(有)アラカワ紙業×グライド

ダンボールに新たな価値を吹き込む二代目の挑戦。

辻氏

中小企業の町・東大阪市で、ダンボールケースの企画製造販売業を営む有限会社アラカワ紙業の創業は、昭和44年にさかのぼる。現在は二代目の辻明徳氏がオリジナルデザインに強みを見出し、ダンボールでこんなものまで?!という斬新発想で新機軸となるダンボール什器も多数手がける。
今回、「デザインについてまだまだ勉強不足」と、メビック扇町にコンタクトをとった辻氏のインタビューは、パッケージ&グラフィックデザイナーであるグライド代表・小久保あきと氏が担当。うっかり2時間にも及んだ、ざっくばらんな対談から、いろいろな思いや悩みをお伺いすることができました。

独自のアイデアでオリジナリティを追求

小久保

ダンボールにオリジナルデザインを取り入れているとのこと、第一号を造るきっかけはなんだったんですか?

もともと製造業だけではこの先長くは続かないとは思っていたんです。
そんなとき、懇意にしてもらっている造花販売会社の社長から「配送用の梱包が、そのまま店頭での展示箱になる什器ができないか」との相談が。
什器を造るのは初めてのことでかなり悩みましたが、考えているうちに『そうか!挿せばいいのか』とひらめいたんです。そうして出来上がったのが、造花陳列什器でした。
それが約7年前のことです。新しい発想だととても喜んでいただけ、今でも弊社のヒット商品になっています。

小久保

挿して陳列という発想はあったかもしれませんが、配送用の梱包も兼ねているという合わせ技がオリジナリティですね。
企画設計は辻さんおひとりで?図面起こしはどうやっているんですか?

はい、企画設計は今でもすべて私ひとりでやっています。造花陳列什器のときはビットマップ形式という、かなり面倒な方法で図面を作成していました。が、手間がかかりすぎるので、以降は、友人にすすめられたCADを独学でマスターして図面を起こすように。それでも試行錯誤や失敗はつきものですけれどね。

小久保

独学とはすごい。もともとデザイン的な作業や絵を描くことが好きなのでしょうね。ほかには、どんな什器を製作されてきたのですか。

造花陳列什器を見本に営業にまわり、次に請け負ったのは、自転車のオイル缶を置くための什器です。最初にデザイナーの方が描いた図案があったので、それをどう図面に起こして組み立てるかというところからのスタートでした。デザイナーの方のイメージを聞きながら、強度や組み立て方法、パーツの提案などもさせていただくことに。

小久保

デザイナーが頭の中だけで描いたものと、実際のものとでは違いますものね。そういう意味では、デザイナーの発想とダンボールを扱うプロとしての辻さんのアイデアと技術力が組み合わさってこその製作だったのでしょうね。

おかげさまで、新しい経験と勉強をさせていただきました。うちにはまだまだデザイン力も技術もたりない…もっと、いろいろなデザイン什器を造っていかなくてはと、より強く思うようにもなりました。

三作目は抽選箱。構造自体は単純でしたが、ここではオフセット印刷とダンボールとの合紙という新しい試みにチャレンジ。 そしてサンドペーパー販売用のつり下げ什器の依頼があり、ここでコストの壁にぶちあたりました。

小久保

コスト面ではシビアにならざるをえない。どの業界も同じですね。

はい、ほんとうに毎回コスト面では頭を悩ませてきましたが、つり下げ什器のときが転機だったと思います。コストを抑えるべく思い至ったのが『1枚のダンボールで造る』という発想でした。パーツが増えるごとにコストはかかっていくものなので。

小久保

なるほど。コスト面でもそうでしょうが、1枚だとパーツの紛失もなく、組み立てる側もラクになりますよね。図面起こしで苦労されたとは思いますが。

相変わらず、試作と失敗を繰り返しながらの図面起こしでしたけれど。そこから“1枚もの”へのこだわりができて生まれたのが『Luckラック』です。当初は、展示会用にと黒色のみで展開していたのですが、事務所やご家庭でも使っていただけるようカラーバリエーションを増やしました。ダンボールは耐荷重が5kgもあり、へんな方向から圧力がかからない限り丈夫なんです。

小久保

そんなに強度があるんですね。こういうラックの需要は家庭でも多いですよね。天地逆でも使えたり、ティッシュケースがぴったりはまったりと。ちょっとしたアイデアも気が利いていますね。

取材風景

そういっていただけると嬉しいです。さらに、このラックを見て引き出しタイプの収納の依頼が舞い込んできました。一般的なダンボール製引き出しは、引き出しをひくと本体が一緒についてくるものがほとんど。ですが、弊社が手がけたのは、絶妙な空気の抜けで本体を押さえなくてもすっと引き出せる収納なんです。これは、いろんな箪笥を見て研究したおしましたね。

小久保

製作物やアイデアが、次の仕事へとつながる。とても理想的な展開ですね。

箱でもなんでも、世の中にはすごいアイデアのものがいっぱいで、それを目の当たりにするたびにまだまだだなと思います。

人と会うことで広がる発想を大事にしたい

先の話にあった造花販売会社の社長には、あちこち展示会に誘っていただいているのですが、会場で人や商品に出会うたびに、新しい発見や発想が広がっておもしろいなと。
たとえば先日、東京の展示会があったのですが、展示ラックなどの貸し出し費用があまりにも高くて、それならとダンボールで自作して持っていったんです。会場にいたほかの出展者の方に見せたところ欲しいとの声をいただき、ここにも商機があるかもしれないと思いました。まだまだ改良の余地はあるのですが。

小久保

もちろん1枚ものですよね。ダンボールだと折りたたんで持ち運べて、組み立ても簡単。展示会終了のさいに廃棄するにしてもラクですね。

 カートンフィーノ

その展示会でアピールしたかったのは、じつはダンボール製ファイルケース『カートンフィーノ』だったんですけどね。
そこでは展示会用に名刺サイズのミニケースを造って配布したのですが、これがまた大好評。チラシだと受け取ってもらえなかったのが、ミニケースを配るとみんな喜んでくださって、ブースをのぞいてくださるんです。ほかのブースの方が「ノベルティに使えばよいのでは」とアドバイスをくださり、なるほどと。
こっちを宣伝したいのに、こっちが売れる。とはよくある話ですよね。

小久保

人が集まる場所には、自分では考えつかないアイデアも集まっているということですよね。人と会う、コミュニケーションをとるということは本当に大事ですね。

小箱

そうですね、ほかにも大阪で出展のさいには、ラックやファイルだけでは寂しいかと思い、ポインセチアに見立てた組み立て式の小箱を造っていったんです。たんなるラックに置く飾りだったのですが、これに目を付けてくださった某大手花屋さんからお声をいただき、仕事にもつながりました。

小久保

そして、これも一枚もの!こういうのを見せられたら、なにか新しい発想の什器ができないか相談したという気になりますよ。アイデアに脱帽です。

ラクビーボール型什器

ぜんぶ中途半端なのですが、なんでもかんでもやりたい性格なんです。ほかにも、東大阪は中小企業の町ですが、ラグビーの町でもある。ということで、ラグビーボール型什器を造ったんです。新聞や雑誌をいれるなど、どうするか考え中ですが、親族にラグビーボールサイズのものをあげたら、フィギュアラックにしていました。これはいけるかも。

デザイン開発費をいかに認めてもらうか

小久保

すべて辻さんがおひとりで企画設計されているとのことですが、それぞれの製作物は、依頼を受けてからどれくらいの時間がかかるものなのですか?

ゼロの状態だと、最終的な図面が完成するまで3ヶ月は確実です。自転車のオイル缶什器は、ある程度のイメージをいただいたので…それでも1ヶ月半かかりました。引き出し収納は京都のお客さんだったので、行ったり来たりで1年ほど。

小久保

デザインと同じで、日数をつめたからといってできるものでもないでしょうしね。

目下の悩みどころは、開発費がでないということなんです。3ヶ月以上もかけてやりとりしても、「ダンボール屋がデザイン開発費を請求ってなんでやねん!」という感覚のようで、なかなか。
簡単にできると思われがちで…見本を造るにしても図面完成までに3ヶ月ほどかかります。その間の開発費がでないということは、それに没頭できないということで、動きが悪くなるんです。

小久保

ジレンマですね。

木型

見本だけでなく実際に製品化するとなると木型が必要になりますし、それを入れたら倍になってしまう。値段でもめてしまいがちなんです。
今回、メビック扇町にコンタクトをとらせていただいたのも、ゆくゆくはクリエイターの方と組んで展開できないかという思いもあってのことなのですが。デザイン開発費の壁がどうしても…。

小久保

なんとも悩ましいお話です。しかし今回お話を伺い製作物を拝見した限り、辻さんご自身がすでにプロダクトデザイナーですよね。デザイン部門を立ち上げて請け負うという方法もありですよね。逆に、クリエイターからの発注なら、開発費をある程度確保できるというメリットも考えられます。私自身、パッケージの仕事のさいには辻さんに相談したいと、すでに思っています。

耐久性、エコロジー…ダンボールのメリットを前面に

小久保

それにしても、ダンボールという素材の奥深さを今日はじめて実感しました。一般的な紙と同様に、おもしろいことができる素材なのだなとクリエイターとしても新しい発見です。
ただ開発費以前に、どうしても引っ越しや荷物の梱包用途が身近にありすぎて、安価なイメージがついています。もっと、ダンボールのいいところをアピールしないといけないのではと感じます。

取材風景

そうですね、じつは“木からダンボールへ”という動きが、業界的にはでてきているんです。
◎ダンボールは廃棄がラク、軽い、そのわりには強度がある。
◎木をまるごと使うよりも少量の木材で造れるのでエコである。
◎地震のさいに飛んで来てもダンボールのほうが衝撃は低い。
など、そのよさは見直されているんです。残念ながらコストは木とあまり変わらないのですが。

小久保

素材としての新しい動きがあるのなら、ますますダンボールの可能性が広がりますね。今後はどんな展開をお考えですが。

家具を製作したいと思っています。とくにベビーベッドをどうにか造れないかとずっと考えているのですが、まだまだ頭の中で試行錯誤している段階です。
それと子ども用の遊具ですね。ゲームだパソコンだといいながら、やっぱりアナログの楽しさは子ども心に響くもの。ブロックのようなシンプルなもので、夢中になって遊びますからね。

小久保

ベビーベッドの話ではないですが、ダンボールの新しい用途、付加価値をいかに見いだせるかが課題かもしれませんね。たんにデザインがよいというだけでなく。

そうですね、私が追求したいのはデコラティブなデザインのカッコよさでなく、理にかなったカタチの完成度なのだと思います。たとえば日本家屋の造りがシンプルに美しいように。むずかしいですけれど、まだまだ課題がいっぱいです。でもまずは小久保さんがおっしゃるとおり、ダンボールの地位向上から模索していきたいと思います。

(有)アラカワ紙業

住所

大阪府東大阪市荒川3-14-12

URL

http://www.arakawabox.co.jp/

クロスポイント Vol.35

公開

2012年07月23日(月)

取材・文

hi-c 石田 多美氏

取材チーム

株式会社グライド 小久保 あきと氏

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