お客様の満足度を大切にしてきたから、今の自分があると思う
吉岡 真夏氏:(株)シンカネット

毎日放送の向かい側にたくさんのオフィスが入居するマンションがある。通された部屋は真っ白の空間。ここで様々なホームページがつくられている。高校は美術学科、大学は大阪芸大の美術学科。「もともとアーティストになりたくて、学生時代は絵をたくさん描いていましたね」と語る吉岡さんに、起業までの経緯、そしてこの先のビジョンをお聞きしました。

吉岡氏

「学生時代はぽつりとぽつりと感度の高い人がマッキントッシュを持っていたりして、僕も先輩の家で使わせてもらいました。これはかっこいいぞ、まるでSFの世界だと思っているうちに欲しくなって、その時期でもいいものを無理して買いましたね。そのパソコンでフライヤーをつくったり、学生の頃からデザインの仕事を請けていたんです」。

できないことも、やってみる。

「『パソコンを持っているなら』と言う理由で、デザインやDTPの仕事をもらっていました。最初は当然、紙媒体が多かったのですが、ぽつりぽつりとホームページの仕事の依頼が来るようになりました。当時はまだインターネット接続も珍しく、つないでもなかったのですけど、『やってみますよ』と言って引き受けたんです。

わからないことがあれば近所の本屋さんに行って、このタグはこういう意味なのか、と立ち読みしてました。そんな感じで当時からひとりで全部やっていました。当時はCGIのメール送信フォームでも高価だった時代です。プログラム技術もそれほどなかったので、どうしよう!エラーばかりでなかなか動かない、というような状況でした。それが1996年ぐらいのことです」

10ヶ月だけの、サラリーマン生活。

実は吉岡さんは、サラリーマンを少しだけ経験している。「やる仕事やる仕事すべて毎回新しいことばかりなんですね。それが少し疲れたなって思った時期があって。そんなときにたまたま新聞を見ていたら、求人欄にグラフィックデザイナーの求人募集があって、思わず電話してしまったんですよね。そしたらすぐ面接することになってしまって、慌ててスーツを買いに行きました(笑)」

面接に受かり、会社に入った吉岡さんは、すぐにあることに気づく。「なんて効率の悪いことをしているんだと。アパレル系の販促物広告物をつくる部署にいたんですが、そこは徹夜の繰り返しで、これは割りに合わないなと思いました。これをフリーでやったら何倍稼げるんだと思い始めて。でも今となっては会社組織というものを知る貴重な体験をさせていただきました」。

吉岡氏

寝る時間がない、寝る時間しかない。

会社を10ヶ月で辞め、フリーに戻った吉岡さんを待っていたのは、睡眠時間の減少だった。「もう紙媒体よりウェブのほうが面白かったですね。アイデアさえあればなんでもできると思いましたし、世間もそんな風潮でした。

その頃、個人でもドメインが取りやすくなって、1999年にshinka.netを取得しました。その当時、まだ友だちも頻繁に展覧会をやったり、僕もアーティストになりたいと思っていた時期だったんで、クリエイター向けのポータルサイトにしたんです。最初は作家さんたちに『こういうサイトをつくったので、登録してくれませんか』という内容のメールを100人ぐらいに送ったんです。そこから口コミであっという間に数千人、1万人と増えていって今に至ります。ネットの伝染力ってすごいなと思いましたね。

そういった個人的なサイト運営とは別に、仕事として企業ホームページの受注も増えてきました。フリーで活躍しているときの屋号もサイト名と同じシンカネットに変更しました。その後順調に仕事も増えてきたんですが、寝る時間もない、寝る時間しかない。『これはさすがにやばいぞ、死ぬんちゃうか』と思って、どれぐらいの時間働いたら死ぬんかな、とネットで調べてみたりして、本気で来週は死んでるかもしれないなと思っていましたね(笑)。人に手伝ってもらうのが苦手なタイプでしたが、さすがに命にはかえれんと思って法人化し、スタッフを増やしました」

事務所風景

仕事を請けてから技術を伸ばしていった

「できない仕事を請けて、できたときはうれしかったですね。初期のころは全部そうだったんですけど、ボタンもマウスオーバーしたら画像が変わるようにしてほしい、と言われてから、どうすればそうできるのか勉強する、そんなやり方でした。自分から先に進んで勉強したというより、請けた仕事に育てられたと思います。

当時はまだWEBサイト制作もできたばかりの分野で、制作費の交渉もほぼ勘でした。時間とか苦労とか考えると紙媒体ならこれぐらいかなと、常に手探りでやってました」

満足度重視の経営スタンス

僕は相手の満足度重視なんです。僕の自我で押し付けるのではなくて、向こうがやってもらいたいことをできるだけ聞きだして、クライアントの満足度重視でやっています。希望されるデザインがイマイチでも、できるだけそれをよくして望みをかなえてあげる。それがちょっと普通のところとは違うかもしれません。

もともと実家が商売をしてたんで、ありがとうございます、というのが身についているのかもしれないです。無茶を言うクライアントや、実は向こうのミスなのにキレてきたり、本当は負けず嫌いで言い返さないと気が済まない性格なんですが、気持ちよく謝るようにしています。お金をもらうからには、つい相手の満足度も考えてしまうんです」

これからの会社の方向性

「これまではクライアントから請けた仕事をするのは中心の受注のスタイルでしたが、これからは自分たちのつくりたいサイトを企画し立ち上げ発信していきたいですね。現在既にクリエイター向けの作品投稿サイトの企画などが進行中です。まずは利益よりもどーんと人が集まり、サイトが盛り上がることが目標であり楽しみでもあります。今後はもっと多くの人を巻き込んで、自分たちの楽しいアイデアを実現していける会社にしていきたいですね」

事務所風景

公開日:2008年11月04日(火)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班:株式会社ゼック・エンタープライズ  長尾 朋成氏