人の5倍は手間をかけたい
内池 秀人氏:(有)エクラン

内池氏

大阪・中津のマンションの一室に撮影スタジオ「エクラン」がある。代表をつとめる内池秀人さんは、吉本興業や某テーマパークの撮影など、日本を代表する企業の仕事を数多くこなす、関西で忙しすぎるカメラマンだ。現在に至るまでの生きざまについて、じっくりお話をうかがった。

独学で撮影技術を磨いていった

撮影風景

「音響関係の専門学校に入ったんですが、当時は卒業してもそんな音響の仕事なんて少なくて。プロ向けのカメラ屋でバイトしながら、カメラマンとしての仕事をはじめました」。近所の写真館からの仕事で、学校の遠足やピアノ発表会の撮影に出かける日々が続いた。

「それからしばらくして音響時代の友だちがヨーロッパでツアーをすることになって、写真やビデオの撮影をしました。楽しかったですね。音響とか照明とかお手伝いしつつ、スライドでビジュアルを写したり。今で言うVJですかね(笑)」

内池さんにとって、カメラマンの師匠はいない。学校で勉強したわけでもない。すべて独学で仕事を覚えていった。

「独学で失敗しながらでも写真の勉強はできると思いますよ。わからなかったら本で勉強できるし。仕事をはじめた当時は、今なら数分でできる撮影が何時間もかかってしまいましたね。現像してみたらブレていたり、ぜんぜん写っていなかったということもありました。そうやって身体で覚えていったほうが、身になるんじゃないかと思います」

アイデアの引き出しの量が、その後の評価を広げていった

ヨーロッパのツアーで出会った編集者の誘いで、学生援護会の仕事や、当時、産経新聞がシティリビングを創刊するということで、スタッフカメラマンの仕事が入った。

「当時の学生援護会の仕事は面白かったですね。アルバイト情報誌anの周辺は、大阪のちょっと変わった若手のクリエイターが一気に集まった場所でした。編集者やデザイナーと、あーでもない、こーでもないとアイデアを出しながら仕事していました」

そのアイデアを出すやりとりが、内池さんにとっての得意分野となる。

「頼まれたらなんでも自分でつくってしまうんですよ。発注側もこういうテーマがあって、ビジュアルはどうしたらいいんだ、と聞いてくるわけで、じゃあこうしたらどう? というアイデアの引き出しのひとつとして、小道具を用意するわけです」

訪れた当日も吉本興業のタレントさんの撮影のために、木の枠を製作されていた。撮影する際には窓辺の枠部分になるそう。

「求められていること以上の結果を出すようにしました。今だったらCGやデザインで小道具をつくることができると思いますが、当時はそんなものがないから自分でつくるほかなかったんです。でっかいネジが必要と言われたらFRPでつくってみたり。山の頂上に会社のロゴが浮かび上がるような撮影をしてみたり、ポンプから水を出したいと言われると、『あいっよっ』とつくって見せるんです。デザイナーアシスタント兼スタイリスト兼カメラマンをこなせる人って、ほかにいないでしょ」。

人の5倍は手間をかけたいと考える。「普通の雑誌のインタビューだったら、壁のところで、ばちっと撮影すればいいんだろうけど、そこは手間をかけてバック紙を持っていて、素早く2分で撮影したいんです。そのあたりは評価されているんじゃないかと思います」

ご自身のキャリアアップとともに事務所を立ち上げたのかといえば、そうではない。
「事務所を立ち上げたころは最悪の時代でした。当時はバブル崩壊のあとで、売り上げ3分の1に落ちました。何をしても貧乏しているんだったらと思って」

撮影風景

内池流、部下の育て方

「独立したスタッフがカメラマンとして活躍しているのを見ると、やっぱりうれしいですよ」。これまでに20名のスタッフを育ててきた。人気のある雑誌でエクラン出身者の名前を見ない日はない。部下の育成に気をつけていることはなんだろう。

「彼らよりも早く出社するようにしています。だいたい7時半には出社してblogに掲載する写真をスキャナーに取り込むところから一日が始まりますね。スタッフは通常10時出社ですけどね。それと、自分の給料はスタッフよりも安くしているんです。これなら怒られても文句言えないでしょ(笑)」

エクランスタッフの特徴は、行動が素早い

「遅刻しないように、ということは、うるさく言いますね。基本30分前行動ですね」

30分前行動には利点が多い。電車が遅れたから、などの言い訳は良い評価につながらないし、クライアントとコミュニケーションをとる時間も格段に増える。雑談から生まれる仕事もある。すべての行動指針から勉強する姿勢がうかがい知れる。

「カメラマンは基本、インタビューのときは聞くだけなんで、だまって人の話を聞いていたらそれだけで勉強になりますね。やっぱりプロの方を取材するときは、勉強になります。自分自身が仕事の中からレベルアップしていったと思うんで、スタッフにもそうしてもらいたいです」

50歳になったら引退すると言う。「若いときは40歳になったら引退するって言っていたかも(笑)。上の者が居座っていたら、下の者が出てこないと思いますよ。引退するまでに、エクランスタッフに何か残したいですね」

撮影風景

撮影風景

撮影/(有)エクラン 福井 麻衣子氏

公開日:2008年10月29日(水)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班: 宮下 大司氏 / 株式会社ビルダーブーフ  久保 のり代