これからのクリエイターに必要なプロデュース力
クリエイティブビジネスフォーラム 日本ディレクション協会関西支部×メビック扇町

今回のフォーラムは、「これからのクリエイターに必要なプロデュース力」と題し、「日本ディレクション協会関西支部」との協働企画として開催された。第1部の基調講演で登壇するのは、今最も熱い注目を集めるウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」のメンバー。同集団が手掛ける最先端のプロデュース事例を紹介しながら、「チームラボが考えるプロデュース力」について語っていただいた。続いての第2部は、関西を中心に活動する各界のプロデューサーが加わってのトークセッション。日頃、クリエイティブの現場で感じる様々な問題点や悩み、また目指したい方向などに関して活発な意見交換がなされた。

イベント風景

第1部 基調講演:チームラボが考える「プロデュース力」

堺大輔氏

堺大輔氏

チームラボ株式会社 取締役

椎谷ハレオ氏

椎谷ハレオ氏

チームラボ株式会社 カタリスト
京都精華大学ビジュアル共創デザイン研究員

先端を突っ走る異能集団は、化学反応を促す「触媒」に支えられている。

椎谷ハレオ氏

椎谷氏

チームラボでは現在ものすごく多くの作品を“連発”しているわけですけれど、どのようにしてそれが可能になっているか、実際社内で起きていることをお話しさせていただこうと思います。実を言うと、今日のテーマである“プロデュース力”を否定するような話にならないか心配ですけどね(笑)。
それともうひとつ、チームラボではプロデューサーやディレクターといった肩書を持った人はいません。そういう役割をする人を「カタリスト」と呼びますが、なぜそういうものに落ち着いたかということについても事例を交えながら紹介します。

堺大輔氏

堺氏

まずは自己紹介から始めさせていただきます。チームラボは今年で創業13年目になります。創業当時はWebができる会社はそう多くなかったですが、僕たちはその頃からテクノロジーとクリエイティブの両方をやっていこうと考えていたんです。テクノロジーだけ、クリエイティブだけ、というどちらかだけでは世界で戦っていけないなと。両方を融合させながら新しいものができていくと考えていました。現在は350人の専門集団になりましたが、職種も実に多様で、エンジニア、プログラマー、デザイナー、アニメーター編集者や変わったところでいうと数学者とか建築家、日本画を描く絵師といった職種まで、ありとあらゆる人材が集まってきています。

イベント風景

チームラボによる最近のプロデュース事例

事例1「学ぶ!未来の遊園地」

子どもたちがデジタルテクノロジーを使って、絵を描いたり体を動かしたりしながら、共同で創造体験ができる空間。たとえば、自分が紙に描いた魚の絵が、巨大スクリーンに映し出された水族館の水槽画面の中で泳ぎまわる「お絵かき水族館」、テーブルの上に置いた積み木の間に次々と線路が映し出されてつながっていく「つながる!積み木列車」など、様々なアトラクションを体験できるイベントとして国内外各地で開催している。

事例2「元気ハツラツ!360度スタジオ」(「オロナミンC」のプロモーションイベント)

カメラアングルが360度回転する体験型撮影スタジオを都内3か所に導入。3DCGで作られた架空空間で動画を自動生成し、またアングル回転中の空間に立体エフェクトを合成。体験者はそれをSNSなどでシェアできるという参加型イベント。

事例3「願いのクリスタルツリー」

スマートフォンなどでリアルタイムにコントロールできる立体映像システムを開発し、立体ディスプレイがインタラクティブにアニメーションすることを可能にした、動く立体の光のクリスマスツリー。商業施設などの空間にLED数万個を使ったクリスマスツリーを作り、居合わせた人がスマートフォンでオーナメントをスワイプするとツリーにデコレーションされるという仕組み。

事例4「The light orchestra with Pepper」(ソフトバンクによる「Pepper Tech Festival 2014」にて)

ソフトバンクの感情認識パーソナルロボット「Pepper」の 開発者向けイベントで、観客参加型のショーを演出。イベント会場で専用アプリを使用すると、スマートフォンのフラッシュライトの光と音が制御され、「Pepper」の指揮に併せて点滅し音が鳴り、「Pepper」はそれぞれの音を鳴らしながら光で線を描いて演奏をしていくというもの。

イベント風景
堺大輔氏

堺氏

これらの事例はどれも、クリエイティブの表面はとても楽しかったり美しかったりするものですが、裏でたくさんの要素の技術が走っていて、それでこういう新しいことができるわけなんですね。ところが実際に社内に、これらの技術を全部わかっている人がいるかというとそうではなく、特定の技術のスペシャリストがいるというわけでもないんです。すべては、創りながらみんなでわかっていくという感じです。まず、こうしたいというコンセプトから落としていくのですが、そのためにどうするか、それぞれの専門性を持ったメンバーに聞きまくりながら、試しながら創っていくというような感じなんです。

椎谷ハレオ氏

椎谷氏

今ご紹介した事例はほんの一部で、会社としてはめちゃめちゃ多岐にわたったことをやらせてもらっているし、アウトプットも創業以来どんどん変化していっています。そんななかで、プロデューサーとかディレクターとかいう旧来の職種では、役割を果たせないような状況になってきているんですね。ですからうちでは、みんながやりたいことをなんとかして達成させる役割として、僕たちのようなカタリストという職種が生まれたんです。

堺大輔氏

堺氏

ディレクターってDirectつまり指示する人っていう意味だと思うんですが、20世紀だと技術ってそんなに急変しなかったと思うので、キャリアを積み重ねていった人が“指示”もできたと思います。でも、日々技術が動いていて、全部わかっている人は皆無というような今の状況で、必要なのは“触媒”なんじゃないかなと。チームラボでいうカタリストはそれなんですよ。その人が入ることによって、メンバーの反応がより大きくなるような、そのためには何でもやる人、という位置づけですかね。
プランナーやディレクターやプロデューサーだけがものを考える人なんじゃない。僕たちの考えるプロデュース力というのは、自分が先頭に立ってぐいぐい引っ張っていくというのじゃなく、周りを巻き込みながら、わからないことはどんどん聞いて一緒になって手を動かしながら考えていくということだと思います。

椎谷ハレオ氏

椎谷氏

この人たちを集めればこれができるかもしれないと寄せ集めてきて、時にはモチベーションを上げる役もするし、お客さんとの折衝もする。必要ならみんなの御用聞きもやるという具合に、あらゆることをして目的達成にもっていく役割ということですね。

イベント風景

基調講演の最後に、チームラボプレゼンツでワークショップが行われた。
参加者はスマートフォンで専用サイトにアクセスし、「海外旅行の経験回数は?」といった質問に答えることでグルーピングされ、その後数々の「お題」に答えることでグループ特性を類推するなど、ユニークで実験的な体験が会場を沸かせた。

第2部 トークセッション:クライアントを感動させるプロデュース力

イベント風景

スピーカー

堺大輔氏

堺大輔氏

チームラボ株式会社 取締役

椎谷ハレオ氏

椎谷ハレオ氏

チームラボ株式会社 カタリスト
京都精華大学ビジュアル共創デザイン研究員

木村幸司氏

木村幸司氏

STARRYWORKS inc. 代表取締役社長

中間じゅん氏

中間じゅん氏

1→10design ディレクター
日本ディレクション協会関西支部所属

森内章氏

森内章氏

株式会社ロフトワーク 烏丸 エバンジェリスト
ディレクター

米田蓮治氏

米田蓮治氏

株式会社ルート・シー企画 制作部ディレクションチーム
日本ディレクション協会関西支部所属

司会

藤井梨恵氏

日本ディレクション協会
NPO法人クリエイター育成協会
合同会社WIRE FRAMES

仕切り型は古い?
メンバーの能力をフル発揮させるのがプロデュース力

藤井氏

本日のテーマであるプロデュース力についてですが、そもそもみなさんがお考えのプロデューサー像、プロデューサーの仕事というとどんな印象ですか?

椎谷ハレオ氏

椎谷氏

僕はチームラボに参加する前はTV業界にいましたから、いわゆるプロデューサーはたくさん見てきましたよ。ひとくちに言えば、お金、クライアントとのつながり、政治的な調整をする人ということになるのでしょう。でも今はまわりには全くそういう人はいません。

木村幸司氏

木村氏

僕の仕事現場では、比較的大掛かりな広告キャンペーンの案件ではそういった立場の方がいますね。その案件の目的や結果などに責任を取る人。ただ、TVやイベント等が絡まないWebサイトのみの案件の場合、プロデューサー専任の方と会うことはあまりありませんね。

森内章氏

森内氏

肩書としてのプロデューサーというのはさておき、プロデュース力というのはあった方が仕事が楽しくなるものだと思っています。一言でいうと、受け身にならないことがプロデュースに必要なことかなと。

中間じゅん氏

中間氏

私の前職の映像業界では、プロデューサーってお金の管理とお客さんとの折衝に特化した人というイメージでしたが、Web業界に来た今は雰囲気が違うと感じています。チームとの接し方がフラットな感じがしています。

米田蓮治氏

米田氏

一般的な印象からいうと、自分ありきで企画をする人がプロデューサーなのかな。その企画ありきでスポンサーからお金を集めてチームを組んで、総合力で形にし、予算以上のことをコミットできる人というイメージ。自分のなかでは、自分ありきの企画ではなくお客様からの課題や予算があり、そこからどう解決するかという立ち位置なので、一般イメージとは違うと思っていますが、予算以上のことをコミットするという点では肩書の呼び名こそ違えど同じ目的を持っているのかなと思います。

イベント風景

セルフプロデュースという観点がブランド価値を生む。

藤井氏

実際の仕事現場ではどんな風にものづくりをされているのでしょうか。

椎谷ハレオ氏

椎谷氏

今“プロデュース力”で検索すると、いろいろな意味が出てきますが、面白いところでは、“惚れる”とありました。何か惚れ込んで、そこに価値観を持たせてブランディング化するというようなことがかいてありますね。

米田蓮治氏

米田氏

自分が創ったある採用関係のWebサイトで、キャッチコピーとして“仕事を私事にする”と書いたんですね。これは自分でもいつも思っていることで、私事=自分のこととどれだけ捉えられるかでドライブがかかりやすいのかなと感じます。

中間じゅん氏

中間氏

特定の人だけがプランニングをするのではなく、案出しをみんなでというのを積極的にやっています。ディレクター脳だけで考えてもなかなかブレークスルーしないので、テクニカル系の人とかデザイナーとかみんなで考えていくとすごく楽しいです。

森内章氏

森内氏

仕事を自分事に、というのはすごくいい考え方だと思います。クライアントからの要望をただ形にするのではなくて、自分たちが持っているブランドを掛け合わせるという提案を増やしています。そういうプロジェクトだと半分は自分たちのブランドのための仕事になるという考え方です。

椎谷ハレオ氏

椎谷氏

チームラボでは最初デジタルアートを始めたとき、伊藤若冲をデジタル屏風にした頃ですが、社会からは何やってんだコレ?と思われていた時期がありました。で、10年ぐらいたってやっと社会性が出てきたみたいなところはありますよね。それって、プロデュース力と何か関係あるんですかね?

堺大輔氏

堺氏

ええっ、すごい振りですねぇ(笑)。まぁでも、僕らはいつも、チームラボらしさみたいな、軸を生み出そうとしているわけです。クライアントワークを解決することはもちろん重要ですが、そこになにかしら味をつけることでチームラボというブランド自体をプロデュースして、結果としてお客さんに評価されてきたと思いますね。若冲の件も、結果的に理解されたと思いますが、あれはとにかくしつこくやりましたね。しつこいというのは超重要だと思うんです。やり続けると評価されるというか。

木村幸司氏

木村氏

プロデュースする能力というのは職種にかかわらず必要なものだと思います。その仕事が、どういうふうにクライアント利益や価値につながるのか、認知が広がるのかという風に、デザイナーやプログラマーや、かかわる人みんなが気持ちを持って考えて動くことがいい結果が得られるのかなと思っています。

堺大輔氏

堺氏

うちの内部でも、どれだけ最先端の技術を駆使する案件でも、先ほどの遊園地の事例なんかでは、子供たちがどれだけ満足したかということをエンジニアもみているんです。結果的にはそれがプロデュース力だなと思うんです。

藤井

プロデュース力を問われると思われた瞬間とかはありますか?

椎谷ハレオ氏

椎谷氏

くじけないことですね。ネガティブにならないこと。とにかくしつこく理解してもらうこと。ポジティブに盛り上げることですね。

木村幸司氏

木村氏

Webの仕事って、創った人の顔を見られることは少ないので、できるだけ積極的に開発者を連れていって見させたりして、モチベーションを上げる努力はしている。

森内章氏

森内氏

発信をどんどんしている。クライアントもそこに乗っかってもらう形になるが、広報には力を入れています。何をやっているかアウトプットすることは、外に対してのアピールになるし、内に対してもモチベーション向上につながっていくんですね。

米田蓮治氏

米田氏

違った職能のスタッフが集まってやることですから、制作の期間中で、そのソリューションを何のためにやっているのかをということを見失わないようにしてもらうことが大事かなと思います。そのために、今開発のどのフェーズにいるのかなどのワークフローを図式化して、もちろんクライアントも一緒に共有することをやってます。またあわせて、かかわるメンバー全員の役割も見えるように図式化しています。役割としてディレクターという立場もいますが、決してピラミッド型の組織ではなく、場面によって誰が前に出ていくか、例えばデザインの話をするときはデザイナーが前に出ていくというように。ディレクターは、プロジェクト期間中に、モチベーションが下がらないようとかトラブルがあったら迅速に対応するとか、みんなが目に見える形にして進めるようにしています。

イベント風景

チームはフラットな関係で。コミュニケーションが基盤。

藤井

チームの形はどんな形が多いのでしょうか?

堺大輔氏

堺氏

役割と責任は明確ですが、アイデアを出したりものを作る過程ではフラットな関係ですね。たとえば、打合せなんかは、メモデスクと言って天板が紙の机の上でやるんですね。机上自体がポストイットというか。ホワイトボードだと、立って書いている人がファシリテーターみたいな感じになるかと思いますが、うちではみんなが立って机の上に書いてる。それだとフラットな関係でいられるかなと。

藤井氏

会場に来られている方の中で、プロデュース力という観点で日頃何か困っているということがある方はいらっしゃいますか?

質問者

企業で宣伝関係の部署に属しています。縦割り組織でのタコツボ化の弊害について悩んでいます。打破するために、全社共有のポータルサイトの掲示板などで呼びかけをしたりもすることもできるが、実際にはなかなか縦割りのハードルを越えるのは難しい。みんなが意見を出せる仕組みはどのようにしたら作れるんでしょうか。

堺大輔氏

堺氏

うちは役職もないですし、社内ではルールがほとんどないんです。役割を固定化すればするほど人は固定化してくるという考え方です。役割を取っ払うと、逆に役割をさがすようになるもの。あえて取っ払ってみるとこれまで発言しなかった人も発言せざるを得なくなる。自分の役割を出してこないと仕事が来ないという形になっていけばいいのかなとは思いますけど。

木村幸司氏

木村氏

知り合いの会社の話ですが、部門間をまたいで月1回ランチに行くということをはじめて、すごくコミュニケーションが広がったという事例を聞きました。また、責任者レベルでのワークショップを毎週開いているという企業さんの話もあるらしいです。ある程度の規模の組織だと、いろんな形で部門間ごとの価値観のすり合わせを積極的に行うことは大事なんだなと思います。

椎谷ハレオ氏

椎谷氏

どの企業も抱えている問題は一緒だと思います。人間も会社も同じところを歩くのが安全なんですよ。世の中の状況は変わってきているというのもわかってはいるが、防衛本能が働くわけで、同じルートやセクションから出られないというのが実際だと思うんですよ。先ほどの発言でもありましたが、部門を超えた飲み会や通常業務外のワークショップなどの試みが有効なのは、人ってやっぱり話をすることでわかるということなんじゃないのかな。それと、環境が目まぐるしく変わっていくなかで、いかに新しい方法をみつけるかということですよね。それにはやっぱり面白い人に出会うことじゃないですかね。だから今日のようなトークイベントに来ることはすごく重要なんですよ。今日来た人はきっと、誰かに出会って何かを見つけて帰れるはずですよ。(会場一同拍手)

イベント風景

イベント概要

これからのクリエイターに必要なプロデュース力
クリエイティブビジネスフォーラム 日本ディレクション協会関西支部×メビック扇町

クリエイターに必要なプロデュース力の向上を図るため、一般社団法人日本ディレクション協会関西支部と協働で、「これからのクリエイターに必要なプロデュース力」をテーマにフォーラムを開催します。
今回は、我が国を代表するウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」のメンバーを招聘し、同集団が手がけてきた数々の最先端プロデュース事例をご紹介いただくとともに、関西を中心に活動する各界のプロデューサーとの意見交換を行い、関西のディレクター・プロデューサーにとって必要な「プロデュース力」とは何かを一緒に考えたいと思います。

開催日:2014年11月17日(月)

公開:
取材・文:大野尚子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。