MBM杉本製靴(株)×(株)Meta-Design-Development

創業60年のムートン靴メーカーが80歳のアイデアで次なる飛躍を狙う


会長の杉本平治氏

オーストラリアなど海外メイドのムートンブーツが昨今女性の間で人気だが、実は大阪にもムートンブーツを作る専門メーカーがある。創業60年、MBM杉本製靴株式会社だ。今回は、御年80歳の杉本平治会長がさまざまな偶然や出会いを経て開発、商品化が実現した「高級ムートン中敷」の開発秘話と、これからの展望を株式会社Meta-Design-Developmentの鷺本晴香氏がインタビューした。

いつも「人とのよき出会い」がチャンスに

製品

鷺本

御社は日本では珍しいムートン靴のメーカーと伺いました。

杉本

そうです。昔は同業者もたくさんいたんですがね。今は大阪ではうちだけだと思います。日本全国でも珍しいでしょうね。

鷺本

そうなんですね。どういった経緯でムートンを扱うように?

杉本

もともと私は靴職人だったんです。20代に独立して婦人靴の工場を経営していました。あるとき、働いていた職人さんが「社長、カンガルーの革で靴作りませんか」と言ってきて。その人は昔、カンガルーの革で靴を作った経験があってとてもよかったと言うのです。「それならやってみよう!バックアップするわ」と、新しく始めたのがカンガルーの革の靴。それが当たってね。通気性があって張りのある革がブーツにぴったりだったんです。実は、そのときの利益でこの建物(自社工場)が建ったんですよ(笑)。

鷺本

社員さんのアイデアを形にしたことが、大きな転機になったんですね。

杉本

そうですね。私の場合、「人との出会い」がチャンスにつながったり、人生の大切なことを教えられることが多いです。「人に恵まれている」というのでしょうか。事業をしていたらいつでも順調満帆というわけではない。右肩上がりのときに不渡りをもらって3年半もかかって返したこともあります。でもそのときに、「一番苦しいときに信用を積みなさい、いいときは信用はいりません」とある人に言われてね。「今が信用を積むチャンスなんだ!」と思って頑張りました。妻は今でいう‘ホームレス’になってもついて行くと言ってくれましたしね。ははは!

鷺本

「苦しいときこそ、信用を積む」。経営者として覚えておきたいことです。それに、とても素晴らしい奥さんですね!

すべては「もったいない」から始まった

製品

鷺本

ムートンを扱われるようになったのはいつごろからなんですか。

杉本

ムートンは、カンガルーの次ですね。というのも、カンガルーの革はなめすのが難しい素材なんですが、弊社の靴に適したなめし方ができる唯一の会社が廃業してしまって。他の業者では納得のいくものができなかったんです。そこで思い切ってムートンに切り替えました。

鷺本

ムートンという素材のどこに魅かれたんですか。

杉本

やはり、天然素材が持つ機能性の素晴らしさですね。野生動物が過酷な環境の中で生きるためのものですから。砂漠に住む人々も、毛皮を巻いてラクダに乗っているでしょう。ムートンは保温性が注目されがちですが、実はものすごく通気性と放湿性がいいんです。夏でも蒸れないんですよ。

鷺本

なるほど。だから天然の革にこだわってらっしゃるわけですね。中敷を作られたきっかけは?

杉本

ムートンブーツを作っていたら、裁断した後の端切れがいっぱい出ます。弊社の扱うムートンは、海外の高級ブランドの服に使われるような高価なものばかり。それを捨てるのがもったいないから工場に大事にとっていたんです。で、あるとき、寝たきりの人にムートンの大きな敷物をお見舞いに持って行ってあげたら、後日「これを敷いて寝たら床ずれしない」とものすごく喜ばれて。天然の毛皮の放湿性で蒸れないのがいいんでしょうね。それを聞いて自分の靴の中にも端切れを入れておいたんです。そうしたら、いつのまにか水虫が治っていてね。ひどかったんですよ、水虫。香港で薬買ってきて塗ってみても治らんしね。それが治った。私の足の裏見せてあげようか。

鷺本

わっきれい!ツルツルですね。赤ちゃんみたい!

杉本

私、80歳ですよ(笑)。ムートンは放湿性があるので夏に靴の中に入れておいても靴の中は蒸れずにサラサラに保てるんです。その話しを77歳のときに取材に来てくれた朝日新聞の記者さんに話したら「商品化したら」と言ってくれてね。「そうか、確かに自分だけで喜ぶのではなく、水虫や冷え性で悩んでる多くの人にも喜んでほしい」と。それで商品化を決めたんです。

鷺本

天然素材の機能ってすごいですね。商品化はどのように進めたんですか。

杉本

まずはいろんな人に試してもらいました。一日中長靴を履く商店街の魚屋さん、エベレストに登る登山家…。長靴はずっと履いていたらものすごく蒸れますが、ムートンを入れていたら湿気を逃して蒸れないんです。魚屋さんは「もうこれは手放せない」とずっと使ってくれています。また、登山家は靴が蒸れたら凍傷につながるので足の蒸れは深刻な問題です。それを軽減できればと知り合いの山岳写真家に使ってもらったら「これはすごい!」と感動してくれて。私が大好きな有名若手登山家にもお渡ししたところ「すごくよかった」と直接連絡くださって、本当に嬉しかったです。

鷺本

私も登山をするのでわかります。高い山を登っているときに足が蒸れると水分で体温が下がって足が冷たくなってしまいます。だから登山家は足のムレや冷えにものすごく気を使うんです。それが解消されるなんて画期的ですよ。登山家が感動するのがよくわかります。登山グッズとしても売られているんですか。

杉本

登山グッズとしては売ってないのですが、口コミで登山家の愛用者は多いですね。

鷺本

なるほど。他にはどんな方に使ってもらいたいですか。

杉本

一番買ってくれているのは魚屋さん(笑)

鷺本

それだけムレが解消されるということですね。長時間靴を履いて仕事をする人にとって足の快適さは本当に大切ですもんね。

鷺本

それにしても、海外の高級ブランドの服に使われるムートンを靴に入れてしまうなんて、贅沢ですね。

杉本

そうですね。ムートンの端切れが出る弊社だからできることです。

鷺本

私も試させていただきましたが、この中敷を靴に入れておくと靴の中で足が包まれるよう。肌触りもいいし心地よくて一度使うと辞められないです(笑)。冷えに悩む女性も喜ぶでしょうね。

杉本

冷えに悩む女性や、登山やゴルフをするスポーツマン、職業的に長時間靴を履く人…みんなに使ってもらいたいですね。高級ムートンは靴に入れっぱなしにしていてもいいので扱いもラクなんです。ときどき陰干ししてやるだけで再度ふんわり元の状態に戻ります。

課題は商品のよさを「伝える」こと

鷺本

今後は、「この商品のよさをどう伝えて行くか」が、課題ということになるのでしょうか。

杉本

そうですね。私ら、作るのはプロなのでなんぼでも試作していいものを追求するのは得意ですが、売るのは専門ではない。正直、そこが弱いと思っています。でも、買ってくれた人が喜んでくれ、知り合いに勧めてくれる。それでも十分嬉しいんですが、もっともっと多くの人に喜んでもらおうと思ったら、その辺りに力を入れていかないといけないんでしょうね。

鷺本

いろんな使い方があるので、複数のアプローチができるかも知れません。例えばアウトドアショップの登山コーナーや、機能性の高いグッズばかりを販売する小売店、若い女の子が寄るような駅近の薬局など、商品を置く場所やパッケージを変えてターゲット別に展開すると幅広い層にアプローチできるかもしれませんね。

杉本

なるほど、パッケージデザインですか。

鷺本

パッケージデザインの改良は今すぐできることかもしれませんね。今、教えてくださったような商品のよさが一目で分かるようなパッケージが必要だと思います。

杉本

なるほど。本当ですね。ありがとうございます。

鷺本

会社としては、今後どのように展開されていこうと考えていますか。

杉本

会社は息子の社長に任せていますが、今の靴の製造はしっかりやりつつも、福祉グッズの開発にも力を入れて行く予定です。先ほど話しに出てきた床ずれ防止のムートンの敷物など、ムートンの機能を最大限に活かして快適に暮らせるグッズを考えていきたいですね。

鷺本

なるほど。天然の革の可能性は、今後もっと広がりそうですね。今日はありがとうございました。

MBM杉本製靴(株)

住所

大阪市浪速区大国2-4-4

TEL

0120-470-192

URL

http://ssl.cypress.ne.jp/mbm.co.jp/html/

クロスポイント Vol.32

公開

2012年03月23日(金)

取材・文

わかはら 真理子氏

取材チーム

株式会社ファイコム 浅野 由裕氏
株式会社Meta-Design-Development 鷺本 晴香氏

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