イベントレポート

この街のクリエイター博覧会 Part 3

クリエイターズセッション風景

3月25日(水)〜29(日)の5日間にわたって開催された「この街のクリエイター博覧会 Part 3」。今年も“クリエイターの仕事、生き方、考え方”をテーマに、大阪市内で活動するさまざまなジャンルのクリエイターや企業と連携しながら、大阪をテーマにした映像作品の公募展、クリエイターのポートレイト展示、キタ・ミナミのクリエイターによるトークセッション、ワークショップなどを企画。5日間で、のべ1000人を動員しました。

初日となった3月25日には、grafの服部滋樹さんによるスピーチと、大阪キタで活躍するクリエイターのトークセッションを実施。以下、服部さんのスピーチの概要と、トークセッションのレポートをお届けします。

1部:キーノート「ヒト・コト・モノである理由」
スピーカー:服部 滋樹氏[graf]

たくさんのオーディエンスが集まったこのクリ博初日の目玉企画。緊張感の漂う会場を見渡して、服部さんが音楽を流します。少し緊張がほぐれたところでお話がスタート。今日は、grafについてではなく、服部さん自身のモノ作りについての考えかたを聞かせていただけるとのこと。テーマは「人・コト・モノである理由」。コトありき、プロジェクトありきでヒトを集め、モノがスタートすることが多い昨今ですが、まずヒトが出会ってコトが生まれ、そのためにモノができるという循環が理想的だと服部さんは言います。ヒト・コト・モノのつながりで、いかにいいもの、いかに長く残っていくものを作っていけるのか。本題に入る前に、チャールズ・レイ・イームズのデザイン論に触れる貴重な映像を鑑賞。服部さんも好きだというイームズのデザイン哲学を目の当たりにできた、興味深い6分間でした。

服部氏

イームズが活躍したのは高度成長期。便利で豊かな暮らしのために、あらゆるものの機能が整理され、デザインされていった時代です。おかげで不便さを感じることがなくなった現在、デザインの役割はどう変化したでしょうか?
機能は整理されつくされ、もう中身をデザインする必要はなくなりました。そこで、機能ではなく外郭、つまり見た目だけを入れ替えることになったのです。これは、消費のためのデザインといえるのだと服部さん。それが間違っているか、間違っていないかは個人が判断すべきことですが、服部さんはモノづくりをしている以上、消費のためのデザインを避けたいといいます。限りある資源を大切に使っていくためにも、もう少し考えた方がいい。では、これからのデザインとは? 服部さんは、こんな例え話をしてくれました。
服部さんの手の中には、手の平サイズの球体があります。それは赤くて、かじると甘酸っぱい。それにはヘタと葉っぱがついていて、最近ではコンピューターのロゴマークとしてもおなじみです。そして服部さんは幼い頃、風邪をひいたときお母さんにすりつぶしたそれを食べさせてもらいました。その物体は何でしょう? そう、答えはりんごです。ここでの大きさや色は、つまり外郭、見た目を指します。服部さんが注目するのは、ひとつだけ異質に感じる「母親がすりつぶしてくれた」というパーソナルな情報。このように、人の心の中にある特定のイメージをどこかから引き出すことが、新しいデザインの可能性になるのではないかと服部さんは考えています。

その後、インターネットについても言及。リアリティのない若者が増えてきているのは、インターネットが原因ではないかと推測します。昔は好きな音楽があれば、レコード店に行って、まず店員さんと仲良くなることを考えました。店員さんから好きな音源をひきだすために、コミュニケーションを取りながら、音楽と一緒にさまざまな情報を得たものです。それに対して、インターネットは検索エンジンにキーワードをはめていくだけ。検索キーワードさえ知っていれば、リアルな体験がないまま音楽を手に入れられます。
体験のないまま脳だけがどんどん大きくなって、知識と知性が貯まらなくなった現代人は、自分の意志でものを選べないといいます。なぜなら、クリックひとつでものを買うという行為は、選んでいるようでいてじつは選ばされているのだと服部さん。このままではいけない。モノづくりに携わる人間は、ユーザーに伝えることを取り戻さないといけない。大量生産・大量消費の時代からバブルを経て、コマーシャルが発展し、モノを肥大化して伝える時代になりました。もうそれではいけない時代になったのです。次の時代の作り手たちは、正しいものを作って正しく伝えることから始めなければいけないと服部さんは言います。

ネットによってもたらされたのは弊害だけではありません。私たちの生活は便利になったし、ネット上にはmixiに代表されるようなコミュニティサイトが生まれました。知識・知性を持つ消費者が少なくなったとはいえ、コミュニティごとの嗜好ははっきりしています。正しいモノづくりとその伝達を考えたとき、コミュニティを使った方法がひとつの解決策になるかもしれないというのです。「僕はこういうデザインをします」、「こんなコンセプトを持って作っています」と手を上げた瞬間、その気持ちに共感して手を挙げてくれる趣味嗜好のあった人たちがいるはずだと服部さんは確信しています。
彼らが集まれば、コミュニティとしてビレッジの規模に、やがてはシティ、国になるかもしれません。そんなコミュニティの動向をいち早くつかむのがネットを使った新しいプロモーションの手段になってきている気がするのだとか。いわゆるコミュニティビジネスです。1万人にDMをバラまくのではなく、2千人を相手にいかに長く一緒に暮らしていくか。彼らが30代になって40代になったとき、どういうものを好むのか、コミュニティ単位で考えていくのです。
20年ほど前、バブル崩壊後にもパーミットマーケティングと呼ばれる同様の手法はありましたが、インターネット全盛の今は、国内だけでなく地球の裏側に住む人たちに想いを伝えることも可能です。さらに、コミュニティビジネスは、消費量生産量が予測できるため、無駄にモノを作る必要がなくなるかもしれません。服部さんは、そんなシステムが組めないかと模索しているのです。

ほかにも、マスデザインやマスコミュニケーションに対するアンチテーゼとして、1890年代イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動や、日本に興った民芸運動、さらにアメリカのヴィートニクなどが紹介されました。話はそこからアートとデザインの違いについてまで飛躍し、続きは2部のトークセッションへ持ち越すことに。

「本来、デザインは最初に述べた通り、不便だった世の中を明るく便利にするため、機能を整理していったり、複雑なものを解いていくための解決策です。今の時代、デザイナーの役割が変わっていて、消費のためのデザインをやっていていいのかと、もう一度考え直したいと思ってこんな話をしました」。最後に、服部さんはそう締めくくりました。

2部:トークセッション
「クリエイターがかける“魔法”」

パネラー

木村 泰子氏 (有)鮮デザイン 代表

木村氏

プロダクション勤務を経て(株)板倉デザイン研究所入社。04年に独立し、デザインを「生業」「個性の発信」「まわりに居てくれる人や暮らしている街のために何かをすること」の三つの軸をベースに活動開始。06年個人事務所を法人化し、グラフィック×映像 コラボレーションスペース「画空スタジオ」を開設。

「(有)鮮デザイン」扇町クリエイティブクラスター登録ページ

黒田 武志氏 サンドスケイプ 主宰

黒田氏

グラフィックデザイナー・オブジェ作家。1962年岡山県生まれ。雑誌・単行本のアートディレクション、演劇のフライヤーやロゴタイプなどのグラフィックワークと並行し、インスタレーション、オブジェ等の作品も発表。演劇との接点も多く、04年〜07年『維新派』の美術も担当している。オブジェ作品集に『ON THE PAPER』『不純物100%』がある。

「サンドスケイプ」扇町クリエイティブクラスター登録ページ

服部 滋樹氏 graf 代表・デザイナー・クリエイティブディレクター

服部氏

1970年大阪生まれ。98年大阪、南堀江にショールーム“graf”をオープン。00年 “decorative mode no.3”設立。同年、中之島に移転し、“graf bld.”を設立。オリジナル家具の企画、製作、販売、店舗、住宅設計、施工、グラフィックデザインまで。プロジェクト単位でチーム編成を交換しブランディングに至るまで様々なジャンルを行き来する。

廣瀬 圭治氏 キネトスコープ社 代表

廣瀬氏

20代前半は全国をバイクで旅する放浪生活を続け、25歳で好きだった絵の仕事に携わろうと決意。その後、VJとして全国のクラブイベントに出演。02年に独立し、現在はWEBや映像のディレクター兼デザイナーと して活躍中。VJで培ったセンスや経験を生かし、映像やリッチコンテンツ導入の企画提案を得意とする。最近ではイベントのプロデュースなどを多く手がける。

「キネトスコープ社」扇町クリエイティブクラスター登録ページ

藤田 豪氏 GOSiZE

藤田氏

1974年岡山県生まれ。建築家高松伸氏に師事後、1999年に独立。商業施設、ホテル旅館、住宅などのさまざまな建築デザインを手がける。日本的な素材や技術を空間の中で新しくスタイリングし、日本人の感性に訴えかける『美』を追求し続けている。04年インテリアプランニング賞「国土交通大臣賞」など、コンペでの受賞歴も多数。

「GOSiZE」扇町クリエイティブクラスター登録ページ

牧野 博泰氏 ヴィジュアル計画・マーレ 主宰

牧野氏

自称、招福図案家。制作プロダクションで10年間勤務し、99年に独立。ポスター、会社案内、パッケージなどのグラフィックデザイン全般を製作する傍ら、最近では特に、企業や商品などのロゴタイプ、シンボルマーク、タイポグラフィなどに力を入れている。また、イラストレーターとのコラボ活動なども積極的に行っている。

「ヴィジュアル計画・マーレ」扇町クリエイティブクラスター登録ページ

コーディネーター

山納 洋氏 (財)大阪21世紀協会 大阪ブランドグループ・チーフプロデューサー

山納氏

1971年兵庫県生まれ。93年大阪ガスに入社。神戸アートビレッジセンター、扇町ミュージアムスクエア、メビック扇町での勤務を経て現職。本業の傍ら、トークサロン企画「扇町Talkin’About」、カフェ空間のシェア活動「common cafe」などをプロデュースしてきた。

山納

今日のテーマは「クリエイターがかける“魔法”」。最初に、なぜそうなったのかお話したいと思います。じつは僕、以前に扇町ミュージアムスクエアというところで働いていました。小劇場やミニシアター、雑貨店なんかが同居する複合施設で、2003年に閉鎖されてしまったんです。その後、同年5月にメビック扇町へ移りまして、3年間コラボレーションマネジャーを務めました。
最初にお話しした扇町ミュージアムスクエアはアーティストが集まる場所だったんですね。アーティストというのは、演劇をやっている人たち、自分のやりたいことをやっている人たち。基本的に、自分のパーソナルなことのために表現する人たちです。一方、メビック扇町はクリエイターが集まる場所。ここでいうクリエイターとは、クライアントや代理店のために仕事をする人たち。納期や制約が厳しくて、自分のやりたいことができない人たちです。
前者のアーティストは自分のやりたいことをしていますが、それだけでは食べていけない。後者は自分のやりたいことができなくてジレンマを抱えている。僕はいま、大阪の21世紀協会にいて、ふたたび文化やアートに触れる仕事をさせていただいています。メビックからアートの世界に戻ってみて、クリエイターたちもジレンマを抱える必要はなかったんじゃないか、そう感じるようになったんです。

今回のこのクリ博に協力してくれているクリエイターのひとりが、こんなことを言っていました。 あるカメラマンが、「これは自分の作品をつくるための仕事、これは仕事と割り切ってこなす仕事」と分けていると聞いたそうです。「そんなんヘタレ」「そんなんゆうてるからアカン」というのが彼の評価なのですが、僕自身、共感するところがありました。 自分のための作品であろうと、クライアントのための作品であろうと、どれだけその作品にスピリットこめたかどうか、関わっている人たちに魔法をかけられたのかどうかが大切なんじゃないでしょうか。今日は「クリエイターがかける魔法」というコンセプトで、6名のクリエイターさんの作品や作品の背景についてのお話をうかがいます。関西で活躍するグラフィックデザイナーたちの魔法を味わってください。

クリエイターズセッション風景

最初にお話しくださったのは、ヴィジュアル計画代表・グラフィックデザイナーの牧野さんです。会場のスクリーンには、牧野さんが手がけられたロゴタイプが映し出されました。

牧野

この作品は、奈良の飛鳥にある1日1組限定の宿のロゴです。代理店を通しての依頼なのですが、私のホームページにある『堂山』という漢字のロゴを見てイメージにぴったりだと発注に至ったとのことでした。宿の名前は『古都里庵(ことりあん)』。私は最初からひらがなのイメージだったのですが、先方が希望していたの『堂山』と同じ漢字のロゴだったんです。ロゴに加えてオーナメントも入れてほしいとのことで、『堂山』と『古都里庵』では字数もイメージも異なると伝えましたが、なんとかなるだろうという感じで制作することに。文字だけで数百枚書きました。事務所の床が半紙で占領され、耳無し芳一状態(笑)。

山納

牧野さんは書道家なんですか? グラフィックデザイナーですよね?

牧野

デザイナーなんですけど、ロゴなどのタイポグラフィーに特化したデザインをやっています。昔、書道をしていたので、そんな経験も活かして作品を提案できないかなぁと。先ほどの話に戻ると、漢字のロゴは何回出しても通らなくて。『古都里庵』は足し算で『堂山』は引き算。明らかにイメージが違うから通るわけがないんですよね。

山納

足し算、引き算というのは?

牧野

『堂山』は漢字二文字にワンショルダーだけ英語で入れて、文字を削げるだけ削いだ極めてシンプルなものだったんです。『古都里庵』は字数も画数も違うし、ルビを入れないといけないなど足しまくってます。最終的には最初に作ったひらがなのロゴが通って、「やっぱりなぁ」って感慨深かったですね。

山納

“魔法”というのが今回のテーマですけど、クライアントありきの仕事のとき、相手に見えてないイメージを伝えるために、何かしていることはありますか? 牧野さんにとっての魔法って何でしょう?

牧野

頭の中にインスピレーションが浮かんで書いた文字って、最後まで残ることが多いんです。この仕事で選ばれたのはガラス棒で書いた文字だったんだけど、ほかにも指で書いたり右手や左手で書いたり、あらゆる方法を試しますよ。想定内の文字ではなく想定外の見せ方がほしいので、それが出るまで何百枚も書くんです。

山納

自分でもイメージしていなかったものを書くまで?

牧野

そうですね。想定内の文字ってのはイメージできてるものなんで、プラスアルファがほしいんです。トイレットペーパーにも書きますし…。

服部

「脳で考えるんじゃなくて手で考える」って言葉あるじゃないですか。手が考えたことを脳で整理するというか。まさにその通りって感じがしますよね。

牧野

漢字って本来は書き順が決まってるじゃないですか。書き順を変えるだけで、想定外の文字ができることもあるんですよ。“へん”と“つくり”の順序を入れ替えると、ありきたりのバランスじゃないアンバランスで想定外な文字になったり。そうなると、「あ、コレいいやん!」ってモチベーションが上がってくる。

山納

なんか企業秘密みたいでドキドキします(笑)。

服部

最終的なプレゼンでは複数の案を出すと思うんですけど、いわゆる“捨て案”とかは作る?

牧野

それはしないですね。たとえばABCの3案を提出したとして、「Bが通ったら嫌だな」とか、そういうふうには思いたくないので。だからこそ何百枚も書くんです。

山納

先ほどガラス棒で書いたものが通ったとおっしゃいましたけど、それは書いた瞬間に「絶対これ!」って思うものなんですか?

牧野

書いた瞬間ではなく、書く前にわかるんです。さっきの話と矛盾するようですが、正確には「想定外をイメージして、想定内で完成させる」というか…。

山納

そういう話をききたかったんです(笑)! ありがとうございました!

続いて、GOSiZEの藤田さんにマイクが渡りました。スクリーンいっぱいに映し出されたのは、藤田さんがリフォームを手がけられたという、一風変わった住宅の内装です。

藤田

設計事務所をやっています藤田です。もともと店舗の設計からスタートし、住宅の設計、最近はホテルの再生やリフォームもやるようになりました。いま皆さんに見ていただいているのは、住宅の写真です。中崎町にある築100年の長屋を大リノベーションしたもので、これが自分の中でいちばん心に残る大変な仕事でした。じつはこの物件、オーナーは自分なんです。普段は依頼主であるオーナーさんとコミュニケーションを取りながら作り上げていくので、作り手と住む人間が同じだったこの仕事は、落としどころが見つからなかったというか。
自分では「こうもしたい」、「ああもしたい」となってしまって…。今回のテーマ「クリエイターがかける魔法」を自分なりに考えてみたのですが、いつも意識しているのが“80%のデザイン”なんです。オーナーさんが希望するデザインで空間を作り上げて、残りの20%はインテリアで仕上げたい。たとえば机の上や棚に花がポツリとあるだけで空間が呼吸し出すというか。家具や音楽、香りなんかを空間の中に落とし込むことで、自分の仕事を仕上げたいという思いがあります。

山納

個人の住宅の設計って、クライアントは“素人”なわけですよね。生活のプロではあるけれど、建築設計のことはよく知らない。そんな相手だと、建築家がイメージしたものも伝わりにくいような気がするのですが…。藤田さんはどうやって相手に魔法をかけているのですか?

藤田

基本的に、オーナーさんにパースを見せて「これどうですか?」みたいな話はしないですね。あれこれ話しているなかで、「どういうブランドが好きですか?」とか「好きな色は何ですか?」と、いろいろなキーワードを引き出していって、こういうものであったら納得してもらえるんじゃないかなっていう案を提案します。自分の考えやデザインを押しつけるつもりはないですね。打ち合わせのたびにオーナーさんとコミュニケーションを重ねていって、「あ、こうなっていくんやな」って実感してもらうよう心がけています。

服部

じつは僕も藤田さんの家におじゃましたことがあって、感動しました。作ったものがマジックなんじゃなくて、マジックが起こる状況を作っていると思った。いまのコミュニケーションの話にあったように、そこでお客さんと同じ妄想を共有していくんだけど、完成した瞬間、相手には想像もできないものになっていたみたいな、そんな状況を作っていく。

藤田

コミュニケートすることで変わっていくんですよ。「白い洋風の家を建てたい」って希望していたお客さんでも、僕の家で打ち合わせるをした途端、「やっぱりこういう家の方がいい」って心変わりしたり。魔法って言葉で表すのは難しいけど、コミュニケーションを取りながら生まれてくるものひとつひとつのことなんじゃないかなって思います。

山納

この自分がクライアントだというケースの場合、込めた魔法は?

藤田

一見わかりにくいですけど、この写真の左手が庭です。もともとこの場所には部屋があって光が入らなかったので、部屋をひとつ潰しました。普通に中庭を作るだけではおもしろくないから、半分以上を池にしたんです。中に金魚を放して。お客さんが来たときに驚いてくれるのがうれしいですね。

山納

藤田さんは設計だけで大工はしないのですか?

藤田

このケースでは勉強のためいろいろしました。柿渋を使ってみたり、水性の塗料じゃなく墨汁で建具を塗ってみたり。墨汁には殺菌効果あったり、なつかしい香りがしたり、たくさん発見することがありましたよ。そういう実験を試みた住宅でもありますね。

服部

ちなみに住み心地はいかがですか?

藤田

住みにくいです(笑)! 築100年の建物なので、風が吹き込んで寒いし、雨漏りもする。でも、そんななかで、人の本来の生活が見えた気がするんです。冬の寒いときに暖房じゃなくて火鉢を入れてみると、なんで昔の人は火鉢を使っていたのかがわかったり。これまではとにかくきれいに貼って見せることを優先していたけれど、クリエイトするのときの考え方が変わりましたね。しんどいことも多いけど、そのぶん生まれるものも多い気がして我慢して住んでいます。

山納

住むことを通して「住むって何?」って気づいたりすることもあるでしょうね。藤田さんは中崎町に住んでるですよね。やはり古民家の改築を得意としているんですか?

藤田

そういうわけではないです。楽しそうなことは何でもやりたい。

山納

ほかにクライアントのための仕事で、こんなふうにコミュニケーションできたとか、魔法が伝わったというエピソードがあれば教えてください。

藤田

たとえばクライアントがホテルだった場合、ホテルを経営されてるオーナーとのコミュニケーションも大事なんだけど、いちばん大切なことは来てくれるお客さんに何を訴えるかだと思うんです。そういう意味ではホテルのオーナーさんとお客さんと、クライアントが2人いるような気がします。結局、そういう考えを取り入れていくためにも必要なのはコミュニケーションですよね。あとは結果を残すこと。お客さんに支持されないと意味がない。

山納

次々にいい家を生み出すための基礎訓練はしてますか?

藤田

まずは、好きであることですね。普段から街中の店を見ておもろいなと思ったり、舞台を観に行っておもろい照明やなと感心したり、そういうことが好きやから知らず知らずのうちに楽しんでできているんだと思います。意識して訓練とかはしていないですね。

クリエイターズセッション風景

3人目のクリエイターは、紅一点の女性デザイナー、木村素子さんです。木村さんが今回持ってきてくれた作品は、装丁を担当された写真集や、ポスター、フライヤーなど。

木村

今日のテーマ「クリエイターがかける魔法」を、自分なりの観点でふたつお話ししたいと思います。ひとつめは高校生のときに遡るんですけど、女子高生にありがちなことで、わたし、お父さんのこと汚いと思ってたんです(笑)。お父さんは鉄工所で働いていて、それもかっこ悪いと思ってました。サラリーマンとかインテリアやってる人やったらよかったのになぁって。そんなある日、工場に手伝いに行って、油と汗にまみれて働いてるお父さんの姿を見たんです。不覚にも「めっちゃかっこいい!」って思ってしまって、自分の中の“かっこいい”の概念がスライドしました。それ以来、世間でいわれてる“かっこいい”ってホンマかな?って疑問を持つようになったんです。わたしがデザイナーらしきことを始めたのもその頃で、高校時代に音楽やってた友だちにフライヤーを作ってあげたり、ワープロで小説書いてる子の作品にきれいな紙を貼ってあげたり、演劇やってる子には3mくらいのベニヤ板に手描きして看板を作ったりしてました。
自分は音楽も小説も生み出せないけれど、人の表現を手伝うことはできるかもしれない。当時はデザイナーという職業があるのも知らなかったけど、やりたいことを模索していたらグラフィックデザイナーに辿りつきました。いまはアートディレクションを仕事にしていますが、昔から個性が強烈な人たちと関わってきた中で、予定調和がおもしろくないことに気づいたんです。たとえばラフを作る際はだいたいイメージしている写真をはめ込んでクライアントに見せるけれど、ラフ通りの写真を撮ってくださいってのは嫌い。撮影の現場にはカメラマンやスタイリスト、モデル、ヘアメイクがいて、彼らが集まって起こる現象を撮って写真にしたいって気持ちがあって。それぞれの力を生かして自分の予想できないものが現象として起こったときに、びっくりするような一枚が生まれるんです。それが、ひとつめの魔法です。

山納

ありがとうございます。では、ふたつめの魔法は?

木村

クリスタ長堀で開催されたポスター展で、上田假奈代さんという詩人に相談されて、詩を24人のデザイナーで表現したことがあったんです。そのときに森さんってカメラマンに展覧会ポスターの写真を撮ってもらいました。假奈代さんは詩といっても朗読がメインなので、詩集を出したことがなくて、森さんはカメラマンとして写真集を出すのが憧れ。そんなふたりが出会ったので、一緒に詩写真集出したらおもしろいって話になって。その後、それが現実になって、写真集のレイアウトを依頼されたんです。
森さんが写真を40枚ほど持ってきてくれて、みんなで詩を読んでみることに。すると、森さんに自分の写真はこの詩とイメージが違うと言われてしまった。森さんは写真を撮ったその場に遭遇しているからこそ、西成や阿倍野をテーマにした假奈代さんの詩ではイメージが限定されてしまうと思ったみたいなんですね。でも、假奈代さんはアートとして詩を書いてるんじゃなくて、生きるということをテーマに彼女が見ている風景を言葉にして記録している。一方、森さんは当時サバイバルをテーマにして、風景を写真にして切り取ってるふたりの作品が合わないわけないと思って、詩と写真をわたしに預からしてくださいって提案しました。まず、假奈代さんの朗読のCDとテキストをぜんぶ読んで、それから森さんの家に行って10年くらい撮り貯めていたフィルム3000枚くらいをぜんぶ見せてもらって。それから、假奈代さんには「言葉を切り取っていいですか?」、森さんには「写真の順番入れ替えてもいいですか?」とお願いして、ふたりの許可を得て一冊の詩写真集が完成したんです。40枚の写真が生まれた背景、一遍の詩が生まれた背景を吟味することによって、お二人の輪郭をはっきりと見ることができ一冊の本にできた。それが魔法だと思っています。

山納

それだけ詩や写真に触れていると、彼らとシンクロするって感じ?

木村

シンクロするのではなく、磨かれた鏡になりたいと思っています。アーティストさんがきらっと輝く光を持っていても、鏡が曇っていたら正しく形を映すことも反射する事もできない。きれいに磨かれた鏡であれば、形をくっきり映し出し、光をあるべき方向に的確に反射できる。できるだけそのままの光を、あるべき方向に届けたいんです。

山納

いわゆるアーティストと呼ばれる絶対ものづくりを譲らない人たちとの共同作業って、相当影響とか受けるものですか?

木村

それが…私がちょっと変わってるだけかもしれないですけど、昔に父の仕事場を見て以来、人が評価してるものを疑うようなところがあって。それは何もかも否定するとか無条件に評価するってわけじゃなくて、うまく言えないんですけど、人間の個性やクセって、まっすぐさせようとしてもまっすぐならないでしょう。それにはまっすぐならないなりの意味があると思うんです。既製品やったらまっすぐの方がいいかもしれないけど、わたしはまっすぐじゃないことこそ大事なことなんじゃないかと思ってて、個性をできるだけそのままのかたちで生かす角度を見つけることが、自分の役割だと信じています。

服部

木村さん自身はアーティストですか? デザイナーですか?

木村

そもそも、アーティストやデザイナーの定義がよくわかってないかも(笑)。自分の見えたものを、自分の見える範囲で、自分の持ってる言葉を使ってそのまま届けたいという感じです。

続いて、キネトスコープ社の廣瀬さん。会場のモニターには、廣瀬さんが制作を手がけた包丁メーカーのHPが映し出されました。

廣瀬

はじめまして、廣瀬です。なんか僕だけデジタルな雰囲気ですが…(笑)。僕はデザインやグラフィックの分野でやってきた人間じゃなくて、高校を卒業したあとバイクにまたがって全国を放浪していました。日本を旅するうち北海道に出会って、そこで自然の持つ絶対的な美しさに圧倒されてたことが人生の転機になったんです。人にはつくれない美しさ、空気感、音なんかが僕の中の絶対正義となって、そんな経験を生かして絵に携わる仕事をしていこうとバイクの旅をやめました。ところがその後、悪友につかまって、30歳近くまで全国のクラブで遊んでしまいましたから、デザインに対するバックボーンはないんです。
昔からグラフィックに興味あったし、プロダクトや建築も好きだけど、いまはデジタル媒体を中心にお仕事させてもらっています。そのなかから今回作品として紹介するのは、いま見ていただいてる世界的な包丁メーカーのHPです。これは、包丁メーカーの日本法人がはじめて日本独自で開発した海外向け製品のプロモーションサイトで、グローバルな視点で製品を世界へ向けて発信したいとの依頼でした。

サイトを開くと、まず冒頭に映像と音と写真とコピーワークで作った1分30秒ほどのプロモーションムービーが流れます。なぜかというと、絵と音は世界共通言語なので、日本語がわからない人でもムービーなら何か感じてくれるんじゃないかと思って。それから製品紹介ページを見ていただくと、プロダクトの写真と並んで日本刀のイメージの写真があります。これは、『雅』という製品に日本刀のイメージを重ねて日本刀の柄の部分を撮ったんだけど、このカットがどうしてもほしくて、めちゃくちゃ苦労しました。
まず、日本刀って何やねんってとこから勉強して、どれだけいいものがあるのかとか、どんな石と色の種類があるのかとか、調べれば調べるほど奥が深いんですよ。包丁のプロモーションなのに、気がつけば日本刀のことを1週間調べてたみたいな(笑)。そんななか日本刀で有名な地域を探して辿りついたのが岐阜県の関市。そこへ行けばかっこいい日本刀があるんじゃないかと、メーカーとも相談してイメージ写真を撮りに行くことになりました。メーカーの担当者から関市に相談すると、いちメーカのプロモーションで文化的な価値のあるの日本刀を使ってくれるなと断られたんです。でも、こちらのコンセプト伝えるには日本刀のイメージカットがどうしても必要だったので、「僕でよければ任せてください」と、自分でもう一度交渉することに。現地にある「鍛冶伝承館」の館長に撮影できないかと掛け合いました。日本刀に惹かれてしまったと必死で伝えると、こちらの熱い想いを汲んでくれて、館長の知人の所有物を撮影できることになりました。じゃあ写真を撮ろうとロケに出かけたのですが、鍛冶伝承館は美術品を扱う施設なので、照明やスペースなどを含め撮影できる環境じゃないんですね。カメラマンと一緒に「あーでもないこーでもない」と考えて、どうしたか。最終的に、刀を撮影する照明は自然光のみ。背景に黒い布を敷いて、台はパイプ椅子です。このシンプルなセットで、カメラマンは見事に僕のイメージを形にしてくれました。
いろんな奇跡が重なって完成したような仕事なので、もう3年も前の話ですが、いまだに思い入れは強いですね。途中で何度もあきらめそうになったけど、なんで最後までやり通せたのかなって考えてみたんです。それが、今回のテーマの「魔法」。人に魔法をかける前に、まず自分が魔法にかからなあかんかなって思ったんです。

山納

すごいエピソードですね。この日本刀のイメージを、廣瀬さんとカメラマンは共有していたのですか?

廣瀬

ほぼ共有できていたと思いますが、正確には写真を撮ってみないとわからない。インターネットなどから「これが近い」ってイメージを引っ張って見せたりはしましたけど、僕の頭の中にあるイメージと彼のそれがまったく同じものなのかはわからない。ほかの方の話にも自然発生的なってエピソードはありましたけど、これがまさに想定外の仕事。うれしい誤算でした。

山納

ブランディングってこういう作業なのかなぁと思ってしまいました。そんな、パイプ椅子と布で撮ったイメージだけで、世界的メーカーの作品を輝かせるってすごいですね。

廣瀬

あと、ページの中に筆文字をあしらってるんです。外国人に向けた日本的なイメージとして。これ自分で書いたんですけど、めちゃめちゃ書きましたよ。牧野さんの話じゃないですけど、それこそガラス棒も使いましたし、筆に墨じゃなくアクリル絵の具を使ったりとか、いろいろし試してやっぱり半紙に書いたり、書いたものスキャンしてコラージュしたり、この小さな字だけで3日かかりました。それなのにクライアントに「違う字の方がいいんじゃない?」って言われて、もう何枚でも書いたるわって(笑)。

服部

製品は売れたんですか?

廣瀬

めっちゃ売れたらしいんですよ。世界でも日本でも。生産が追いつかなくて、関市にあった小さな工場を拡張したっていうから、うれしいですよね。

次は、サンドスケイプの黒田さんの話をおうかがします。モニターにはこれまで黒田さんがアートディレクションを手がけられた、雑誌や劇団のフライヤー、ゲームのパッケージなどが映し出されました。

黒田

よろしくお願いします。新旧の仕事にかかわらず、大きな企業から小劇団相手のものまでいろいろ並べましたが、今日は作品の話よりも、「クライアントにかける魔法」についてお話しさせていただきます。
いきなりで申し訳ないんですけど、僕は“魔法”なんて無くて、リアリティーの積み重ね、どれだけその作品にこだわれるかだと思っています。とことんこだわってやれば、ちゃんとクライアントに伝わる。クライアントが求めているものはわかるんだけど、そうじゃない方がいい場合もあるんですよ。そんなとき、わがままなデザイナーは、「おれは絶対これがいい」って独りよがりな提案をしてしまう。僕はクライアントのためだけに仕事をしてるんじゃなくて、エンドユーザーのためにやってると思っているので、クライアントが気に入るとかは実はどうでもよくて、「ユーザーが求めてるのはこっちなんじゃないですかって」伝えながら作る。先ほどの話にもありましたけど、コミュニケーションの問題ですよね。ですから、ここに紹介した作品はデザイナーが偉いんじゃなくて、最終的にこの案を選んでくれたクライアントが偉いなぁと思います。

山納

ほかにこの3作品のなかで、クライアントが偉かったという点は?

黒田

昔、「デューダ」という転職情報誌のアートディレクションをさせてもらったことがあるんですけど、こんなふうに縦にロゴ入れるなんて、当時の日本の雑誌ではありえなかった。書店の棚に入るとロゴが見えなくなるから。海外のインテリア雑誌とかでは見かけましたけどね。でも、ビジネスの硬質な感じを出したくてあえて提案したら、採用されました。
あと、「百ます計算」DSソフトのパッケージで、僕が関わる前はすごくベタな文字だけが並んでるようなデザインだったんです。クライアントが制作サイドに何回ダメ出ししてもデザインが直ってこないらしく、最初はアドバイスだけ求められて「こういう風にしたらいいじゃない?」って提案したんです。そしたら「プレゼンしてください」という流れになり、結局、こっちで作ることになりました。あとは、どんな空気を纏うかも大事やと思います。僕は人見知りでしゃべるのが下手なので、事務所を見たら自分がどんなことを考えている人間なのかわかるようにしていて、最初は「とにかく来てください」って言いますね。「百ます計算」のクライアントは小学館だけど、打ち合わせもすべて先方が出向いてくれますよ。魔法をかけるというより、空気感を好きになってもらう。

山納

黒田さんの事務所って元銭湯で、いろんなオブジェが並ぶ独特な空間ですもんね。たしかに、入っただけで黒田さんの世界観がわかる場所だと思います。

黒田

僕、営業したことがないんです。演劇のチラシとか作っていると、作品が勝手に宣伝してくれる。「これを作った人は誰なんだろう」というふうに。だから、「こういうデザインなら黒田」って、僕のところに来る仕事はある程度のフィルターがかかっているみたいです。逆に、僕の苦手な、ほかの人がやった方がいいと思うような仕事は断るようにしています。その方が早くていいものができるので、クライアントのためになるし、僕も「なんか違う」って歯がゆい思いをしないで済むので、お互いのためにいいですから。

山納

黒田さんは関西でも有名な劇団のチラシやポスター、フライヤーなどを多数手がけてます。だから僕も、OMS時代に何度も黒田さんにお仕事をお願いしたことがあるんです。個人的にやっている「common cafe」のロゴとメニューブックも黒田さんにお願いしました。僕らの中では、黒田さんに相談したら何とかとかなるって思ってるところがあります。

黒田

コモンカフェの仕事はおもしろかったよね。予算のない中でどうするか。けっこう好きなことを自由にやらせてもらったので、楽しかったです。

服部

黒田さんはアーティストとしての作品も作っていますよね。

山納

そう、黒田さんはオブジェ作家としても活動されています。

黒田

アーティストじゃないですよ。僕はアーティストっていわれるの嫌ですね。造形作家やったらいいけど…。自分では、あくまでもデザイナーだと思っているので。

服部

子どもの部分でアーティスト、大人の部分でデザイナーって使い分けてる気がする。僕、黒田さんの作品すごい好きなんですよ。

黒田

子どもと大人…そう言われればそうしている気もします(笑)。ありがとうございます。

この日の最後にお話しくださったのは、1部のキーノートに引き続き参加してくれたgrafの服部滋樹さんです。モニターにはgrafの家具が映し出されました。

服部

まずは、このソファの話から。もう11年も作ってきたスタンダードなもので、grafのはじまりを象徴するような製品です。「3/6 sofa(サブロクソファ)」というシリーズで、日本ならではの工業規格であるサブロク板(1820mm×910mm)にちなんで名づけました。
一枚の板からソファやベンチを作ろうと始めたんですけど、grafを立ち上げた当時、僕らにはお金がなかった。工具も揃わず、本当に小さな工場しか持っていなかったけれど、今よりおおらかだった時代の風潮と若かった僕らのパワーが生み出したものだと思っています。普通のソファのプロポーションと比べるとすごいどんくさい形状なのは、日本の規格サイズからきているから。そのぶん、日本人のヒューマンスケールにフィットするんですよ。日本人の体型のどんくささと合っているというか。4畳半の部屋にも12畳の部屋にもスケールがぴったり合います。たぶんこれは、一生作っていくスタンダードな製品になると思っています。
次の写真は「プランクトン」というシリーズ。これも10年くらい前から作ってるかな。しつこいですけど僕らお金なかったんで、インテリアの設計をさせていただいたお客さんの物件で、その型を使って商品にできたらいいなぁって考えるようになったんです。つまり、お客さんのお金で木型を作らせてもらって、その物件名の名前をつけた製品としてデビューさせようと。プランクトンもそうしてできたシリーズです。それ以降は、むしろ木型ほしさにお客さんのインテリアデザインを引き受けていたようなところがあるかもしれない。だから僕ら、自分たちで育っていったってよりも、お客さんに育ててもらってここまでやってこれたんだと思っています。

山納

先ほど見せていただいたイームズの映像にあった「制約のあるデザイン」を、まさに実践されてきたのですね。

服部

制約は常にありますからね。僕はよくgrafを少年探偵団に例えるんですけど、なぜかというと、制約は事件なんです。その事件を、いかに僕らの力で解決していくか。そのつど回答を出していくんだけど、解決方法がgrafらしかったら、見た目はどう変わっていてもいいんじゃないかなって。

廣瀬

僕も3/6 sofa持ってますよ。7年くらい前にgrafで購入しました。サブロクのコンセプトも知らないまま「ええやんこれ」ってノリで。ただ、1500mmじゃ足りへんからちょっとだけ伸ばしてもらいましたけど。

服部

廣瀬さん、日本人の体型じゃないもんね(笑)。

黒田

このプランクトンシリーズだと思うんですけど、僕もちょっと関わった「アートカレイドスコープ」ってイベントで巨大な椅子を展示してましたよね? あれはアート的な作業?

服部

あれは若気の至りというか、通常の1.8倍サイズの椅子を作ろうってなって。もともと現代美術センターの会議室のテーブルと椅子をデザインしてくれっていう依頼で、僕らが普通にテーブルと椅子デザインしてもおもしろくないと思ったんです。難しくてつまらない会議がおもしろくなるようなテーブルと椅子…というわけで、大人が子どもになれるサイズを作ったんです。それが1.8倍の大きさ。実際にそこで難しいお題の会議やったんだけど、みんな子どもみたいに足をぶらぶらさせたりしておもしろかったですよ。あのあと、美術作品として埼玉の美術館に所蔵されました。

黒田

展示している椅子に母子が座る光景がシュールでおもしろかった。巨大な椅子に座るお母さんが子どもに見えて、じゃあその横で椅子によじのぼっている子どもは何なんだって。

服部

もともとは商品のつもりで、アートに変換させてみようと思って作ったんですよ。どちらもコンセプトは一緒で、視点を変えただけなのに、美術館で倉俣史朗の隣に展示されるんだからわからないものです。

黒田

デザインがアートとして認知されるって証明しちゃったね。

山納

みなさん、今日は本当にありがとうございました。いろんな話が出ましたね。偶然によって生まれてくるもの。ちゃんと見えてから固めていくもの。コミュニケーションする中から生まれてくるもの。いずれにしても、アートとデザインとか、これは自分用であれはクライアント用だとか、分割して考えるものじゃなくて、つきつめることで同じような到着点が見えてくるんじゃないかなって。そんな話をもらいました。今日のテーマは“魔法”ですから、みなさんも今日の魔法にかかったような状態で、あしたからまたそれぞれの仕事に取り組んでいただければと思います。

服部

最後にひとことだけいいですか? 僕、前に東京の観光コンベンションセンターで大阪の文化についてトークショーをしたことがあるんです。倉本美津留さんっていうダウンタウンの番組で有名な放送作家と一緒に、関西のおもしろいって何やろう、東京のおもしろいって何やろう、みたいなことを話しました。東京の“面白い”は、“顔(面)を白く塗る人”のことを指すんじゃないかと。見る側と見られる側に境界線ができているわけです。一方、関西の“おもしろい”って何かというと、僕らって話の輪に加わっておもろいこと言われへんかったら悔しいし、「こいつがこんなことゆうたから俺もゆうたろ」みたいにどんどんかぶせていくでしょ? コミュニケーションを取って参加することが、関西の“おもしろい”なんじゃないかという結論に至ったんです。
いまも、みなさんのデザインを見ていて、参加したくなるデザインやなぁって感じたので、つい言ってしまいました。見て美しいだけじゃなくて、参加したくなる魅力がある。今日は、おもしろかったです。

1部と2部をあわせて3時間強。参加したクリエイターのみなさんのモノづくりへのこだわりと熱意を全身に浴びるような、濃厚なひとときでした。このあとはオープニングパーティーが開かれ、150名を超えるさまざまな人たちがおいしいお酒と食事、ミニライブを満喫。こうして、このクリ博初日の夜は大盛り上がりで更けていったのでした。

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