必ずそこに居て、スタンスを崩さずに続ける事が大事だと思う。
前村 智恵子氏:(株)アンテナ

北野病院の西側、北区万歳町の辺りもクリエイターの入居ビルが多く存在し、デザイナーだけでなくアートや音楽の情報も存在する。そんな街にグラフィック全般、Webデザインも手掛ける株式会社アンテナがあり、窓と入口を開放して風が渡るオフィスは若さにあふれています。若き代表取締役、前村さんに起業に至るまでと現在の状況などについてお話しを伺いました。

本当は安定した事務職を望んでいた…経理からスタートした異色のキャリア
「坊さんの頭にとまっているハエを取ってくれ」って事も

前村氏

「就職時は安定して続けられる事務職を希望していた」と言うことで、最初の職場はプロカメラマンの写真を現像・加工するプロラボに経理社員として就職し、一般的なOLとして社会人生活を満喫していたと笑う前村さん。

ところが、少人数の会社であったのとデジタル現場での制作スタッフが辞めてしまい、当時は他にパソコン自体を使える人も少なく、急遽Macを使った写真の加工や合成を手伝うことになった。全くの素人が独学で習得したフォトショップを使い、複雑な髪の毛の切り抜きや、電線の消去などの根気いる作業をコツコツ手伝って経理と二足のわらじ状態を続けていました。

地味な仕事でしたが、もともと絵や美術が大好きだったので大変楽しかったのですが、そうこうしているうちに会社が経営不振により大手に吸収されてしまい、当初は「これはチャンス!大手のいろんな仕事が出来る」と思いました。しかし同時に「自分には事務は向いていない事はハッキリとわかった。楽しさを知ったクリエイティブの仕事を続けて行きたいが、デザインもアプリケーションも独学だけではやっていけないのでは…」と不安が強くなり、専門学校で一から学び直そうと考えてしばらく務めた後に退職しました。

専門学校時代に築いた異業種交流からのネットワーク

「デザインプロダクションへの就職がしたい」との思いで専門学校のDTP科に入学。
ところが入学はしたものの学校では決まった時間に授業に出て、講師の言われたことをこなす淡々とした日々。「ナマケ気性なので決まった時間に授業に出ることが合わないなぁ」と感じていた。丁度その頃、学校からの異業種交流会のイベントがあり「何か勉強になるかな?」と参加、これをきっかけに以降3年間は定期的に行われる交流会受付などの手伝いを続け、そこで「デザイナーをしています」と自己紹介した事がきっかけになり、前村さんを応援してくれる方々に出会ったことでフリーデザイナーとしての制作も手がけるようになる。結果的に専門学校は卒業できなかったけれども「先払いの高額な学費をとりかえすぞ」との思いと、せっかく自分を応援してくれる先に「卒業、就職します。これでフリーは終わり」とは言いにくい状況もあり独立の道を選びました。

カミカゼスタイルで突き進んだ独立当時。

独立当時の苦しかったことは、やはり受注が少なく、打ち合わせ時に片道の交通費しか無くて訪問した事も何度かあったとか、そして少しずつ仕事が増えてきて現在に至りました。

「私は元々アナログ人間なので、仕事を始めた頃はインターネットやメールもほとんどやらなかったため、当初はWebの仕事が来たときは七転八倒して友人に助けてもらったり、交流会を通してシステム関係の人と知り合ったりしてこなせるようになっていきました」「今から思えばわからない事も多かったけれど、お勉強するために部屋に籠るよりは、未熟やけど走りだしてしまえ!と突き進む方を選んだのかな」と前村さん。

業種の枠にとらわれない提案。

Webや会社案内には、企業間や業界での決めごとがあるようなインターフェィスやデザインが多い。「カタイ会社でもユニークで感性的なデザインは有りと思う。業種や慣習にこだわらず、その会社や商品を自分のフィルターを通して表現できれば」そんな思いで制作しています。
元々、絵や写真が好きで最初はアーティスト気分だったのが、最近はロジックにモノを考えるようになってきましたが「コンセプトに沿ったデザイン制作は意識しながらも感性や個性は反映したいですね」と考えています。

現在は、プランナー、webデザイナー達と、グラフィックデザインやイラストレーション、Web制作までを幅広く手掛けてディレクターの役割もこなしていますが、経営者としても色々と考える毎日で「デザイナーもクライアントの時間を出来るだけ使わないようにスケジュール管理をしっかりと行い、合理的に仕事を進める事も大切に思うし、自分たちも作業は可能な限りルール化して、もっと考える時間を増やしたい」そして「最初はたまに仕事があったクライアントから、頻繁に仕事が入ってくるようになってきました」このサービス業を意識した考えがクライアント受けしている理由のひとつでしょう。

プライベートブランドのデザイン

前村氏

個人的には演劇などのアーティストの世界や関連の仕事は楽しく、現在はショップカードや名刺を題材に、形状や紙素材を研究しつつ視点を変えものを商品化したい。
「名刺の整理の時にOCRでスキャンするのにデザイナーの名刺ほど困るものは無い、穴の開いたものや黒とか銀の文字とか、サイズ違いも困ったものだ」というオジサンの声もある中、しばらく名刺談義に花が咲きましたが、渡した時の印象が大切なデザイナー名刺はセンスや職業をPRするもの、他の職業でも同じ感覚を分かち合い、名刺というカテゴリーを意識せず用途をカタチに反映した「えっ!と思うもの」が有ってもいいと思っています。

若手のデザイナーが少なくなる中で、短期間に法人設立まで至っている前村さん。「もともと人見知りで、話しかけられたらお話しはできるのですが」と控えめな言葉で始まったインタビューでしたが、実はとてもエネルギッシュで行動的な人。話していてとても心地良い雰囲気を持っていて、出会った人を大切にされている話は印象的でした。

公開日:2008年10月22日(水)
取材・文:つくり図案屋 藤井 保氏