和紙商小野商店×つくり図案屋

クリエイターとのコラボで和紙のさらなる可能性を

創業当時からあるという古い木の表札。事務所の奥の居間には、ボタン式チャンネルテレビが現役で鎮座し、その上にはシャケをくわえたクマとアフリカ象の置物、アイヌの木彫りと、昔懐かしい「昭和の定番」のフルセット。和紙商小野商店は、創業65年もの歴史を持つ和紙問屋だ。河手宏之氏はその若き後継者。
河手氏が会社を代表してメビックと関わるようになり、紙を売るだけでなく、クリエイターとコラボして制作にまで関わる機会が増えたという。光に透かすと校章が浮かび上がる卒業証書、一枚一枚手でちぎって繊維の質感を楽しむ名刺、懐紙を入れるための美しい箱…。意外と知られていない和紙の面白みとこれからの展望を、河手氏とは2年ほど前から親交がある、つくり図案屋の藤井保氏がインタビューした。

和紙の産地から印刷まで。すべてを熟知して提案できる問屋を目指す。

「小野商店」表札
河手氏

藤井

どうして河手さんなのに「河手商店」じゃなくて「小野商店」なんですか?

河手

それ、よく聞かれるんですよ。「河手」があまりに珍しい名前なので、祖父が親せきの名前を借りて「小野商店」にしたようです。今考えたら「河手商店」でもよかったような気がするんですが(笑)。

藤井

戦後すぐに創業された頃は、和紙は洋紙よりも使われていたんでしょうね。

河手

そうですね。襖や障子など内装用へのニーズが高かった時代です。その頃はここへ数人が寝泊まりしてフルで働いていたそうですよ。その後、マンションや団地の時代になってクロス張りが中心になってきたので、内装用としての需要は減りますが。

藤井

最近では和紙でいろいろ面白いものをつくられてますね。

河手

クリエイターの方とコラボでモノを作ることも増えています。クリエイターから思いもよらないオーダーを受けることも多いですが、「よし、やってやろう」と、考えるのはとても楽しいですし、勉強にもなりますね。

藤井

和紙を使うには、手刷りとか、活版とか、印刷方法までセットで考えないといけないから、使う側も知識がないとね。やはり和紙は専門性の高い素材ということになるんでしょうか。

河手

世に出回っている紙はほぼ洋紙ですから、和紙は使うのには明確な理由がいるのかもしれません。でも和紙は、1500?1600年もの歴史がある素材です。確かに使い方は洋紙に比べると気を付けないといけないこともありますが、使うことによって伝えられることもあると思います。

藤井

なるほど。河手さんは産地に直接出向いて別注で紙を作ったりもされてますよね。和紙の産地って主にどこになるんですか。

河手

越前、四国の徳島、北陸、鳥取などが多いですね。紙も産地によって地域性があるので、産地とクライアントのマッチングも面白いですよ。

藤井

家業とはいえ、紙のことを勉強するのは結構大変だったのでは。河手さん、家業を継ぐ前は全く違うことをされてたんですよね。

河手

紙とは全く関係のないサービス業をしていました。紙の世界だけでは狭いと思ったので、一度全く違うことをしてみようと。東京に配属になって楽しく働いていたんですが、祖父と伯父が立て続けに亡くなって家業が危機に陥ったんです。父は帰ってこなくてもいいと言ったんですが、1カ月悩んで帰って来ることに決めました。

藤井

そこから紙の勉強を?

河手

そうです。最初の1年間は、和紙の勉強期間として時間をもらいました。土日は産地に通って現場で職人に紙のことを教えてもらって。作り手のことを分かった上で紙の仕事をしたかったんです。

藤井

和紙のことを熟知してアドバイスできる河手さんのような人がいると、デザイナーはとても助かると思いますよ。興味はあるけど、どうすればいいか分からないという方も多いと思うから。和紙って、実はそんなに高くもないよね。

河手

洋紙の方が高いことも多いですね。和紙は本当に値段がいろいろなんです。

作品

藤井

和紙は実はものすごく種類が多いこと、値段も高くないこと、印刷しにくいばかりでもないこと…なかなか和紙についての情報は普段デザイナーに伝わってこないと思う。それに、和紙は和モノだけで使われるというわけでもないでしょう。和紙を使ってモダンな表現をする人もいますね。その辺をもっとデザイナーたちに告知していきたいですね。河手さんは、メビックのイベントによくかかわっていますが、メビックを通して実感として広がりはありますか。

河手

そうですね。最近はすごくあると思います。メビックは私にとって、いろんなことを吸収できる場所です。クリエイティブな発想に触れられるだけでも興味深いですし、デザイナーに無理難題言ってもらうと、活性化しますね。

藤井

例えばどんなことが?

河手

「土壁を引っぺがしたような紙を作りたい」というオーダーとか(笑)。職人と相談して、麻とパルプで土壁そっくりの紙が出来ました。立体物を作るのもおもしろいんですよ。この懐紙を入れる箱は、ちょうどポストカードサイズにして、懐紙がなくなってもずっと長く使ってもらえるようにと考えたり。これまで「紙を売る」というのが仕事だったのが、接点のなかったデザイナーさんたちと付き合えるようになり、自分が創造する側になったのはうれしいことですね。

クリエイターと切磋琢磨してモノ作りを楽しむ関係に。

河手氏

藤井

これからの小野商店をどうしていきたいですか?

河手

今後は、もっともっと印刷や加工など和紙の周辺の知識を身に付けて、制作について何でも話せる問屋になりたいです。クリエイターとお互いに切磋琢磨できる関係を作っていければ。また、平面の仕事に留まらず、プロダクトのクリエイターの方々ともモノづくりを考える機会があればおもしろいと思います。

藤井

プロダクトですか。

河手

例えばランプシェードとか。和紙は加工しやすいですし、丈夫で強く、環境負荷が低い素材です。それに気付いてもっとクリエイターが使ってくれれば。固定観念を打ち破るようなおもしろいアイデアで使ってほしいですね。

藤井

和紙はエコですしね。ものが溢れる今の時代、どこにでも並ぶ完成品には興味がないけれど、「ものが出来上がる過程」にはわりと興味がわくと思うのです。和紙を使ってできるプロダクトには、人の思いや産地の行程などがかかわっていてストーリーがある。そうして、昔からもともとあるものを見直してみることで、和紙文化の継承がきっと出来るんだと思いました。今日はどうもありがとうございました。

作品

和紙商小野商店

住所

大阪市天王寺区国分町1-15

TEL

06-6772-8521

URL

http://www.onopapers.com/

クロスポイント Vol.18

公開

2009年11月12日(木)

取材・文

わかはら 真理子氏

取材チーム

つくり図案屋 藤井 保氏

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