遊び心と柔軟さが生んだ、ロジック。
橋本 雄氏:タンデムシステムズ(株)

3対7で遊び心。

WEB系のアプリケーション開発や、システム開発を行うタンデムシステムズ株式会社の事務所には、無駄なものが沢山ある。無駄と言ってしまうと、語弊があるかも知れないが、事実、仕事に必要なもの30%と、趣味や遊び心を満たす道具が70%という比率だ。今までに見たシステム会社さんとは、どこか雰囲気が違うぞ。そう、この会社にはMacintoshがずらりと並んでいる。「開発って普通はWindowsじゃないの?」そんな疑問を抱きながら、橋本氏と話を進めていくことに…

独立した当初は、旭区で仕事をしていたと語る橋本氏、国土交通省の仕事で「道の駅」にあるリアルタイムに交通情報を伝えるデジタル案内板を制作した経験や、アナログテープしか無かった時代に、映像をデジタル化し、CD-ROMを制作していたお話しなど、当時、デジタルコンテンツに興味があった筆者自身が「誰がやってるんだろう?すごいな。」と思っていた仕事を、橋本氏が手がけていた。オモシロアラカルトなお仕事話しは、とても楽しかった。だけど…ちょっと待って!ここって開発会社さんだよね?ロジカルな話が全く出てこない……取材をしている私の中に、またもや疑問符が持ち上がることとなる。

素敵なおもちゃ


【Mac plus】

お話しを伺っている中、「Macがずらりと並んでいますが、Macがお好きなんですね?」という質問に、「そうですねぇ、もともとMacが好きでこの道に入ったようなもんです。」と橋本氏。他のシステム会社との違いは、そのあたりに秘密がありそうだ。「もぉ使っていないMacですが、これなんか思い入れがあるんです。」と見せてくれたMacは、1986年に発売された【Mac plus】(写真参照)。昔のMacintoshユーザーの憧れだった四角マウスのあの名機だ。「もぉ何年も動かしてないですが、電源入れてみましょう。」と橋本氏、機材を触っている彼は、まるで少年のような屈託の無い笑顔で、こうも話してくれました「一度手放してしまったんですが、同じものを買い戻したんです。」あっぱれのこだわりようだ。Mac plusは、十数年もの間、橋本氏の帰りを待っていたかのように、あの頃と全く同じ画面で立ち上がった。

古くても良いもの



橋本氏の機械好きは、なにもマシンだけではないようだ。周りを見渡すと事務所の至る所に、カメラが飾られて、さながらカメラ博物館。最新式のデジタルカメラより、アナログなコンパクトカメラが好きで、それで撮る写真がどうしても好きだという。それにしても、いろんなカメラが置いてある。一眼はもとより、二眼レフやポラ、トイカメラまで。お気に入りの一つ「Rollei 35(ローライ35)」というカメラを見せてもらった。30年以上も前にドイツで発売され、当時のドイツの持てる技術をふんだんに採用し「凝縮の美学」と歌われた一級品だそうだ。「Rollei 35 owner'z」というコミュニティにも参加し、暇があると撮影会を楽しんでいる。そんな橋本氏の撮った写真はどこか懐かしく、かつ新鮮な印象を受ける。
ちなみに橋本氏の愛車は、15年前に購入したPeugeot505(プジョー505)。昨年、ボディ全体の再塗装をして見違えるようになったと、嬉しそうに話してくれました。古くても良いものへのこだわりは相当のようだ。

柔軟さとこだわり

どうもシステム会社に取材してる感じじゃありませんね(笑)と、仕事の話題に戻す。専門的なことを質問したところ「Windows系は駄目ですね」と、またもやシステム会社らしからぬ回答が帰ってきた。どんな環境でも同じように見え、同じように動くものを提供しようと考えていたら、決してWindowsという選択肢では無いと言い切る彼の言葉には、ユニバーサルデザインを意識した開発者としてのこだわりを感じました。同時にそうしたこだわりは、業界スタンダードから離れてしまうのでは?とさえ思えてしまう。

「AIR」という開発ソフトをご存知だろうか。この春にadobe社からリリース予定のアプリケーションを開発するためのソフトウェアだ。橋本氏の話では、まだβ版しかリリースされていないこのソフトで、実験的な開発を繰り返し、この2月に納品した仕事があるという。「え?まだ正規版が発表されてもいないのに?」と言葉を無くす私に、「この実績が、2月29日にadobe社のセミナーで発表される予定なんですよ。」と返す。業界スタンダードから離れてしまうのでは?と思わせた矢先の話しだ。まだ誰も使ったことのないソフトに先見性を見いだし、リスクを承知で開発をすすめ、それを実績にしてしまっているのだ。業界スタンダードどころか、業界を引っ張っている。

業界のスタンダードには、まったく興味がなく、お客さまの要望に応えるためには、固定観念に捕らわれず、柔軟に選択される言語や開発環境。古くても良い物は良い。と感じる感性と、新しい環境へ挑戦する柔軟な思考。それこそが、橋本氏、つまりはタンデムシステムズ株式会社のアイデンティティなのだろう。どうりで他のシステム会社とは、雰囲気も環境も違うわけだ。私の疑問符は、ここで感嘆符へと変化した。時代に左右されない遊び心と、柔軟さをも持ち合わせたこの会社こそ、本当にクリエイティブなものが生み出せるのではないだろうか。それが、ロジックという技術だとしても。

公開日:2008年02月26日(火)
取材・文:廣瀬 圭治氏