クリエイティブとは思想の上に成り立っているもの
高橋 善丸氏:(株)広告丸

クリエイティブの本質とクリエイターの役割

(株)広告丸の代表・高橋善丸氏は、大阪を代表するグラフィックデザイナーの一人。クリエイターとして第一線で活躍する一方で、ドイツ・ハンブルグで杉崎真之助氏と展覧会を開くなど、作家的活動も積極的に行っておられます。高橋氏が考える「時代を超えたクリエイティブの本質」そして「これからの時代のクリエイターの役割」などについて、お話をうかがいました。

「デジタルの功罪とクリエイティブの本質」

クリエイターとしてのプロ意識

グラフィックデザインの仕事にMacが使われるようになってから変わったこと…それは素人でも「なんとなく美しくてかっこいいもの」が作れるようになってしまったことです。かつては写植屋、写真ラボなどと分業化されていた制作の現場も、今はスキルまでセットされたパソコン一つで誰でもできるようになってしまった。つまりパソコンを使えば誰でもがある程度のものを作れるということです。そこで大事になってくるのは、クリエイターがクリエイターとしてのプロ意識をどこに持つかということだと思います。

安易な装飾なら誰でもできる

取材風景

例えばここに文字を入れるとき、書体は何がいいか、どんな大きさのどんなバランスで入れるといいのかということを、デザイナーは当然考えなければなりません。つまり「いかに適確なコミュニケーションがとれるか」「いかに新しいものを創り出すか」という、クリエイティブの本質の部分を考えなければならないということです。でも最近、例えば学生に、ドーンと立体化された文字を見せられて「このやり方を教えてくれ」と言われる。「文字を立体化する必然性がそこにあるのか」ということを考えずに、安易な見せ場を作ろうとする傾向は、何も学生に限ったことではありません。それは制作の現場でも見られることだと思います。確かに簡単に立体文字はできますよ。でもそれは考えて創り出されたものではない。いわばパソコンの中にお膳立てされた材料を加工しただけです。それでも素人目には十分インパクトのあるかっこいいものができてしまうんですね。

機械には目的がない。人間だからこそ目的を意識する


サントリーミュージアム展覧会
ポスター

こんな時代ですから、私たちデザイナーは「プロと言われる部分はどこをさしてプロというのか」ということを意識的に考えなければなりません。何を持ってプロというのでしょう?素人との違いは何だと思いますか?それはデザイナーがプロとして、制作物に求められている目的を、「いかに理解し、いかに思考して作っているか」ということになります。つまりプロの仕事には、作った人の思考の結果としての提案が落とし込まれていなければならないということです。デザイナーがプロ意識をどこに持つかとは、そこだと思います。素人でもパソコンを使えば見た目に美しいものはできますよ。でも機械には目的がありません。目的を意識するのは人間であり、その目的をいかに解釈して表現するか、を考えるのがデザイナーの役割ということなのです。

「クリエイティブとは何か」

思想があるから新しいものが生まれる


ドイツ・ハンブルク美術工芸博物館で
開催した展覧会「真 善 美」のポスター

グラフィックデザインにおけるクリエイティブとは何か。一つは「コミュニケーションする」ということ。グラフィックデザインには、コミュニケーションの道具という基本的な機能を備えていることが大前提です。マーケティングという視点も必要でしょう。その機能の生かし方にオリジナリティという付加価値をつけるわけです。もう一つ大切なことは「開発する」ということ。デザインの表現も日々進化しています。したがって、デザイナーも日々、新しいオリジナリティを開発しなければなりません。ただ、開発というのは自分独自の考え方の上に成り立つことだと思います。つまり新しい表現の土台には、自分の思想がなければならないということです。

グラフィックデザイナーに必要な作家性


展覧会「真 善 美」
を記念して出版された作品集
「曖昧なコミュニケーション」

私自身、個展を開いたり展覧会に積極的に参加したりしていますが、それはその場で、いわばクリエイティブの開発・実験をしているわけです。本来グラフィックデザインとは目的のために機能するものであって、鑑賞するために作っているものではありませんよね。つまりグラフィックデザインそのものを作品として展示することは、本来意味のないことです。でも展覧会の場を「開発の技を磨く土俵」と考えると、その場で自分のクリエイティブを実験し、バトルし、さらに磨くことができます。そしてその成果を日常の仕事にフィードバックするのです。だからグラフィックデザイナーが、自分の作品を作ることは大切だと思いますね。なにも、展覧会に出すことだけが、作品作りの場ではありません。探そうと思えばどこでも作品作りの場になりますよ。自身の表現を進化させるために、グラフィックデザイナーには「作家性」という一面が必要だと思います。作品を作ることが自身のオリジナリティを高める土壌となるからです。そこに思想がなければプロとはいえない。いかに新しいものを創り出すか、いかに適確なコミュニケーションがとれるか…つまりクリエイティブとは、思想の上に成り立っているものでなければならないということです。例えば私の場合、曖昧な日本的コミュニケーションの有り方を一つのテーマにしているのです。

高橋 善丸氏

メビック扇町にほど近い南扇町にある高橋氏のオフィスで、終始朗らかに、そして真剣に語って下さった高橋氏。私たちのような若手クリエイターに対しても丁寧な口調で理路整然と話される姿には、ベテランの風格とクリエイティブへの真摯な構えがにじみ出ていました。こんなクリエイターになりたい…この街でまた一人の目標となるクリエイターと出逢いました。

公開日:2008年07月29日(火)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村 彩氏
取材班:株式会社ランデザイン  浪本 浩一氏