吉持製作所×langDesign

町工場は、FAX1枚の発注で何百、何千個も製造する時代ではなくなった。

地下鉄千日前線今里駅から歩いてしばらくすると、小さな町工場が軒を連ねる界隈がある。その中でも元気なのが、ヘラ絞り加工の吉持製作所(大阪市生野区)だ。デザイナーと連携して新たな境地を切り開いている企業であり、「FAX1枚の発注で何百個、何千個も反射板をつくる時代ではなくなった」と語る同社代表のヘラ絞り職人、吉持さんにお話を聞いてみた。

不況になった途端、仕事がゼロになった。


回転する丸い板が立体に。職人技で命を吹き込まれる瞬間。

浪本

ヘラ絞りの技術を扱う企業は大阪にどれぐらいあるんでしょうか。

吉持

少なくなりましたよ。今200軒あるか、ないかですね。

浪本

ヘラ絞りの技術を使って製造するものは主にどんなものが多いのでしょうか。

吉持

うちでは主に照明用の反射板を作っていました。

浪本

どういったところからの発注が多いのですか。

吉持

メーカーからの発注が多いですね。我々のメリットを活かそうと思ったら、50個、100個ぐらいのものを納品する規模のものが多いですね。


吉持 剛志さん

アルミのものでみなさんが知っているもので言えば、小学校の食器とか、空調関係のパイプ付近の部分を制作しています。数が多いものはどうしてもアジアに工場がある企業への発注が多くなってしまっています。それまでは大手家電メーカーからの依頼で反射板をつくっている時代が長かったんですけどね。そういう依頼は不況になった途端、パタリと途絶えてしまった。仕事がゼロになったことがあって。どないしようと思いましたね。

浪本

どうやって乗り越えられたんですか?

吉持

仕事を待っていてもしょうがないので、城東区とか需要のありそうな地域を自転車でまわり、まず狙いを定めてポスティングしてみたんですが反応はゼロ。ぜんぜんダメでした。それで4年くらい前に産業創造館などに相談に行ってみたんですが、そこでホームページをつくるネット塾というのがありまして。それで自社のホームページをつくってみたんです。すると新しい依頼がインターネット経由で来るようになったんですよ。

新しいクライアントを運んできたのは
インターネットだった。

浪本

どんな依頼が来るんですか?

吉持

例えばオーストラリア製のジューサーを脱水機にしてほしいという依頼がありました。トータルで5台制作したんですが、もともと楽観的やから「できるんちゃう?」と思って。やってみたらたいへんやったけどね(笑)。

面白かったのは、手品の興行主からの依頼で、こういうカタチの手品の一部をつくってほしいというのがありました。内容はもちろん秘密ですけどね(笑)。

そんなふうに今まで考えもしなかったような依頼がくるようになりましたね。先方がこういう依頼に慣れていない方も多いので、図面ではなくてスケッチで届くこともあり、それを見て考えるんです。

浪本

イマジネーションが必要な作業ですね。

吉持

吉持氏

それが面白いんですよ。例えばプロダクトデザイナーの方からの依頼で、サイドテーブルをつくってほしいというものがありました。木型までつくってやりましたよ。ナショナルジオグラフィックという雑誌に掲載されていたアメリカの湖だったかな、その風景を見て神秘的なあの雰囲気をつくってほしい、という依頼なんですよ。そういうクリエイターの発想にふれると面白いですよね。

それまでというのは同じものをひたすら製造する作業が多かったのですが、最近請ける依頼は頭をフル動員しないといけない。そこが面白い。

浪本

インターネットを導入してよかったですね。

吉持

ただ、お客さんが求めるレベルも高いんです。微妙なラインを要求されるので、デザイナーさんに確認してもらいながら、自分で木型を削れるとベストはベストやね。

特にステンレスを扱うのは難しいんです。反発するですよ。スプリングバックという特性があって、性質的に外に開こうとするんです。

あるときステンレスを使ったモノの依頼を受けて、良いものがつくれなかったときがありました。このままじゃいけないと思って、ぜんぜん知り合いじゃなかったのですが、近所のへら絞り職人である西山さんところに行って、ステンレスを扱う方法を教えてもらったんです。前から腕が良いことは知っていたんです。若い頃から人が嫌がるような依頼を率先してやって来られた方です。もう少しで還暦を迎える私よりも10年以上キャリアのある方なのですが、うれしいもので、気さくに指導してくださりました。普通、職人はいつもと違う台では作業しにくいものですが、西山さんはうちにきてもたやすく作業されていました。結局経験値の差ですわ。

浪本

交流を広げておられるんですね。

吉持

確かにいろいろな交流を持ったことで広がりができていますね。例えば生野工業高校と親しくなっているのですが、ライントレーサーと呼ばれる小さなロボットがあるのですが、そのロボットのカバーを制作するために学生さんがうちにやってきたり、その工業高校の研究発表にコメンテーターで呼ばれたりしています。

ほかにも、代表を勤めている異業種交流会フォーラムアイの活動をテレビで見られた東京の大学の先生からもお話がありました。その先生は、ローラーを上下しながら楕円形のものを制作されているみたいなんです。そんな方と交流を持つことなんて、今まででは考えもしませんでした。

若い職人を育てるばかりではなくて、そうやって新しい技術とつながることで、また新しい技術や市場が育っていくと思います。

コア技術を磨くか、
デザイン的要素を取り入れるか。

吉持

中小企業が生き残って行くためにはコア技術を磨くか、デザイン的な要素を取り入れて数少ないものをうまくつくっていくかどちらかしかないんですよ。


浪本さんプロデュースのコラボ作品
「花器」。花器の上部は吉持さんが
アルミをヘラ絞りで加工したもの。
下部は吹きガラス職人
GGGの佐藤さんの手に寄るもの。

僕らの友だちのメッキ屋さんに一度倒産しかけた会社があるんですが、大学の先生と相談していろいろやっているうちに、機能メッキに特化しようということになったんです。装飾的というよりか、機能をメッキすることで、新しい市場を広げています。

そういうふうにしてコア技術を磨くか、浪本さんのようなデザイナーさんと関わることで違うことをやると新聞社とかのマスコミが取り上げてくれることもあります。前回花の器を記事にしてもらいました。そういうことが大きいですね。これからはデザイナーさんとのコラボが必要やなと思います。彼らはもっと深いところまで考えてはるから。

浪本

今は山ほど製品があり、フォルムが良いだけでは特長は出しにくい時代だと思っています。最近はストーリーとか使い方とか、その前後関係を特に意識しています。使い方も含めて生活スタイルも考えながらデザインやもの作りをしていきたいですね。今日はありがとうございました。

取材風景

吉持製作所

住所

大阪市生野区中川2-16-14

URL

http://yosimoti.com/

クロスポイント Vol.12

公開

2009年01月28日(水)

取材・文

狩野哲也事務所 狩野 哲也氏

取材チーム

(株)ランデザイン  浪本 浩一氏

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