おカネかけず、チエかける
清水 友人氏:360

清水氏

ブランディング、グラフィックデザインを手がける「360」代表の清水友人氏は、自宅にオフィスを構え、ブランディングをはじめ、セールスプロモーション、キャラクターデザイン、イラストレーションなどのグラフィックデザインの企画・制作などを手がけている。「360°の視点から様々な問題を解決する」というコンセプトの根っこには、清水氏の人生観がつながっている。そんな清水氏に、これまでの経歴から主な仕事内容、将来に向けての展望をうかがった。


実は30歳からスタートしました

清水氏の出身は滋賀県長浜市。父の経営する創業120年の老舗のお菓子屋の跡継ぎ息子として育ち、高校卒業後は販売の仕事を経験。その後、父の会社を手伝うことになった。家業であるお菓子屋は、コンビニエンスストアの普及により、その将来に暗雲が立ち込めており、害虫駆除の会社へと移行して、10年ほど経っていた頃だった。もともと跡を継ぎたいという意志があったわけではなかったので、23歳の頃、将来について真剣に考え始めた。

「家族経営をする中、家を守るために仕事をしているのに、仕事がきっかけとなり、家族関係がギクシャクいていくことに苦痛を感じ始めていたんです。じゃあ、他に何ができるのかと考えてみたところ、幼少の頃から美術が得意だったこともあり、得意な分野を活かすことを考え、デザイナーという職業にたどりついたんです。」

28歳でデザイン系専門学校の夜間クラスに入学。幅広い年齢層の中、好成績をおさめて卒業。30歳でグラフィックデザイナーとしてのスタートを切った。


まずは大阪のグラフィックプロダクションにデザイナーとして勤務。その後、大手印刷会社の派遣社員として勤務したのち、学生の頃から感じていた「国内の最先端に触れたい」との思いから上京し、2008年に独立。見知らぬ都会の町でコネもない状態だったが、営業を行い、顧客を開拓していった。

「多少の不安はありましたが、期待の方が大きく後ろ向きに考えることはなかったですね。」

大手印刷会社に勤務していた頃は、大手企業の仕事をチームで手がけることが多かったが、1人になるとそう簡単にはいかず、小さなところからコツコツ取り組んで行った。また、10代からやっていた音楽経験を活かし、音楽プロダクションとの仕事で、CDジャケット、店頭POP、フライヤーなどのエンターテインメントのデザインを手がけるようになった。自分の作ったデザインが全国のTSUTAYA、TOWER RECORDS、HMVなどの店舗に並ぶたび、喜びを感じていたという。

CDジャケット
エンタテインメント作品も数多く手がけている

再び関西へ……

東京の生活にも慣れ、仕事も徐々に安定してきた頃、東日本大震災が起きた。震災の影響で仕事が止まったり、同時期に離れて暮らす家族が病気になったりと、重大な決断を迫られることに直面し、苦渋の決断で関西へ帰ることを決意した。
2011年より大阪に拠点を移し、再スタートを切った。
「まずは、人脈を広げようと行動しました」

新たな人脈を築くため、そしてさらなる成長のため、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)の正会員になり、昨年には展覧会委員長をつとめた。


360°の視点で、人の役に立てるお仕事を

紙媒体の需要がWEBに移り変わり行く昨今、グラフィックデザインのみでの勝負は厳しくなってくる。そんな想いを抱きはじめた時、学生時代に出会ったアートディレクターの副田高行氏の言葉を思い出す。
「人の役に立つ仕事をしなさい」

いつも影で支えてくれているこの言葉を毎日のように自問自答し、ようやく辿り着いたのがブランディングという仕事だった。

グラフィックデザインの仕事をする中、機能する広告戦略が行われていない現実を目の当たりにすることが多く、他にやるべきことがあるのではないかと思い始めた。

「ブランディングを行う上でも、アウトプットの部分でグラフィックデザインが多く出てくるので、より根本的な解決を目指すスタンスでやっていこうと決めたんです」


360のシンボルマーク

ブランディングで清水氏がまず第一段階として行うのは、理念とスローガンを立てることだ。

「企業様は、すでに理念をお持ちのところも多いですが、“お客様のため”“顧客満足度”といった、ありがちなうたい文句だと、消費者の心には響きません。強化する方法として、まず基礎となる理念を立て、ブレない方向性を決定します」


第二段階は、戦略。ここではビジュアルイメージの確定、競合調査を行う。イメージを確定することで、消費者の頭のなかにブランドを構築させ、競合調査で他社とは違うオンリーワンの路線を探っていく。


そして、第三段階は、戦術。いわゆるプロモーションの部分だ。

「いくら良いものを作り上げても、ターゲットの心に届かなければ意味はない。いかに知恵を絞って広めていくか、ということが大切です。売れる仕組みを作ることができなければ、効果も効率も良くならない。予算のかけ方、効果が出ないものの見直しなどを提案しています」

360のスローガンは「おカネかけず、チエかける」。効率の良いコストの活用を提案していくことが、清水氏なりのブランディングにつながっている。

「将来的には、地元である滋賀県長浜市への地域活性化にもつなげていきたい。父親にそのときはじめて自慢できるような気がします」


清水氏

会社を大きくしようという思いではなく、できるだけ多くの人の役に立つ会社に成長させたい……クライアントにどうメリットを感じてもらえるかということを、常々考えている。

現在は、大阪の地に根を張り、着実に信頼を固めていけるように日々奔走中だ。

「もともと関西圏の育ちですから、人の良さといい、面倒見の良さといい、大阪は大好きな街です。関西の企業を元気にするため、全力で“チエのお手伝い”をさせていただきます。人の役に立つこと、僕の夢はそれに尽きますね」

公開日:2014年07月29日(火)
取材・文:堀内優美 堀内 優美氏
取材班:メイクイットプロジェクト 白波瀬 博文氏、株式会社ライフサイズ 南 啓史氏