テレビセットで培ったデザインスキルを携え、新たな舞台へ
萩原 英伸氏:(有)レフティーデザイン

あの人気番組も手がけるセットデザインのプロ

テレビ番組やテレビコマーシャルなどの美術製作を手がけるレフティーデザイン。最初、「テレビ番組の美術」といわれてもピンと来ず、恐る恐る会社を訪ねた。代表の萩原さんが見せてくれたラフを見て初めて、ああ、と納得する。そこに描かれていたのは、いわゆる大道具を配置した、テレビ番組やCMのセット。しかも、どこかで見たことのあるセットが多い。誰もが知っている人気バラエティー番組の、あのインパクトのあるセットデザインも同社によるものだと知って驚いた。

温かみのある手描きラフが自慢

萩原さんは芸大出身。しかし、大学で建築や空間デザインを学んだというわけではない。

「ファインアート、しかも油彩を専攻していました。セット美術を志していたわけではないのですが、卒業後に就職した会社がたまたま番組セットのデザイン事務所だったので、この道に。30年近く勤めた後、独立したんです」

独立後は、関テレが近く制作プロダクションも多い西天満に事務所を構えた。以来、大阪・東京を問わず、さまざまなテレビ局の番組やコマーシャルのセットデザインを手がけてきた。設立当時から変わらぬ同社の自慢は、手描きのラフだ。たしかに、机の上に広げられたラフの束には、パソコンで作ったものはひとつもない。温かみのある描線、ていねいな彩色が印象的な、アート作品のようなものばかりだ。

「CGパースを使ったラフはすごいキレイだし、実際に採用している会社も多い。それでも、ウチは手描きにこだわっているんです。入社したばかりで絵が苦手だというスタッフにも、手描きにチャレンジしてもらいますよ。パソコンで描いてしまうととても完成度が高く絵は仕上がりますが、実際立ち上がったセットにプラスアルファーがないというか……。あと、普通の空間デザインと違いレンズを透して見る世界なので、コマーシャルの場合はレンズのミリ数まで計算して図面を作成しますね」

全員芸大出身、少数精鋭のスタッフたち

仕事の依頼が舞い込んでから、納品までの制作期間は1週間ほど。その短期間にラフを上げ、大道具の制作を発注し、セットを組み立てなければならない。セットが完成したあとも、まだまだ仕事は続く。

「収録の間はずっと現場でチェックして、収録が終わったらセットをバラすんです。CMや単発のテレビ番組なら1回で終わりですが、レギュラーの番組になると、収録があるたびにセットを組んでバラす。その繰り返し。毎日の生放送番組なんかだと本当に大変ですね」

途方もなく困難な作業に思えるが、萩原さんは新人スタッフに任せることをためらわない。

「最近のクリエイティブと呼ばれる業界は、なんだかみんな余裕がなくて自分のことしか考えていない気がするんです。そのせいで若い人が育たない。ウチは、どんどん新しいことを覚えてもらって、大丈夫だと判断したら入社2年目でも番組をひとつ任せます。独立したのも、私自身が使われていたのでは若い人たちは育てられないと思ったからなんですよ」とニヤリ。

なぜか芸大出身者ばかりが集まったという、7名の精鋭スタッフも同社の大きな武器なのだ。

セットデザインにとどまらない事業展開を

今後はテレビやコマーシャルのセットデザインだけにとどまらず、異分野の仕事にも進出したいと思っている。

「テレビではなく、実店舗の内装などのトータルな空間デザインもやってみたいんです。現在、取引している顧客はテレビ局やプロダクションがほとんどなので、もっといろいろな業界の人たちと出会って、世界が広がっていけばおもしろくなるんじゃないかな」

同社がこれまでに培ってきたユニークな企画力やスタッフのスキル。それらを発揮する舞台がテレビの中からわたしたちの生活の中に移れば、どうなるか……。考えただけでわくわくしてしまった。

公開日:2008年04月07日(月)
取材・文:岸良 ゆか氏