子ども・女性・ファミリー向けのイラストで作品の世界を追究したい
しまこ氏:イラストレーター

しまこ氏

出会って初めにいただいた名刺。華やかでかわいらしいけれど、どこか大人っぽい雰囲気も併せ持つイラストが、小さな画面に独特の世界を創っている。
「言葉では“かわいい”と一言で表現しますが、実はいろんな“かわいい”があって……。大まかに言うと子どもらしいかわいさなのか、大人っぽいかわいさなのか。それで雰囲気が全然違ってくるんです」。とふんわりと微笑むしまこ氏は、イラストの雰囲気そのもの。やさしい口調、けれど仕事の話になると眼差しがきりっと真剣になる。高校生の頃からイラストレーターを目指していたというしまこ氏の、これまでの歩みと今後の展望についてお話をうかがった。


ice cream party(左) アクア広島センター街 館内パンフレット(右)

子どもの頃からの夢だった
イラストレーターになるまで

福岡県出身のしまこ氏。子どもの頃から絵を描くのが好きで、学校の休み時間には友達と絵を描いて過ごすことが多かった。自分の描くイラストでみんなが喜んでくれることがうれしく、「いつか絵を描く仕事ができたらいいな」と漠然と考えていたという。そんな想いは、中学校卒業間近になった進路決定の頃には確固としたものとなり、福岡県内の私立高校デザイン科に進学。そこで経験した絵画、デザイン、工芸などの制作は「現在の活動の原点」とふり返る。その後、芸術系短期大学へ。その頃から、県内の広告制作会社にイラストレーターとして就職することを目指していたという。
「そこは九州では数少ないイラストレーションの制作部がある広告制作会社で、就職するならここ!と心に決めていました。その願いが届いたのか、運よくそこに就職が決まりました」
広告制作会社では、念願のイラストレーション制作部へ。一日中イラスト制作をする日々。仕事が深夜まで続くことも多かった。そこでさまざまな仕事を経験しながら、一つの制作物ができるまでの仕事の進め方、イラストレーションの技術、クライアントとの関係作りなど、多くを学んだという。そして6年間の勤務の後、福岡県でイラストレーターとして独立した。
「独立を機に、東京や大阪に出てみたらどうかという周りからのアドバイスもあったのですが、まずは地元で、自分がどれだけできるのかを確かめたいと思いました。慎重な性格でもあるので、フリーとしての仕事のやり方も分からないままに都会に出るのが怖いという気持ちもありました。会社員時代にお世話になった方々にもきちんと恩返しをし、自信をつけてからでも遅くはないと考え、まずは福岡で独立することにしました」
拙速に行動せず、自分が今何をするべきかをきちんと考える。そして一度決めたことはやり通す。地道にこつこつが座右の銘だというしまこ氏らしい決断だ。この期間があったからこそ、福岡時代のクライアントとも関係が続き、現在でも仕事を受注しているという。


ダイソー 折り紙パッケージ

大阪で多くのクリエイターとの出会いに
刺激を受けた

福岡で独立してから一年後、大阪に拠点を移し、活動を始めたしまこ氏。初めはとまどうことも多かったが、少しずつ人脈が広がり、仕事も軌道に乗ってきた。さらに仕事の合間には自主制作し、自身のウェブサイトにアップしながら作品を描きためていった。その甲斐あってウェブサイトからの受注も増えたという。明るく楽しいだけでなく、細部にまで心を配るクオリティの高さと丁寧さ。一つひとつの作品から、そこにまっすぐに向けられた愛情を感じる。「この人に仕事を頼んでみたい」と思わせる何かがあるのだ。
大阪に来て一番変わったことは、同業の友人がたくさんできたことだというしまこ氏。
「大阪で活動する中で多くのイラストレーターと知り合い、刺激を受けました。みんなクリエイターとしての“自分の世界”をきちんと持っていて、その“作品”で仕事を受けている。自分の仕事のやり方についてふり返るきっかけをもらいました」
それまではクライアントの要求に応じて、いろいろな作風のイラストをかき分けることもあったというしまこ氏。自分のスタイルを持ちつつも、時には「○○風に描いて」「××さんの絵のような雰囲気で」など、無茶とも言えるクライアントからのさまざまな要望に、できるだけ応えるように制作をしてきた。けれどもそれでいいのか? そんな思いをぬぐい去ることができなかった。
「自分らしくないイラストを無理して描くと違和感が残るのです。仕上がった成果物も、自分の仕事として見せることができない。これを続けていてはいけないな。そもそも私らしい作品って何だろうと思うようになりました。考えてみると、私の得意な分野は福岡時代から変わらず、子ども・女性・ファミリーなどがモチーフのイラスト。そこに焦点を合わせ、少しずつ仕事を選ぶようにしました」と語るしまこ氏。
ウェブサイトに加えて、クリエイターEXPOへの出展などにより、受注内容は徐々に求めている方向に近づき、新しい顧客も増えてきた。
「思い切って仕事を選んでいくことで、最近では少しずつ“作品”と言える仕事が増えてきたと感じています。長い目で見ると、自分の方向性を定めるのは大切なこと。今後はぶれることなく、このスタイルを突き詰めていければと考えています」


世界文化社「ワンダーブック11月号」

どんな役割を求められているのかを考えながら

ポートフォリオを開くと、子ども向け教材や子育て雑誌、雑貨のパッケージ、百貨店のディスプレイ、大学案内、語学書籍や実用書の挿絵、キャラクター制作など、分野も媒体も実にさまざま。どの作品もしまこ氏らしいかわいらしさや遊び心、そしてどことなくほっとするような雰囲気は持ちながらも、案件によってタッチや色使いが異なるのが分かる。
「例えば頭身が低めなのか高めなのかで、子どもらしいか大人っぽいかという印象は変わります。また、線を生かした抽象的なものなのか、詳しく描き込んだものなのかというデフォルメの効かせ方によっても、イラストの雰囲気に違いが出ます。さらにイラストがどんな役割を求められているのかを理解して描くことも必要です。例えば健康系の書籍や福祉・教育系のパンフレットでは、イラストが紙面を和ませる役割をし、子どもや若者向けの雑誌やパッケージでは、イラストが紙面を明るく華やかにします。実用書などでは難しい内容を親しみやすくするという役割もあります。その媒体を見る人の年齢層や目的を想像しながら描き分けています」
クライアントの中には、“なんとなくおしゃれにして”“かわいい感じにして”“紙面を和ませて”というような漠然とした内容の発注も多いという。
「難しい注文なのですが、それは信用していただいているということ。要望にきちんと応え、さらに求められていることにプラスαできるようなイラストを提供することを心がけています。 “この人に頼めば100%、それ以上のものが仕上がってくる”と安心していただきたいんです。信頼関係が一番大切ですから」
自身のことを、石橋を何度も叩いて渡るタイプと笑うしまこ氏だが、慎重に謙虚に言葉を選んで話す姿は、仕事への姿勢そのもの。最後に今後の展望を尋ねてみた。
「これからはもっと“作品”と呼べるものに力を注いで、世界観を築いていきたいですね。イラストを生かした雑貨の開発・販売もしてみたい。でもあまり先を見すぎずに、今ある仕事をこつこつきちんとこなすことが大切。そうするとおのずと道は見えてくると思っています」
どんな小さな仕事でも全力で取り組むというしまこ氏。決して器用なタイプではない。けれど常に等身大の自分を見つめながら、その時にできる精一杯のことをし、多くの人からその才能を認められ、信頼を得てきたのだろう。今後さらに作品世界を深めながら、こつこつとステップアップするしまこ氏の姿を見続けたい。


アクア広島センター街 ディスプレイ(2015年秋)

公開日:2016年02月29日(月)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村彩氏
取材班:CA-RIN WORKS カツミ氏