セールスプロモーションに特化したデザインが得意です。
岡貴美氏:Scratch Factory

道の歩き方は人それぞれだ。Scratch Factory(スクラッチファクトリー)の岡貴美(おかたかみ)さんは、多くの組織や現場で、空間・平面を取り混ぜた商業デザイン全般に携わり、スパイラル状にキャリアを形成してきた。現在、グラフィックやセールスプロモーションを中心にデザイナーとして活躍するかたわら、雑貨作家としての創作活動やDIY講座の講師など、多角的に仕事と出会いの場を広げている。

商業デザイン全般にマルチな活躍

「小さなちらしから、大きな店舗の空間設計、現場での施工まで、岡さんってなんでも一人で手がけてしまいますねぇ」。岡さんのマルチな活躍に、周囲は舌をまく。
夙川学院短期大学美術科でインテリアデザインを学んだあと、商業施設の店舗設計や商業コンサルタントを行う会社に就職。その後20年以上、転職を重ねながら、多くの組織で平面から空間まで商業デザインの仕事に就いてきた。
「違うジャンルの仕事を一つひとつ丁寧にこなす中で、さまざまなスキルや視点が総合的に身についたんだと思います。7年半ほど在籍した大手の販促会社で、デザイン課から企画課へ異動したのを機に、本格的に『販促』を掘り下げて勉強したのが大きな転機となりました」と話す。

2014年、スクラッチファクトリーを創業した。折り込みちらしやポスター、ショップカードなど印刷物、ロゴ・イラストや企業案内、SNSのトップページ、サイン・看板、ノベルティグッズなど店頭販売ツールや販促物など、デザインから製作までこなす。
一方、商業施設へ環境計画書の提出、販促企画を考えてイメージマップ制作のほか、水着や浴衣で夏の売り場を演出したり、レストランやホテルのエントランスを装飾したり、クリスマスやハロウィーンなど催事のガーランド(飾りつけ)やオーナメント(装飾品)を調達して施工したり、規模も素材も多岐にわたる。
商業施設やイベント会場では、サイン・看板から、授乳室やトイレなどエリアマーク、ポスターやロゴ、チケットまで、わかりやすく統一感のあるデザインが岡さんの持ち味だ。


感動や共感を呼ぶグラフィックデザインから、わかりやすく統一感のある空間デザインまで、岡さんのしごとの現場は多岐にわたる

現場に即した、一番効果的な店頭販促を提案

今、岡さんが力をいれているのは、セールスプロモーション(販売促進)にかかわるデザイン。単に見た目をキレイにするだけではダメで、購買行動につなげるためのデザインでなくてはならない。セールスプロモーションに必要な知識や経験を生かし、効果的な表現をツールに落とし込んでいく。
仕事の多くは、代理店経由で受注するが、小さな個人店の販促も手がけたいと思っている。
「小さな店だから販促に予算をかけられないと諦めないでほしい。チェーン店と違い、自分たちで決めてしっかり実行できることこそ、小規模なお店ならではの販促のメリットですから」
「1点ものの販促ツールがいるのだが…」「ディスプレイ用のクッションがないだろうか…」。岡さんはなんでも相談に乗って、クライアントの「あれがほしい」「これが困った」に、デザインでどう解決できるか考える。どんなデザインをすれば、感動や共感につながるのか知恵を絞る。

「自分のお店を少しでもよくしたいと思い続けることが、商いを『飽きない』に変化させるコツです。コストを考えながら、お店に合ったデザインや方法を一緒に考えますので、既製品で我慢せず、店舗ごとにオリジナルな販促を手がけていきたいですね」と岡さん。
商工会議所主催のゼミナールの講師をした時、商店街の店主たちがたくさん参加したが、「長年商売をしているのに、棚の作り方を知らない」「店の販促をどこに相談すればわからない」人が多いことにハッとした。日常的なアドバイザーや相談員の必要性を痛感した。
ある薬局に店舗診断に出向くと、商品や健康の情報をたくさん発信しているのはいいが、あまりにも多すぎて何にも目がいかなかった。もっと整理して「通年出す情報」「月1回、変える掲示板」とメリハリをつけて情報発信を、とアドバイスした。現場を診断すると、解決提案が見えてくる。岡さんは実践的な相談員になれると自負している。


購買行動につながる効果的なディスプレイを企画し、「オリジナルで実践的な販促を」と提案する(写真は新感覚ダイニングバーのハロウィーン時のデザイン)

「私は作りたい」をカタチに

岡さんには、「雑貨の作家」としての顔もある。洋裁をしているお母さんの影響で、幼いころから身近にミシンがあり、手作りに親しんできた。スキーで靱帯を切る大怪我をして入院中にビーズのアクセサセリーを作っていたら、病院関係者が買ってくれたり、友だちが代わりに販売してくれたりして、「これは仕事になるかも」と思ったという。
会社に勤めるかたわら、2007年から自分自身が作りたいデザインの布雑貨や紙雑貨、アクセサリーを創作し、委託先のショップやイベントで販売する活動を水面下で始めた。雑貨作家としての活動を公開したのは2014年に独立・開業してからだ。
「完成すると、作品の出来上がりをじっと眺めて、いい感じにできた、可愛く仕上がったと“自画自賛”するんです。クライアントありきの商業デザインとは違い、作家として自信をもてなければ、創作物は世に送り出すことはできませんから」
大好きなふくろうをぽち袋やギフトボックスにデザインする「ふくろうの袋シリーズ」が実に愛らしい。デザイン、印刷、加工すべて行う。大阪や奈良の開運グッズ店で人気商品になっているそうだ。

メビックの交流会で、チタン製のねじ・ボルトのメーカーの人と知り合い、製造過程で出る金属の切れ端「切子」を産業廃棄物として処分すること、その時にお金がかかることを聞いた。チタンならアクセサリーとして使えるのでは?とひらめいて、ドーム状のガラスにチタンの切子をとじこめたデザインのアクセサリーを提案。今ではネジメーカーから切子を岡さんが引き取って、自ら事業として独立させた。「オリジナル作品の創作活動は、ライフワークとしてこの先ずっと続けたい」と話す。


雑貨作家としてのキャリアも10年になる。紙雑貨、布雑貨、アクセサリー、オリジナルな作品が次々と世に送り出される

出会いを生かして、世に送り出す

創作活動にはいくつもの試練があった。小ロットゆえに生産してくれるメーカーが少なく、コスト高につながる。作品を販売してくれる依頼先を常に開拓しなければならない。
さまざまなアイテムを創作しているデザイナーやイラストレーター、フォトグラファーなどに出会い、みな同じ悩みを抱えていると気づいた。一人分なら小ロットでも、たくさんが集まって同時に発注する仕組みをつくれないか。
岡さんは、Creator’s Showcase(クリエイターズショーケース)という活動を始めた。東洋シール、泉広印刷、はまや印刷など各社が制作面で、サンビットが展示什器面で協力をしてくれ、23人(組)のクリエイターが集まり、2017年8月2日から1週間、近鉄百貨店上本町店の一角でアンテナショップをつくって販売にこぎつけた。
今回は紙をベースにしたマスキングシール・ポチ袋・紙ファイル「ハサモ」の3ジャンルで、一人2アイテムずつ出品してもらった。岡さんは事務局として22人をまとめ、WEBでも発信した。百貨店での出店が終わってからも、「Creator’s Showcase」のタイトルで、期間限定販売の場や展示什器を作ってもらうこともできた。共同でプロジェクトを行うことで、クリエイターたちは自分の作品を世に出す場を得られ、一人では難しかった壁を乗り越えた。
「オリジナルアイテムを作りたくても尻込みしてしまわないよう、昔の私と同じように悩んで躊躇しているクリエイターや協力会社と一緒に、毎回テーマを変え、さまざまな場所からいろいろな作品を世に送り出す活動を続けていきます」と話す。


Creator’s Showcase第1回は、紙モノ3種類で募集し、23人(組)のクリエイターが参加。会期中は交代で店頭に立ち、お客さんと触れ合う機会を作った

公開日:2017年11月07日(火)
取材・文:鶴見佳子 鶴見佳子氏
取材班:大西崇督氏、株式会社一八八 北窓優太氏