「見た目」だけではないデザインを考える
北村 竜司氏:カレント

「かっこいいデザイン」と「売れるデザイン」は違う。単に、意匠や造形を制作するのではなく、それを取り巻く背景やつながり、販促や告知もデザインだとの視点から、プロデュースを心がけるというカレント代表の北村竜司さん。デザイナーの自己満足でなく、商業として成り立つデザインかどうかを見極めながら、ブランディングにまで踏み込んでデザインを考えておられます。

憧れの海外生活に向けて

北村氏

「ずっと、海外で働くのを思い描いてました」と話す北村さん。高校を卒業後、見聞を広めるため単身タイに出かけます。
ぼんやりながら海外生活を模索していた北村さんは、旅先で出会った日本人に、働きながら海外生活ができるワーキング・ホリデーという制度があるのを教えてもらいます。

「そんなオイシイ話があるんや!」

帰国後、せっせとアルバイトで資金を貯め、1年後、念願の海外生活であるオーストラリアへ飛び立ちます。

ワーキング・ホリデーは最長1年間の期限付きとは言え、夢に描いていた憧れの海外生活。ホームステイをしながら英語学校に通い、日本食品店でも働きながら、趣味であるサーフィンも堪能する日々。そんな夢のような日々もあっという間に過ぎていき9ヶ月が過ぎるころ、最後の思い出にとサーフボードと少しの荷物を持って期限を決めずに旅へ出ます。

旅の中で「自分の進む道」を見つける


当時の写真

旅の間、いろいろな場所に行き、いろいろな人との出会いの中から「自分を見つめ直す時間」ができたという北村さん。子供のころから絵を描くことが好きで、旅の間もスケッチブックに旅先の風景や出会った人たちの絵を描いていたというのもあり「絵に関係する仕事がしたい」との考えがぼんやりと膨らんでくるのでした。

そんななか、旅で知り合った人からイラストレーターやグラフィックデザイナーという職業があるのを聞かされます。「ぜんぜん無知で、そんな職があるのは知りませんでした」と、人生の舵が切り替わって帰国。その後アルバイトで学費を稼ぎ、デザインの専門学校の門を叩きます。

デザイナーへの道へ

専門学校で学んだあと、小さな代理店のような会社に就職します。営業を担当する社長とコピーライター、そして北村さんの3人という規模。さらに、狭い部屋に3社が間借りしていて、同じ部屋に4社が入る寄合所帯です。

デザイナーは新米の北村さんただ一人。誰も教えてくれないし、誰も手伝ってくれません。「何でもさせてもらえる半面、何もかも自分でやらなければなりません」と、毎日が手探り。数年勤めて「もっと『ちゃんとした』デザイン事務所で働きたい」と、転職します。

独立に向けてスキルを磨く

次に入った会社は、デザイナー4?5人を抱える「ちゃんとした」デザイン事務所。
オフィスもガラス張りでカッコよく、いかにもデザイン事務所という環境です。その会社の社長はライターということもあって、企画のコンセプトから立ち上げ、プランニングをして、提案をして、という仕事の流れ。「かなり勉強になりました」と、今の仕事にも大きな影響を受けているようです。

しかし、始めから独立するつもりだった北村さん。デザイナーとしてのスキルを磨きながら巣立つ時期を図ります。が、「まだ早い」「もう1社経験したい」と、独立に向けさらに転職を図ります。

「会社の仕事」と「自分の仕事」

仕事中の北村さん

次に就いたのは、前にいた会社で部屋をシェアしていたフリーのデザイナーが立ち上げた会社。「ウチで勉強してみないか」と声をかけてもらって移りました。

そこでは、会社の仕事は会社の仕事として、自分の仕事は自分の仕事としてやるのもOKというスタンスでした。ただし、自分で請けた仕事の売上の何%かを会社に納める仕組み。

会社の仕事と自分の仕事の両方をするので「めちゃくちゃ忙しかった」そうですが、初めから1年間と期限を決めていたのでズルズル勤めることなくスパッと独立に踏み切ります。

そして、カレントの立ち上げ

独立の際は産創館のインキュベーションオフィスも検討し、その審査にも通っていました。しかし、ちょうど「定期もの」の仕事を請けていて、その発注元の会社の一角を間借りして「カレント」を立ち上げました。

その後、1年を経て今のオフィスへ移転。今は以前に勤めていたデザイン事務所の元同僚と、産創館のマッチングサイトを通じて知り合ったシステムエンジニアの人と3人でオフィスシェアをしています。

デザインからプロデュースへ、さらに作品作りも


割烹おゝ浜のポン酢

北村さんは独立してすぐのころ、割烹料理屋が作るポン酢のブランディングを手がけました。その時、売場でリサーチした経験から「かっこいいデザインより、消費者に手にしてもらえるデザインでなければダメだと感じました」と、商業デザインの奥深さを痛感しました。

それからは、意匠だけでなく「こうした方が売れるのでは? こんな販促物を付けてみては? という提案も積極的にやって行きたい」と、今はデザインに加え全体をプロデュースする方向を目指しておられます。


プライベート作品

さらに、北村さんは「自分を高めたい」「自ら何かを発信したい」と、アート作品の制作も。仕事を請け負うクリエイターの顔を持つ半面、アーティストとしての顔も持ちます。現在も来年の個展開催に向けて、作品作りをされています。

「徹夜仕事はしません」というスタンスからも、仕事に「追われる」のではなく、仕事をしながら「夢を追う」という、輝いた生き方を感じさせられました。

公開日:2008年09月22日(月)
取材・文:福 信行氏
取材班:株式会社ドライブ  芦谷 正人氏