(株)吉田着色×(株)明成孝橋美術

ようこそ!めくるめく本物の色の世界へ!

「着色」とは文字通り色を着けることだ。色を着けるにはどうするか?グラフィックならインク、建築ならば塗料、という答えがすぐに出てくるだろう。しかしそれだけではない。着色には「塗料を塗る」だけにとどまらない、素晴らしく豊かな色の世界があるのだ。着色のプロフェッショナル、大阪で大正初期から続く「吉田着色」四代目社長・吉田忠司さんに、(株)明成孝橋美術・代表の孝橋悦達さんがお話を伺った。

対談の様子

「いぶし屋」という職業を知っていますか?

孝橋

最初に簡単に自己紹介をお願いします。

吉田

ウチは大正5年創業の着色、塗装の専門会社です。私は四代目で28歳、業界では珍しい若い社長といわれます。

孝橋

老舗ですね。どんな経緯で創業されたんですか?

吉田

初代は新潟出身で、大阪の「いぶし屋」さんに丁稚奉公に来たらしいです。それであるとき親方が、私はもう引退するから、店を買わないか、技術も教えてあげるからと。それで「いぶし屋」になったそうです。

孝橋

「いぶし屋」というのはどんな職業ですか?

吉田

いぶしは伝統的な着色法で、金属などを熱してススをつけ、美しくするだけでなく、錆を防いで長持ちさせる技術です。「いぶし銀」という言葉がありますが、あの「いぶし」です。ススをつけてから表面を、イボタ蝋(ろう)という特殊なロウで覆います。今でいうクリアコートですね。

孝橋

具体的にはどんなところに使われるんですか?

吉田

建物の部材、門扉とか建具の仕上げなどによく使われますよ。また昔の話ですが、有名な松下電器の二股ソケットのパーツをいぶしたこともあるそうです。

孝橋

それはすごい!昔からある身近な着色方法なんですね。


歴史ある老舗だけに古い写真がたくさん


着色見本はもはや美術工芸品だ

塗料を塗るだけではない、着色の世界

孝橋

私は美術印刷をやっていますが、世の中には、本当にたくさんの着色方法がありますね。吉田さんの作品を拝見してさらに再認識しました。

吉田

いぶすだけではありません。ようするに「自然界にあるもので、金属などに色を着ける」ということなので、顔料や塗料も使いますし、加熱したり磨いたり、あらゆることをやります。すべてが着色の仕事です。

孝橋

HPにも写真がありますが、先代がなさった大阪城の仕事。これは瓦や金物に着色する、というものですね。

吉田

大阪城の天守閣、最上階の外縁に、金箔貼りの巨大な虎のレリーフがあるんです。昭和6年の大阪城再建のとき、先代がレリーフの虎や、屋根瓦の銅板に緑青を吹かせました。また昭和31年の改修工事のときも、二代目が、瓦の銅板に緑青を吹かせています。改修で直したところだけピカピカなのはおかしいので、周囲と同じように、経年変化で色が着いたようにエイジングしたんです。

孝橋

着色のやり方は決まっているんですか?

吉田

決まった方法はないんですよ。毎回、いちから考えます。依頼を受けて「できますよ!」と言ってしまってから悩みます(笑)。酸やアルカリ、いろいろな薬品を使いますし、薬品そのものを自分で作ることもあります。私は高校時代から家業を手伝っていたので、着色のノウハウや化学知識は、仕事場で教わったり、自分で勉強したりしました。


大阪城のレリーフの虎や瓦に緑青を吹かせた(人工的に青錆を発生させた)

均一ではないところに面白さがある

孝橋

吉田さんの作品には、一般のクリエイターとはまったく違う世界があると思うんです。ひとつずつ表情が微妙に違うし、そこに面白さがある。工業製品は多くの場合、均一にキレイに作るのが仕事ですから、まったく違う。

吉田

もちろん均一な着色法もいっぱいあるし、私もやりますよ。でも均一ではない着色の方が面白いですね。

孝橋

ところが最近、クリエイターの間で、活版印刷が見直されてきているんです。活版印刷では、版にかける圧力や、インクの乗り方で、一枚ずつ違うものができる。均一ではないところに、価値や面白さを見出す風潮が出てきています。

吉田

バラバラが見直されてきているんですか?(笑)

孝橋

もちろんバラバラですが、コントロールできないわけではない。むしろコントロールされた中での「ゆらぎ」を面白いと感じる価値観が出てきたと思うんです。

吉田

何でも新しいから良い、古いからダメ、ということではなく、昔からある技法に、本物の価値を見出す人もたくさんいます。そういう方々のおかげで、私たちの仕事は成り立っていますから。

本物の色の世界は広くて豊かだ!

孝橋

もうひとつ、通常の印刷は、いわゆるCMYKの世界です。シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色のインクを混ぜることで、フルカラーを再現しようとします。しかし自然の色域は、それよりもはるかに広い。CMYKで再現できない色もたくさんあります。一番分かりやすいのが金色ですが、4色掛け合わせでそれらしくするか「金インキ」を使うくらい。でもしょせんは黄土色なんですよ。金箔貼りとは全然ちがう色なんです。

吉田

確かにまったく違いますね。

孝橋

特色のインクをいちから作れば、使える色域は多少は広がりますが、それは贅沢なパッケージとか、特殊な場合に限られます。もちろんクリエイターも、もっと色の世界を広げたいのだけれど、主にコストの問題で、狭い擬似的な色の世界でやらざるを得ない。だから本物の色を見ると、とても魅力を感じると思います。

吉田

私たちも塗料を使いますが、それ以外の顔料やいろいろな薬品を使って着色します。塗料だけでは出せない色が出ますね。

孝橋

ですから吉田さんの着色は、安くて手軽で均一、一般的な商業印刷の色の世界から、クリエイターを解き放ってくれる可能性に満ちていると思います。今もデザイナーさんとコラボしたり、店舗の造作に関わったり、いろいろな活動をされていますね。

吉田

有名なブランドショップの造作なども手がけています。付加価値を認めてもらっているのだと思います。

孝橋

建築の部材というのは分かりやすいけれども、他にもプロダクトデザインとかパッケージとか、いろいろな可能性があると思います。吉田さんとクリエイターが交わることで、それぞれの世界が広がり、ボリュームが増幅されたら素晴らしいですね。


ブロック玩具に青錆、赤錆塗装をしたサンプル

老舗の着色屋であり続けること

孝橋

着色の業界はいまどんな感じなんですか?

吉田

やはり経営的にはきついですね。とにかく安さを求められるので、やりにくい時代になっています。しかし一方で、変わったもの、付加価値の高いものへのニーズもある。だから単価で勝負するところと、付加価値で勝負するところに、二極化しているように思います。ただウチのような小さなところは、単価勝負そのものができませんから(笑)。

孝橋

私からみると、吉田さんは職人ではあるけれど、昔ながらのやり方をひたすら守る感じはあまりない。むしろ新しいものを作り出していく、抽象的なオーダーを、具体的なモノに作り上げるクリエイターにみえます。

吉田

ありがとうございます。でも私たちの着色の仕事は、臭いし汚れるしきついし、若い人たちが定着しない職業なんですよ。ウチは幸いなことに職人さんが5人いて、全員定着してくれていますけれど。私も学生時代からやっていますが、どうしても手が汚くなるし、思春期の頃はちょっと悩みましたね(笑)。

孝橋

印刷も似たようなものですよ(笑)。老舗の跡継ぎだからしかたないなと?

吉田

とんでもない。私は着色の仕事が好きなんですよ。しんどいけどステキな世界だと思っています。それにウチは老舗といっても、代々伝わることとか、守るべき伝統とか、まったくありません。

孝橋

まったくないんですか?(笑)

吉田

私が後を継ぐ時も、先代は「若い人の感覚でやったらいい」といいました。だから受け継いでいるとか、守っているというより、そのつど「自分で作っている」という感覚なんです。「時代に合わせて柔軟に変わっていくこと」そういう教えを受け継いでいる、とはいえますね。

孝橋

これからのビジョンとかありますか?

吉田

大げさなものはありませんけれど、私は職人で、着色が好きなので、常に新しいもの、面白いものを考えています。これからもずっと「面白い着色屋」であり続けたいですね。


対談中も作業場では職人さんたちが黙々と塗装を続けていた

(株)吉田着色

住所

大阪市天王寺区勝山3-5-19

URL

http://www22.ocn.ne.jp/~yoshidaz/

クロスポイント Vol.40

公開

2013年02月15日(金)

取材・文

上間企画制作室 上間 明彦氏

取材チーム

株式会社明成孝橋美術 孝橋 悦達氏

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