きの観覧車。観覧車に乗って景色を見ないで、何をするんだって話なんですけど、だからこそ話題になるんですよね。まったく違うもののコラボはいい手ですよ」

そしてもう1つ寄せられたのが、「自分のアイデアが否定されたときはどうするのか」という、クリエイターなら誰もが気になる質問だ。それに対する上谷氏の答えは「自分のアイデアを捨てて、相手に従う」というあっさりしたものだった。

「相手のアイデアだって、いいものは使えばいい。個人的な変なこだわりのせいでいいアイデアを捨ててしまい、結果としてお客さんの期待に答えられなかったら本末転倒です。俺は、お客さんが良ければそれでいいと思っています。あとは自分の会社ぐらい。『世の中みんなのために』なんてウソ臭くて嫌いです。クリエイターもそうじゃないかな? みんなに好かれようとするからしんどくなる。『この人には!』と思う人だけのことを考えて、その人のために全力を尽くせばいい。そのほうが、結果的にはより多くの人の満足につながると思いますよ」

ふざけているように見えて、徹底的に考えている。お客さんのことだけをと言いながら、実は社会にきちんといい影響をもたらす。うそぶきつつも“プロ”の仕事ぶりを垣間見せてくれた上谷氏の言葉は、参加者たちに「あなたはどうですか?」という鋭い問いを投げかけてくれているようだった。

会場風景

イベント概要

有名になりたきゃ、金を出すより頭を使え。
クリエイティブサロン Vol.123 上谷信幸氏

300万の予算で、1億円以上の費用対効果を生む方法を伝授します。2003年度日本最優秀公募コンテストに輝いた「テコワンGP」や、2004年度「一生食べ放題!お好みアタック」、2007年度「2000万円の報酬!おかんドリーム」が誕生するまでの秘話をお話しします。

開催日:2017年03月02日(木)

上谷信幸氏(かみたに のぶゆき)

株式会社ラプレ

1972年(昭和47)大阪府枚方市生まれ。現在、地元大阪を拠点に各種イベントや、インターネットコンテンツのプロデュース・企業PR支援事業等を手がける株式会社ラプレの代表取締役でイベントプロデューサー。2003年度に、自ら考案したTEKO-1GP(てこわんグランプリ)が、日本公募イベントNo1の称号を得て日本一のプロデューサーの仲間入りを果たす。なぜか自作曲「たこやきのうた」が韓国で大ヒットを記録し、音楽プロデューサーとしても活躍。イベントの企画・運営・プロデュースのノウハウを活用した分かりやすい企画には、各企業や団体から絶大な定評があり、浪速の名物プロデューサーと新聞では書かれることもある。最近では、上海万博で日本産業館のPRソングなども手掛けて、2009年12月には、ドイツ・フランクフルト日本総領事館に呼ばれて、ドイツ、フランクフルトではじめて「たこ焼きパーティー」を開催して、フランクフルト州の首相やVIPの方々に絶賛される。2010年、NHK全国放送の「日本の、これから」、関西ローカルの数多くの番組にも出演して、注目を集める。

http://www.raple.co.jp/

上谷信幸氏

公開:
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。