人をハッピーにしたくて! 行動するデザイナー。
末川マキ氏:ディーバクリエイティブ

飲食店のチラシ

たとえば、あなたのお気に入りの店が売り上げ激減で、閉店目前の状態で困っていたとします。さて、あなたならどうしますか? 手弁当同然でチラシをデザインするところまでなら、まぁあるとして、印刷に出して自ら駅前でチラシを配り、さらにはポスティングまで請け負う、というようなパワー、ありますか? 今回紹介する末川マキさんは、そこまでやっちゃったデザイナー。結果、その店の売上は回復。末川さんも近隣のお客さんも喜んで、八方ハッピーの図式が。万事こんな調子の末川さん、いったいナニをデザインしているの?

転職の繰り返しの中、タフに身につけたスキル。

末川さん

このエピソードには、末川さんなりの“建前”はあって、「集客のデータが取りたいと思ったんです。販促物を作る側として常に成果は気になる。自分でチラシを配ってみれば何かわかるかと思って」。なるほど。困ってる人を何とかしたいという“お人好し”なだけじゃないのはわかるけど、けっこう爆走派なんですね? 「そうですね。人生も走り続けてきたような感じですけどね(笑)」と言うように、ご自身のキャリアも爆走気味だ。ファッションが好きで『モード学園』で学び、アパレルのデザイナーとして活躍していた22歳で結婚&退職&出産and so on。仕事を再起動させてからは、人づてに広告代理店のデザイナー、リフォーム会社の事務、在宅Macデザイナー、時々ウエイトレス、そしてライター事務所のアウトソーシングスタッフ。その間に、未知だったMacの操作をマスターし、販促物の企画、編集も手掛け、文章も書いた。経歴を語る中で「それで気づいたらその次にね…」といとも軽やかに言うのだが、さまざまにめぐってきた仕事の“縁”に、単なる“手”としてではなく、全身で全力でかかわってきた自負はある。「相手に喜んでもらいたいですから、とにかく」と、すべての職に正面体当たり。その結果手にしたのは、デザイナーとしての力量に加え、販促戦略を練るプランニング力であり市場を分析するマーケティングセンスであり、人をつなげるコーディネート力。OJTで鍛えられたこれらの力が末川さんの財産になる。

デザインの目的は、商品に込められた“想い”を伝えること。

アーユルヴェーダパッケージ

ライター事務所時代、景気とともに仕事が減ったある日、あろうことか給与カットを自ら申請し、減った収入を補うために物流倉庫でバイトを始めた時期がある。「職場には中高年のリストラ組の方が多く働いていたんです。その中でいろいろな人間模様を見て、考え込んじゃって」。そこで末川さんの感性に引っかかったのが“癒し”というキーワード。以前から興味があった美容や化粧のジャンルと結び付けて、人を癒す仕事へと気持ちがシフトしかかったその頃、東洋医学アーユルヴェーダ関連の商品梱包のバイトに出会った。まるで、何かに導かれるみたいに“癒し業界”にかかわる機会が舞い込んだのだ。「好きな商品だったし、そりゃあ張り切って袋詰めしてたんですよ(笑)。そしたらある日、正社員にならへんか?って」。しかも一番やりたかったパッケージデザイン! 思いもしなかった幸運に意気込んで、フル回転で仕事をするうち、「気づいたら…」在庫管理に、クライアントとの交渉窓口、ついには貿易業務まで。転職時代に手にしたさまざまな能力が、ここで実践活用されることになった。その時期、デザイナーとしてはっきりと学んだのが、商品は中身が大事ということ。当たり前のことに思えるが、そこに根差さないデザインは伝わるものにはならない。「商品のポテンシャルを最大限に伝えること。それは作り手の願いを叶えることだし、手にした消費者も幸せにすること。そのために最大限の努力をしようと思いました」。

デザインの持つダイナミズムを自らの手で。

末川さんの言う最大限の努力とは、いわゆるデザイン分野の領域を超えていく。「デザイナーとして、たとえば線の1ミリのズレにこだわるというような感覚の一方で、広い視野でものが見られるようになることはとても必要だと思う」。商品企画から流通、販売まで、作り手と消費者をつないでいくことそのものが、広い意味で“デザインする”ということではないか。だから、冒頭のエピソードの通り、作ったチラシを配るところまでが末川さんの考える“デザイン”というわけだ。現在は、パッケージや紙媒体、ロゴマークやキャラクターデザインなど幅広くデザインワークをするかたわら、イベントプロデュースやアーユルヴェーダのセラピストなど、相変わらず爆走中。2,000人近い参加者を集めたという昨年のイベントでは、主催者として多忙を極めたため、キービジュアルやツールなどを自身の手で手掛ける余裕がなかった。「それはちょっとしたフラストレーションでした。何をするにしてもデザインの観点で仕事をしたい。デザインすることが好きなんですよね、やっぱり」。あらゆる仕事に、クリエイティブディレクターとしての立ち位置で臨んでいこうという方針も見えてきた。こう話す一方で「究極の目標は、自分のブランドをトータルプロデュースすることなんです。誰のためでもなく、自分が作った商品を、自分が好きな世界観で思い切りデザインして売ってみたい」とも。それは、いつも“誰か”の“想い”をデザインすることばかりを念頭に走ってきた末川さんの本音かもしれない。でも彼女なら、次に会った時にはきっと、誰かの商品のデザインと自分の商品のデザインの両輪で走っているはず。そう期待させる、パワーあふれるデザイナーだ。

キャラクターデザイン

公開日:2014年02月27日(木)
取材・文:大野尚子 大野 尚子氏
取材班:情熱の学校 エサキ ヨシノリ氏、株式会社明成孝橋美術 孝橋 悦達氏