映像の魅力で“場”を作り、人を繋げる
西野秀幸氏:(株)カナデクラフト

西野氏

西野氏が運営する株式会社カナデクラフト(KANADECRAFT)は、映像制作を主体に、「デザイン力」「技術力」「情報管理力」の3つの力で広告やイベントといった情報発信には欠かせないクリエイティブ・ツールを創造している。

「カナデクラフトという社名は、“奏でる”“モノづくり”という意味ですか?」と訊ねると、西野氏はにっこりと「そうですね。音楽も大好きで音楽活動もしていましたし、何かを創りあげていく過程が好きですから」と答えてくれた。具体的にどのような思いで仕事をされているのか、益々興味が湧き、氏に話を伺った。

舞台芸術の延長線上でみつけた“動く絵”

幼少の頃から美術に親しみ水彩画を習っていて、高校卒業の頃、その絵画教室の先生に進路を相談した。
「僕は、彫刻などを勉強するために大学で美術を学びたいと考えていたんです。ところが先生に美術は仕事にするのが難しい、芸術家になりたいのなら良いかも知れないけれど、もっと見方を変えてみたら?と言われたんです。それで興味を持っていた舞台美術も面白いのではと思い、大学では舞台芸術を学びました」。

大学卒業後は、劇場の裏方として舞台美術(大道具)を創る仕事に携わった。
「いわゆる“小屋付き”として舞台の管理もしました。舞台の仕事は待ち時間が長いんです。それで、その頃に出始めたMac(マッキントッシュ)のパソコンで色々遊んでいるうちに面白くなって。グラフィックデザインのほうに興味を持ち始めました」。

その後、グラフィックデザイン事務所に就職。「90年頃はMacでデザインができる人は少なかった。僕自身もデザインスキルはなかったのですが、Macを使えるということからスタートしたんです」。

立体である舞台美術の世界から、平面のデザインの世界へ。

暫くすると転機が訪れ、また違う会社に就職。今度はCD-ROMの制作やネット関連のデザインをする会社だった。
「そこで初めてホームページというものを教わりました。その延長線上でGIFアニメーションでの“動く絵”を知り驚いたんです。そこから色んなソフトを使い、ムービーやアニメーションを覚えました」。

Macintosh SE/30
当時の貴重なマッキントッシュ。
鳥の羽根は「2013 クリエイターがつくるバードハウス展」に出展する作品の一部。

映像制作ではなく映像デザインという意識

動画サンプル画像サムネイル
シンプルでシャープな印象がカナデクラフトらしいクリエイティブワーク。

「大学の時から、根底に“ポスターが動いたらいいな”というのがあって。それが今の映像制作の仕事に繋がっていった。舞台美術も様は“動く絵”のようなもの。映像に近いものを凄く感じていたんです」。
撮って編集するだけの映像制作ではなく、映像をデザインするという意識が強いという。
「極端な話をすると、写真が動いて文字が浮かび上がるだけでも動画だと考えているんです。スライドショーでもそうですよね。ですから、デジタルサイネージ(電子看板)は僕の中で、今後もっと伸ばしていきたい業種です」。

映像を基盤にデザイン力に重きをおいているのがカナデクラフト。

「クリエイター、アートというのとは違いますね。あくまでサービスという姿勢で仕事をしています。クライアントの伝えたい気持ちを受けて、自分の個性や感情は極力無くすようにしています。逆に感情をお預かりして、綺麗なカタチにして、きちんと発信する。これが大切だと思います。あとは見る人に判断してもらう。それがデザインというか、モノ作りだと考えています」。

“場”を共有するシェアオフィス、「nucleus」

西野氏はカナデクラフトとして仕事をしながら、同オフィスで『nucleus(ニュークリアス)』というシェアオフィスも運営。様々なジャンルのクリエイターが席を置き、其々に仕事をしていくなかで、客観的な姿勢で意見を述べ合える事がプラスになっているという。
「ニュークリアスは地名みたいなもの。一つの“場”なんです。フリーランスが集まってグループとして何かを一緒にやろう、という発想はない。専門分野が違うから『じゃあ、ロゴを作ってよ』と、ロゴ案を出し合ったりというのはありますけど。仕事をしていくなかで、客観的に意見を貰えたりするというのが大きな利点ですね。困難な仕事でも一人で抱え込まなくてよい、という良さがあります」。
この割り切り感が良い奏を成しているようだ。常に“人が大事”という氏は、更にオープンなスタイルで人に来てもらえるようなスペースにしたいと考えている。

nucleus風景
様々なジャンルのクリエイターが仕事をする“場”としてのnucleus(ニュークリアス)。

Ustreamで広げるコミュニティー

カナデクラフトUstreamイメージ画像
カナデクラフトらしさもギュッと詰まったユーストリーム配信。可能性が無限に広がっている。

西野氏にはもう一つ、力を入れているものがある。それが、Ustream(ユーストリーム/動画共有サービス)でのライブ映像の配信だ。『関西音届』という番組を運営し、音楽や映像という素材で「人と人のつながり」を大切にした“場”をネット上に広げている。
「ユーストリームは、映像配信したら直ぐそれが発表されてしまう“ライブ”。一秒に何時間もかけて作り上げる映像とは真逆のものですよね。だからこそ、面白い。どちらの感覚も持っているというのは大切なことだし、武器にもなると思うんです。バランス感覚を持って、両方の映像というものに取り組んでいきたいです」。
『関西音届』の他に、自宅で飼育しているオカメインコのももじ君を24時間、生中継するユーストリームも。世界中の鳥好き仲間とコミュニケーションを図れる愉しくも貴重な場所になっているという。
また、メビック扇町が開催する「2013 クリエイターがつくるバードハウス展」の出展に向けてバードハウス(鳥の巣箱)を制作中だ。

流れる映像ではなく心に触れる映像を

人とのコミュニケーションを基軸にした映像、そして“場”というものを大切にしている西野氏にこれからの展望を伺うと、
「デジタルサイネージの強化はもちろんですが、コミュニティーを大切にしたユーストリーム配信にも力を入れていきたいですね。発信する側の意思を継いで、一人でも多くの人に見てもらうための繋がりを上手にビジネスにもっていけるようなコミュニティー作りを目指したい。見てもらう人がいてこその映像だと思いますから。そういう意味では、ヒューマニティーを感じる仕事をしていきたいです。あくまでクールに(笑)」。
映像は単に流れているものではない、と語る西野氏。
「映像に触れたら次になにがあるのか」
という部分を視野に入れているからこそ、“場”や“ライブ感”といったものが重要になってくるのだろう。

公開日:2013年07月18日(木)
取材・文:Phrase 久保 亜紀子氏