“言葉のチカラ”を武器に、新たなビジネスモデルを構築
永江 英夫氏:(有)CRマネジメント


精道アパートの広告

大谷石+イエロバラウ+パウ・キジャン+大波ガラス+ポーチエントリー+木製ハイサッシュ+イタリアンキッチン+ネコ脚バスタブ+パンチングメタル+ムービングロッカー+ストレージ+20人乗りエレベーター+天井高2m90cm+賃貸=誰にも似ていない暮らし。


仕事中の永江さん

思わず歌ってしまいそうなテンポのこのテキストは、コピーライターの永江さんが、芦屋の高級マンションのために作ったものだ。長いコピーがポスターの全面を覆うように配置されただけの、シンプルで無駄のないポスター。写真は一枚も載っていないのに、商品であるマンションの様子が手に取るようにわかるからすごい。これがコピーライターの仕事なんだと納得する。どんなふうに数々のコピーを生み出してきたのか、今回は永江さんの頭の中を覗かせてもらうことにした。

消去法でコピーライターへの道を選択

永江さんがコピーライターになりたいと思ったのは、高校生のとき。当時はコピーライターの草分け的存在・開高健氏らが活躍していたもののまだ、“コピーライター”という言葉が市民権を得ていない時代だった。

「サントリーの広告本を見ていて、コピーライターという職業に興味を持ちました。何かおもしろそうだなぁと。とはいえ、最終的にコピーライターの世界へ進んだのは、『自分にできる仕事はこれしかない』という消去法的な選択によるものだったかもしれません」

大学4年生のときコピーライター養成講座へ通い、市田の意匠宣伝部へ入社してコピーライターデビュー。その後、新光美術を経て神戸の大広へ移った。

「それから11年くらい、大広でコピーライターをしていました。大きな案件も手がけましたし、仕事自体は楽しかった。でも、10年以上もひとつの会社で働いていると、毎年毎年同じことをしているような錯覚に陥るんです。今年もまたこれか、みたいな。仕事に対するモチベーションが上がらない状態から抜け出したくて、それならフリーでやってみようと会社を辞めました」

さまざまなコピーを手がけ、“言葉のすごさ”を実感


コピーを手がけた作品の数々

独立を機に、永江さんの仕事に対する意欲が爆発する。自分が長年扱ってきたはずの“言葉のすごさ”を初めて実感したのも、フリーになってからのことだった。

「高級スーツのDMのコピーに頭を捻ったこともありましたねぇ。ああでもないこうでもないと1週間スーツのことばかり考えて、山ほど書いたコピーは全部却下。あるときストンと思いついた“His elegants”というひと言が採用されたときは、胸のつかえが取れた気分でした。また、揖保乃糸のそうめんと醤油メーカーによる広告のコピーなんかおもしろかったですよ。何気なく書いた“ソーメンツーユー”というコピーがめちゃくちゃ気に入られて新聞広告のシリーズになり、最終的には“ソーメンラップ”なる楽曲まで誕生しました(笑)。ほかにも、ローン会社の広告のため、俳優のジョン・ローンにダメ元で出演依頼したり…。楽しかった仕事は数え切れないですね」

冒頭で紹介した芦屋の「精道アパート」のコピーも含め多彩な仕事をこなすなかで、永江さんは“言葉の強さ”に気づく。大きな転機を迎えつつあった。

“コンパクト・ブランディング”


コンパクト・ブランディングを語る
永江さん

コピーライターのしていることは“翻訳”だと永江さんは言う。抽象的な概念を具体的な言葉に、難しいものをわかりやすく翻訳して伝える。その能力を、広告などの販売戦略も内包する企業活動そのもののマネジメントに応用できないか、模索を始めたのだ。

「考えた末、辿り付いたのは“コンパクト・ブランディング”という概念でした。ブランディングとは、商品の表面的な広告プロモーションだけでなく、売れる仕組みそのものを作ることです。その中でも、社長の想いがブランド力に直結する、中小企業のみを対象にしたブランディングを“コンパクト・ブランディング”と位置づけました。分野を絞り、一点突破をめざす。広告プロモーションにかける資金も人材もないけれど、やる気があって生き残るための知恵は絞る。そんな企業をお手伝いするための取り組みに、力をそそぎ始めたところです」

「実は来年、デビューしようと思っているんです」と永江さん。デビューって、いったい何に…?

「他人のブランディングをとやかく言う前に、まずは自分自身をセルフブランディングして、一人でも多くの人に自分の存在を売り込みたい。そういった意味でも、来年から精力的にセミナーなどを開催していこうと思っています」

すでにメビックや大商、産業創造館において、「コンパクト・ブランディング」のセミナーを開催することが決まっているのだとか。デビューの話は、どうやら本気のよう。一方で、ライターやコピーライターに元気がなく、また、個々のつながりが全くない状況を打破しようと、昨年から「ライターズナイト」という飲み会なども仲間と開催したりしている。

「興味のある方は、ぜひ連絡してください」


来年デビュー!?

公開日:2008年11月14日(金)
取材・文:岸良 ゆか氏
取材班: 北 直旺哉氏