身体感覚こそ、映像づくりの勘所
クリエイティブサロン Vol.81 瀬戸陽介氏

デザイン、モーション、音響とさまざまな技術を駆使して視聴者にメッセージを訴える映像の世界。テレビCMであれば、わずか15秒の間に、視覚、聴覚に働きかけ企業や商品の情報、イメージを伝達する。
80回目を迎える今回のクリエイティブサロンは、こうしたテレビCMからCG、アニメなど、映像制作全般を手掛ける、はなよめ映像事務所の瀬戸陽介氏をゲストに招き、「気持ちいい映像のつくり方」についてお話を伺った。
実際の映像を眺めながら、氏の映像に対する考え方や具体的な撮影技術が語られた約2時間。とりわけ、この日は空撮に用いられるドローン(カメラ搭載型の小型無人ヘリコプター)のデモ飛行を行うとあって、映像関係者やドローンに興味を持つ参加者らが多数集まり、瀬戸氏の実演に熱いまなざしを注いだ。

瀬戸陽介氏

その場の空気を伝える、ドローンによる空撮映像

サロン開始早々、会場のスクリーンには、瀬戸氏がドローンで撮影した和歌山県新宮市の自然の風景が映し出される。水しぶきを切って波間を走る爽快感、海の上を太陽めがけて突き進む高揚感、緑に囲まれた山頂から里山を見下ろす開放感。まるで、その場の空気が実感できるような映像が、参加者らに新宮市の魅力を語りかける。
2014年、映像プロデューサーの古川英樹氏、福本友樹氏から依頼を受けて撮影したこの映像は、クリエイターが思い出の町を冊子や映像にまとめ紹介する「マチオモイ帖」への出展作品。瀬戸氏は撮影当時の思い出を振り返りながら、実際に会場でドローンを飛ばし、空撮技術について解説し始めた。
撮影は、目的や場所に応じてサイズ、性能の異なる数タイプのドローンを駆使し行う。操作には高い集中力を要し、はるか100m先の空中を舞うドローンを、実際に目で確認しながらコントローラーにより遠隔操作するのだ。一応、手元に置かれたモニターから、撮影映像は映し出されるものの、それだけでは障害物との位置関係が掴みにくいため、どうしても目で位置確認しながら撮影する必要がある。
「さらに撮影中は、イメージ通りの軌道を描きつつ、なおかつ、ファインダーを通して被写体の撮影範囲と構図を同時に決定しなければいけません。とにかく集中。集中の一言です」と瀬戸氏。リモコンを操作しながら、自身の思い描く映像を撮ることがいかに難しいかが想像できる。

わたしのマチオモイ帖出展作品「新宮帖3」

大阪芸術大学入学を機に出合った映像の世界

瀬戸氏と映像との出合いは大阪芸術大学入学の時。写真、映画、音楽、考古学、民俗学……と多方面に芽生えた興味を全て網羅できると、映像学科を専攻した。
在学中は、授業でフィルム映画の制作に取組む傍ら、趣味の世界に没頭する日々。
「1990年代当時は、歌詞がなくひたすらビートを刻むクラブミュージックが流行していました。僕は、DJがその場の雰囲気に合わせて瞬時に音楽を選ぶように、音楽に合わせて即興で映像を流すVJにはまっていました。音楽と映像が呼応する心地よさや、映像を出すテンポによってその場が高揚していく感じがたまらなく楽しかったのです」
さらにもう一つ、瀬戸氏の現在の活躍の礎となっているのが、映像会社に就職した2005年頃に興味を持ったラジコンヘリの操縦である。これは、おもちゃのラジコンと異なり、スティックの操作により自由に機体を動かすことができる。
「以前は、ラジコンヘリと言えば非常に高価なものでしたが、ちょうどこの頃、中国製の安価なものが出回り、若い僕らでも手が出せるようになったのです。お陰でラジコンヘリの操作が身に着き、3年前仕事でドローンを導入した時も、割と早く使いこなせるようになりました。集中してドローンから視点を外さないための技術は、このラジコンヘリによって培われたと思います」

ドローン実機で説明をする瀬戸氏

自分の身体と会話しながら、他の五感に変換する

現在は5名のスタッフと共に、名だたる企業や団体の映像制作に励む。そうした際、瀬戸氏が常に意識しているのが、“映像の気持ちよさ”である。この“気持ちよさ”とは、身体感覚に響くということ。
「僕は、映像とは、動きによる気持ちよさが重要だと思っています。気持ちいい映像には、感性に訴えかける力があり、理屈抜きにスッと心に納まるものがある。例えばCMで流れる企業ロゴのモーション。たった一瞬のこの映像が、言葉では発信しきれない企業イメージを伝えられるのは、人間の身体感覚にピッタリくる気持ちよさがあるからだと思うのです」
だからこそ、自身の映像づくりにおいても、その感覚を非常に大切にしている。「例えば企業ロゴのモーション映像をつくる時、僕は『シューッパッ!』とか『ツブツブツブツブ……』とか、映像の動きをずっと言葉にし続けます。映像を見ながら自分の身体と対話し、音に変換するのです。音のある映像は、間違いなく気持ちいい」
瀬戸氏にとって映像づくりは、視覚情報である映像を、身体感覚を介して他の五感に変換する作業。大学時代から常にこのスタンスを貫き映像制作に向き合っている。
さらに、「ドローンを使った空撮も同じことです。まずは自分自身の気持ちいいという感覚が一番。僕は、機械を操作するというより、自分が空を飛んでいる感覚で撮影しています。機体と一体化し『気持ちいい』を意識すれば、難しいリモコン操作も自然とうまくいきます」と、会場に向けアドバイスを贈った。

その後、サロンも終盤に差し掛かり、いよいよ参加者お待ちかねのドローンのデモ飛行へ。この日使われたのは、全長約500mm、重量1400gのクアッドコプターというドローン。ブーンという音と共に宙に浮かびあがると、会場の様子を鮮明にスクリーンに映し出した。その一部始終を、スマートフォンなどで熱心に撮影する参加者たち。サロン終了後も、瀬戸氏が持参した小型ドローンの操作体験に大勢の人が列をなし、実践を通して、瀬戸氏が語る「気持ちいい映像のつくり方」を体感した。

スクリーンに映るドローンが撮影した会場の様子

イベント概要

きもちいい映像のつくり方 ~広告、アニメ、ドローン~ 映像の身体感覚
クリエイティブサロン Vol.81 瀬戸陽介氏

CM、VP、企業モーションロゴ、TVアニメ、映画VFX、VJ、ゲームオープニング、ドローン空撮など……。
様々な領域の映像制作に携わるなかで感じる映像の持つ“身体感覚”の重要性。
そんな話を交えつつ、広告について、CGについて、アニメについて、空撮について等、私なりの考えと簡単な作り方をハウツー的にお話できたらと思っています。
また空撮実機のデモも予定しています。

開催日:2015年07月13日(月)

瀬戸陽介氏(せと ようすけ)

はなよめ映像事務所 代表

岐阜県出身。はなよめ映像事務所代表。
大学で美術、映像を学んだ後、映像制作会社を経て、2009年にクリエイター数人で「はなよめ映像事務所」を立ち上げる。
VP、CM等の各種プロモーション映像、モーションデザインやアニメーション制作の他、ラジコン空撮等も手がける。
主な参加作品:チョーヤ梅酒モーションロゴ、TVアニメ『めだかボックス』デジタルワークス、関西サイクルスポーツセンターアニメCM等
放送芸術学院専門学校 講師

http://www.hanayome-office.com/

瀬戸陽介氏

公開:
取材・文:竹田亮子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。