一番時間のかかるところは人間の考えるところ。そこを省いたらアカン。
和木 常行氏:スタジオワーキン

やるからにはとことんやる

ここは倉庫?と思わせるような広さと天井高。スタジオにおじゃまして、そのスケールの大きさに驚いた。広々とした空間、その中心には、5m近くある天井からワイヤーで支えられている大きなスタジオセットが悠々と鎮座している。入り口近くには、業務用冷蔵庫と業務用冷凍庫。食品撮影の仕事をするときに使うそうだ。「やるからにはとことんやる。」スタジオワーキンには、物腰柔らかな和木さんの内に秘めたるパワーが隅々にあふれていた。

この道に入って32年…18年前から「この街のクリエイター」です

和木さんがカメラマンを目指したのは高校生の時。以来その決心が揺らぐことはない。「地元でも有名な進学校に行っていたのですが、それが学園紛争の最盛期。そんな中、このままいい大学に入り、いい会社に入るという人生でいいのかと自問しました。それで見えてきたのが、好きな写真で食べていくという道だったのです。」
当時写真部に入っていた和木さんは、写真を勉強するならと、日大芸術学部写真科を目指し入学。「日大の写真科」というと、写真を学べる大学ではトップクラス。「やるからにはとことんやる」という生き方は、この頃から健在なようだ。
卒業後、大阪のスタジオでアシスタント、カメラマンを経て1990年独立。以来、北区に事務所を構え第一線で活躍している、いわば元祖「この街のクリエイター」だ。

「モノ」は納得のいくまでつきあってくれる

「本当はモデル撮影をやりたくてカメラマンになったんです。でもやっているうちにブツ撮りのおもしろさに気がついて…」と話す和木さん。独立前の下積み時代にはモデルの仕事もやったけれど、人が相手なので気も遣う。時間が来たら終わりにしなければならない。そんなところに、ジレンマを感じたという。「モノは文句も言わないし、自分の思うとおりに動かすことができる。どんなに時間がかかっても、とことんまでやらせてくれるので。」どんな仕事でも絶対に手を抜かない、時間をかけてでも自分が納得のいくまでクオリティーを求めたいという和木さんに、モノは最後までつきあってくれる。それが自分に合っていると気がついたという。

どんなに便利になっても一番大切なことは変わらない

「いくら時代が変わっても、どんなに便利になっても変わらないこと、それは人間の考えるところに一番時間をかけなければならないということです。それを省いてはいいものができない。」長い間この業界で活躍してきたベテランクリエイターからの、貫禄のある言葉だ。「便利になった、簡単になったといっても、それは作業が楽になったということだけ。クリエイターが思考する時間は昔も今も変わらず、大切にしなければならない。でもそれが忘れられているなぁと感じることが、最近時々あるんです。」
時代の変遷、技術の進化を目のあたりにしてきた和木さん。柔和な笑顔の奥に、時代への厳しい眼差しと、仕事への情熱を垣間見た気がした。

公開日:2008年03月26日(水)
取材・文:株式会社ランデザイン 浪本 浩一氏