胸がきゅんとなる、かわいいイラストを
兼元奈美氏:naminamiland


イラストレーターの兼元奈美氏

雑貨店や量販店で見かけるステーショナリーを数多く手がけてきたイラストレーターの兼元奈美さん。パステルカラーの乙女チックなテイストのブランド「naminamiシリーズ」は幅広い世代の女性から支持され続けている。現在、フリーランスとして「naminamiland」という屋号で活動する兼元さんにイラストレーターになったきっかけ、未来への展望などについて話を伺った。

レターセットのデザイナーになりたかったんです

子供の頃から絵を描くことが好きだったという兼元さん。美術の先生である両親の影響で高校時代から日本画を描きはじめたという。
絵描きを目指し嵯峨美術短期大学に進学した彼女は、卒業後もアルバイトをしながら絵を描き続けた。
日本画では、日春展、京展などで入選し、第5回松伯美術館花鳥画展(平成10年度)においては優秀賞を受賞した。
「思いを言葉にするのが苦手で、受賞作品のインタビューもうまく答えられず、記者の方を困らせました。でも言葉にできない分、絵で表現しようとしていたのかもしれません」


松伯美術館花鳥画展での優秀賞の作品「気配」。猛暑の中、熊に荒らされたトウモロコシ畑を描いた。熊の気配や荒らされた後に来る虫達の気配なども表現されている。

デザイナーの仕事に興味を持ったのは24歳の時。アルバイト先でパンフレットのデザインを任せられたことがきっかけでレターセットを作るようなデザイナーになりたいと思った。
「日本画では重々しい絵を描いていましたが、もっと人のために絵を描きたくなり、デザイナーになる決意をしました。子供の頃に見たティーバッグやお菓子をかたどったレターセットのように、ユニークなものを作ってみたいと思ったんです」

自分で描いたイラストを、レターセット、缶バッチ、ポストカード、クリアファイル、お箸袋、紙袋といった商品にして雑貨店等に自ら売り込みをかけた。赤字になることも多く、お金を稼ぐことの難しさを肌をもって痛感した。多くのアーティストは絵を描くのが好きでも「誰かものにしてくれる人はいないかな」という他力本願に頼りがちだが、自ら描いて作品にし、自ら持ち込んで売り込むバイタリティは素晴らしい。


自ら雑貨を作って売っていたときの商品。当時はシンプルなデザインが好きだった。

オリジナルブランド「naminamiシリーズ」

平城宮跡の大極殿の復元で天井画を描くスタッフとして勤めた後、ステーショナリーメーカーに入社。当時はパソコンが使えなかったため、仕事をしながらパソコン教室に通い、休日はネタ帳を持ち歩いて市場調査へ出かけた。
それまでは藍色や焦げ茶色、黒といった色を好んでいたが、入社して売れる色はピンクや赤だと知った。
「当時の私は、ピンクや赤って好きではなかったんですが、みんなが喜ぶものを作りたかったので、友達と一緒にお店に出かけては、その人が『カワイイね』って言う感覚を全て必死で吸収しました」

自分の感覚とデザインする感覚を別々に持っておいた方がいい、という話もあるが、兼元さんは仕事をするために自分の感覚を全て仕事用の感覚に合わせたという。
「カワイイ色の感覚を吸収することで、持ち物や家の中にも色味がついてきて、気持ちまで明るくなりました。今では私のテーマカラーは赤です」

そんな中で生まれたのがオリジナルブランド「naminamiシリーズ」。
乙女チックで可愛らしい花をモチーフにし、かつて描いていた日本画とはかけ離れた、優しいテイストだ。偶然にも筆者の昨年のスケジュール帳は、このブランドのものだった。
「naminamiシリーズは勤めていた頃にできたもので、みんなの思いがつまっています。手に取った瞬間、きゅんとするような、笑顔になってもらえる商品を作りたい。そんな思いで取り組んできました」


オリジナルブランド「naminamiシリーズ」。かわいいテイストのステーショナリーが揃っている。

イラストは「心ときめくもの」

ステーショナリーメーカーで6年間勤めた後、 2010年に独立。屋号を「naminamiland」にして、活動を始めた。当初は自身のブランド「naminamiシリーズ」で手一杯だったが、近年、様々なことに取り組み、昨年6月にはメビック扇町で開催された「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」で封筒を扱う企業と出会い、サンプル帳のデザインが採用された。また、企業のロゴマーク、年賀状、チラシ、ファンシーグッズ、掲示物といった発注があってから作るものやショップとのコラボ企画などを手がけており、本年9月からは今までにはない、カルチャーセンターでの水彩教室もスタートする。

兼元さんにとってのイラストは「心ときめくもの」だという。
「人を癒したいと思いながら描いていますが、実は自分で描きながら『カワイイ!』って癒されることもあるんです。今後はクスッと笑える、漫画っぽい感じのものも描いてみたいです」

日本画を描いている頃は、表現という言葉を意識しながらも、どちらかというと先生が良いというものを描いていた。その頃の経験が今、仕事をしていく上で相手が求めるものを作っていく作業に生かされており「最近、自ら生み出したり表現したりすることよりも、お客様がいいと思うものを察知することが得意だということに気づきました」

目標は水森亜土さんのイラスト

兼元さんが今後、力を入れていきたいのは以下の3点だ。

1点目は「naminamiシリーズ」を企業コラボを通じて、広く展開していくこと。
「独立してからも手がけていること自体が幸せで、これからも大切に広げていきたい。ステーショナリーメーカーでのnaminamiシリーズは、ステーショナリー(文具)がメインなので、バッグや衣料インテリア用品といった商品を手がけている企業とのコラボが実現できたらいいですね」

2点目は、イラストで奈良県の観光を応援すること。
「奈良県出身なので、少しでも地元に貢献したい。今、自身の新しい鹿のキャラクターを使い、奈良の某ショップとのコラボで商品を作ったり、県鳥こまどりを保護するための『ならこまどりプロジェクト』のロゴマークの考案に取り組んでいます。9月には『ならまちいろ』でワークショップも予定。その他にも、観光面でいろいろと企画しており、少しでも奈良を訪れるきっかけになれば嬉しいです」

3点目は型にはまらずいろいろなテイストのイラストを描いていくこと。
「特に自分のテイストを決めていないので、あくまでもお客様が喜ぶものを作るという視点で描いていきたい。こんなふうに描いてほしいと、お客様の希望に応じたテイストで描けたら、頼んでくれた人はもちろん、自分も嬉しいと思うんです。イラストだけにとらわれず、自分が必要とされる場所で興味のあることはどんどん挑戦していきたいと思っています」

目標は、水森亜土さんのように長く愛されるイラストを描くこと。
「おばあちゃんになっても私のイラストがほしいと言ってもらえるような作品をたくさん描きたい」と語る。

「アナログでもデジタルでもアイデアを考えるのが好きなので、商品企画から一緒にやっていきたい。ほんわかしたもの、クスッと笑えるもの、カッコカワイイもの、いろんな『かわいい!』を描きます。商品に使うイラストって、買うか買わないかがほぼ決まってしまうため責任重大です。イラストは顔だと思うんですよね。また『自ら生み出すもの』や、『自分らしさを表現する商品』も、これからゆっくりと生み出していきたい。厳しい世界だけど、たくさんの人に喜んでもらいたいので、これからもずっと続けていきたいです」


メビック扇町で行われた取材風景(左・兼元氏)

公開日:2015年07月14日(火)
取材・文:堀内優美 堀内優美氏
取材班:メイクイットプロジェクト 白波瀬博文氏