細部にまで作り込まれたものの持つ「迫力」を伝えたい
石倉 康平氏:石倉建築設計事務所

南森町にある事務所には、さまざまな形をした白い小さな家の模型の数々が並ぶ。石倉康平氏は、戸建て住宅を中心に商業施設等の建築設計やリフォームを手がける建築家だ。「細部まで徹底的にこだわって作り込みたい」という石倉さんの手がけた家は、素材感のある自然な雰囲気の中に、凛とした端正な迫力がある。石倉さんの家づくりについて聞きました。

石倉氏

素材感を大切にした「成り立ちが見える」家

大きな屋根が印象的な家、中庭の木を囲むような間取りの家…事務所の棚にズラリと並ぶミニチュアの家は、石倉さんが手がける戸建ての模型だ。「実際に手を動かして作ることでイメージが膨らむんです。立体を見ながら図面にフィードバックしていくことが多いですね」。模型による検討を重視するのは、「模型を作るのが好きだから」と笑うが、「柱があり、梁があり、床がある。ものの成り立ちを自然に感じられるような家が好きなんです。だから、あえて塗装をせずに木やコンクリートなどの素材がそのまま見えるようにしたり、梁や野地板(屋根の下地板)を隠さずに現しのまま仕上げたり。使う素材も、経年変化で深みを増すようなものに惹かれます」。模型を片手にゆっくりと語る石倉さんの言葉を聞いていると、まだ色も付いていないその模型のひとつひとつが妙に温かく感じられ、石倉さんのものづくりへの並ならぬ愛情が伝わってくる。

建築模型

その場所にある自然のものを取り入れる暮らし

「建築の仕事は、その場所と暮らす人の生活を結びつけること」と石倉さん。土地を見て、クライアントと話して、交通整理をして両者の着地点を探り、形にしていく。その行程の中で「できるだけその環境にある自然のものを家に落とし込みたい」という。例えば、計画中の「大きな屋根が特徴的な家」は、土地を最初に見に行ったときそこにまだ残っていた昔の茅葺き屋根の家の屋根の存在感に圧倒されたのがアイデアのもと。「長い年月の間、屋根の下で営まれてきた暮らしがものすごく想像できて、それを引き継ぎたいと思ったんです」。大きな屋根のデザインは、茅葺き屋根の現代版。‘屋根の下で暮らす’ことが設計のコンセプトになった。また、「中庭の家」は、建て替え前から家族に大切にされてきた庭をそのまま家の中心に置きたかったという。一見斬新に見えるそれぞれの家に、石倉さんらしい温かい視線が見えてくる。

建築模型

細部まで徹底的にこだわって作り込みたい

「自分の建築にイズムはなくていい」という。「どんなコンセプトにするか、思考の入り口は広く、柔軟性を持っていたい。でも、何をつくるにしても細部まで徹底的にこだわって作り込みたい」と石倉さん。「パッと見には違いが分からないような細かい部分にまで徹底的にこだわった完成度の高いものは、それ自体の持つ迫力が違うと思うんです」。
そんな石倉さんの考え方に共感する同業者は多く、石倉さんの仕事は「プロ」がクライアントとなることも多い。自身も建築の仕事に携わる友人や一緒に仕事をしている大工の自宅の建築、デザイナーの事務所リフォームなど、これまでの実績を見ても「同業者に選ばれる建築事務所」と言ってもいいかもしれない。「プロ同士ということでプレッシャーも大きいですが、全くごまかしや言い訳のきかない状況で、自分に妥協することなく提案してものづくりをする楽しさもあります」と石倉さん。こうして出来た作品のひとつ「槇塚台の家」は、2012年に「新建築住宅特集」に掲載され、石倉さんの代表作となった。「学生時代に勉強した“新建築”に自分の手がけた建物を載せるというのが独立してからのひとつの目標でもあったので、本当に嬉しかったですね」。

石倉氏

妥協のない家づくりをクライアントと共に

石倉さんが手がける戸建て住宅は、1軒建てるのにクライアントと出会ってから完成まで、最短でも1年はかかるという。家が完成するまで毎週のようにクライアントと打ち合わせをし、設計監理のために現場に足を運ぶ。その間にクライアントも石倉さんのものづくりのワールドにはまってしまうのか、完成間近になると「家づくりが終わるのが寂しい」と言われることもしばしばだという。「クライアントと一緒に、設計から素材選び、施工までひとつひとつのプロセスを丁寧に作り込んで、それが喜ばれるなんて幸せな仕事ですね」と石倉さん。石倉さんの家づくりは、今のところ年間2、3軒が精一杯。「本当はもっと広げていくのがいいんだと思いますが、自分は作り込みたいタイプなので、当分はこのペースになると思います」。


「槇塚台の家」写真:小川重雄写真事務所 小川重雄氏

公開日:2014年10月03日(金)
取材・文:わかはら 真理子氏
取材班:有限会社ガラモンド 和田 匡弘氏