実用的でずっと長く使ってもらえる。それがいいデザインなんだと思う。
南 大成氏:HIROMINAMI.DESIGN

南 大成氏

電化製品からドアノブまで日常に溢れる製品のデザインを手がけるプロダクトデザイナーの南大成氏。南さんが手がけるスタイリッシュでありながらも機能性を追求した商品は、使う人の生活をちょっと楽しくしてくれる、そんなものばかり。クライアントからの依頼に応えるだけではなく、共同ブランドの展開など精力的に活躍する南さんに、プロダクトデザイナーという道を選んだ理由やデザインへのこだわり、現在の取り組みなどを伺った。

高校卒業後はイギリスへ。

父親が小学校教師、母親が保育士と両親ともに教育に携わっていたという南氏。子供の頃は休日に父親の職場である学校に連れて行かれることも多く、そういった環境から子供の頃の夢は教師だったのかと思いきや、意外にも「毎日同じでつまらなそうだし、先生にだけは絶対ならないって思ってました。」とのこと。そんな南氏が高校生の頃に興味を持ったのが音楽とアート。「タワレコ部」を自称し、授業が終わるとタワーレコードに直行、店内の視聴CDを片っ端から聴いて回った。親からもらった昼食代で週に1枚輸入盤CDを買い、自らもバンドを組んで曲作りに明け暮れる日々を過ごす。高校を卒業後、留学先をイギリスに決めたのも少なからず音楽の影響があったという。音楽とアートに魅力を感じていた高校生がヨーロッパに憧れを抱くのはごく自然なことだったのかもしれない。ケンブリッジの美大の基礎コースで、イラスト、陶芸、彫刻、写真などさまざまなアートに触れる中、生活に役立ち“現実的なアート”である工業デザインに興味を持ったことが、プロダクトデザイナーへの布石となった。

プロダクトデザイナーとしての第一歩

基礎コースを1年間受講した後、日本人の友人が多いケンブリッジから離れ、マンチェスターの東、シェフィールドにある大学のBAプロダクトデザイン学部へと進む。クラスで日本人はたった1人。留学生すらいない環境のなか、不安や居心地の悪さはなかったのだろうか。「みんな物珍しい感じで見てましたけど、マイペースでやってました。でも当時はめちゃくちゃ勉強しましたよ。」その言葉が意味するのは「語学の壁」だ。周りのイギリス人たちは自分の作品を流暢な言葉で説明するが、外国人である南氏が同じようにプレゼンするには壁が高く、できあがった作品以上にプロセスを重視する環境において大きなハンデがあった。そのハンデを埋めるべく、作品制作に加えて毎回必ず膨大な資料を用意していたという。

作品
スマートコード収納「TANGLESS(タングレス)」。

デザイナー、そして経営者としての壁。

卒業後は米国カリフォルニア州に本拠を置くデザインファーム「IDEO」のロンドン支社でインターンシップを経験し、2006年に帰国。当時、デザインコンソーシアムのメタフィスを立ち上げ注目されていたデザイナーのムラタチアキ氏に師事し、デザイナーとしての経験を積むも3年半で退職。独立を決意する。異業種交流会などに積極的に参加するなど営業活動をはじめたが、思うようにうまくいかなかった。人とぶつかったり、だまされ、代金を回収できなかったことも。会社に所属しているときには大きな不満を抱えていたが、ここで初めて会社経営の大変さに気づく。フリーランスのデザイナー、そして経営者の道は決して甘いものではなかったが、組織では実現できなかったデザインを追求し、クライアントやその先の生活者に真摯に向き合うことで、少しずつ事業も軌道に乗りはじめる。この頃メビックに参加し、ネットワークも広がっていった。

南大成氏とスタッフ

生活者の視点を追求したデザイン

「デザイナーが全面に出ているようなモノはあまり好きではないんです。有名デザイナーがデザインしたというだけで法外に高い商品なんて、生活者にとって必要だとは思えない。実用的で価格も適正、ずっと使い続けられるモノをつくりたい」追求するのはそんな“生活者の視点を大切にした、日常生活で使えるデザイン”。手がけたモノはどれもシンプルで機能美を追求したモノばかりだ。プロダクトデザインはアートではなく実用性が不可欠な上に制約も多い。クライアントの要望に応えながらも、素材や製造工程、予算などを踏まえ、さらに自分のテイストも加えることで、相手の期待以上の提案をする、それがプロダクトデザイナーとしての信条だという。「まだまだ完全にできているかと言われると、わかりませんけど(笑)。」そんな謙虚なパーソナリティーも魅力の一つかもしれない。
現在は開発から販売まですべて自身で手がける共同ブランド「ARLEQUIN」(アルルカン)を立ち上げ、多忙を極める南氏。そろそろプロジェクトの選別が必要になってきたという彼に仕事を選ぶ基準を聞いたところ、「誰かの役に立つかどうか」という答えが返ってきた。デザインが持つ人や社会を動かす力を信じて疑わない新進気鋭のデザイナーの今後から目が離せない。


「ARLEQUIN(アルルカン)」の第1弾商品。左上から時計まわりに、名刺ケース・エチケットケース・ロングウォレット・コインケース。

公開日:2014年09月19日(金)
取材・文:N.Plus 和谷 尚美氏
取材班:有限会社ガラモンド 和田 匡弘氏