柔らかくしなやかなクリエイター社長
溝口 香織氏:明天堂(株)

ギラギラした野心を抱いて興した会社とは違い、グラフィックデザインの明天堂(みんてんどう)株式会社は少し違った形で設立されました。それだからか、代表取締役を務める溝口香織さんには、起業間もない社長に見られるようなクドさや激しさは感じられません。クリエイティブへのたぎる思いも、その優しくまとった穏やかな空気の内に秘められているようです。

デザイナーとしての将来に疑問を感じて

溝口氏

岐阜出身の溝口さんは、金沢の大学で商業デザインを学んだのち地元・岐阜の印刷会社でデザイナーとして働いていました。そこで5年ほど勤めるうち「結婚して出産した人が職場に復帰することもなく、このままここで働いていけるのかな」と将来を考えるようになります。
さらに、会社とその関係以外に外部と接する機会もなく「自分のデザイン感覚はどうなのか?」との疑問や不安を抱くようにもなりました。「転職するか」「デザインを勉強し直すか」と考えていたとき、出会ったのが彩都IMI大学院スクールでした。

奥村氏を師事し、学校と実践で学ぶ


「いのちをまもる知恵」

同スクールは、デザインをはじめWebや映像などのクリエイティブを横断的に学ぶ学校で、土日だけの開講。そこで講師を務めるグラフィックデザイナーの奥村昭夫氏と出会い、師事するようになります。
当初の半年ほど、平日は会社で土日は大阪まで通学するという生活を続けていましたが、秋には会社も辞め大阪に居を移します。1年間で修了の学校でしたが研究生として引き続き在籍し、奥村氏のアシスタントを務めます。

資本金を出資してもらうオイシイ話

溝口氏

その後、2006年の秋。奥村氏が展覧会を開く際、その展覧会を取り仕切る会社を立ち上げることになりました。しかも、「それを学生らで運営するのが面白い」ということになり、明天堂合同会社が設立されます。そのメンバーの一人が溝口さんでした。

しかし、展覧会のイベントが終了するのと同時に会社の事業もストップします。このまま休眠会社にするのは惜しいと、翌年の2007年の春に奥村氏が資本金を出資して株式会社に改組することに。ところがその運営に誰も名乗りをあげません。そんななか「出資してもらって会社が持てるなんてオイシイ話」と、溝口さんが手を挙げます。こうして明天堂株式会社の溝口香織社長が誕生しました。

「制作ひと筋」が経営の初心者として勉強中


「いのちをまもる知恵」

今年2期目となる明天堂の目下の課題は営業。「ずっと制作ばかりやってきたので営業は苦手。自分を売り込むのが難しい」と、溝口さんも起業したクリエイターの多くが抱える悩みを抱えています。それでも「1年目は『どうしていいのやら』でしたが、今は税理士さんに相談しながら勉強しているところです」と、経営者としての地歩を固めています。

本屋さんへ行ってもデザイン本と同時に経営に関する本も気になるそうで、「制作者より経営者としてエネルギーを使っています。今は自分のことより会社に利益を残すのに必死。早く『回っている』という実感が持てるようになりたい」と、経営者としてのスキルを磨く日々です。

明日に向かう熱い思い

溝口氏

とは言え、「ロゴやパッケージのデザインをやっていきたい」「印刷会社にいたのでDTPのスキルを活かし、それを土台にして新しい分野にチャレンジしたい」と、デザイナーとしての思いは熱いものがあります。

明天堂の「明天」とは中国語で「明日」という意味。社名には「お客さんと一緒になって明日のカタチを考えたい」という思いが込められています。「デザイナーの押しつけにならないよう、お客さんの希望を取り入れつつも質を落とすことなく、より良いものにするための提案をしていきたい」。

社名には、溝口さん自身の明日のカタチも込められています。

公開日:2008年10月07日(火)
取材・文:福 信行氏
取材班:株式会社ファイコム  浅野 由裕氏