お客様の求める理想の作品、心を込めて描きます
三宅 桂加氏:イラストレーター
グラフィックデザイナー、画家、イラストレーター……。絵を描く仕事には様々な職業がある。今回はイラストレーターとして活躍する三宅桂加氏に、イラストレーターをはじめたきっかけ、葛藤や苦悩を乗り越え現在に至るまでの話、今後の夢を伺った。
絵を描く仕事をすることが夢でした
幼い頃から絵が好きで、漫画家やデザイナーといった絵を描く職業に就くことが夢だった。小学6年生の時にイラストレーターという職業があることを知り、その道に進むことを決意する。
高校卒業後は大阪デザイナー専門学校イラストレーション科へ進学、卒業後はイラストレーションの制作プロダクションに入社する。同社は少数精鋭でイラストレーションの制作業務を行っている。イラストのマネジメントで成り立つ会社はあっても、制作のみで成り立つ会社はめずらしい。
彼女の手がける仕事は、広告関係を中心に、機関誌、情報誌、Webサイト、パンフレット、ポスター、フリーペーパー、カレンダー、マップなど多岐に渡る。
会社での経験は私の基礎となっています
就職してから半年ほど経った頃、三宅氏の心に葛藤が芽生え始めた。
「イラストレーターって、作品を見ただけで『あっ、この人の絵だ』ってすぐわかるような、雑誌の装丁や表紙など人目につくものを描く仕事だと思っていたんです。けれど現実は個性を出せない環境だったので、夢とのギャップに葛藤しちゃって。一方で専門学校時代の同級生たちがどんどん有名になっていくのを目の当たりにし、焦りや不安から、もしかしたら自分はイラストレーターに向いていないんじゃないかって思いはじめて……」。
悩みに悩んだ末、会社を退職しフリーランスに。ところが、自分らしい絵を描きたいと思ってフリーになったはずなのに、作品に個性をうまく表現することができない。現実は厳しく、苦悩の日々が続いていく。
「そうこうしてると、もう一度戻ってこないかと話をいただいたんです」。
再び正社員として雇用された三宅氏は、過密スケジュールの中、着々とイラストレーターの経験を積み上げて行く。
「その後、体調を崩して正社員は降りましたが、同社から引き続き仕事を受けつつ、フリーランスのイラストレーターとして活動しています。会社ではイラストレーションの基礎や、仕事で必要とされるイラストというものを上司や先輩の絵を通して学ぶことができたので、その経験は今でも私の基礎となっています」。
仕事としての「イラスト」、趣味としての「アート」
“好きなこと=仕事”だからこそ、悩むことも多かった。趣味をどう仕事に結び付けるか、思い入れが強すぎる分、公私を割り切るのに時間がかかった。
「見る人にウケるものを描かなくちゃ、と思うところがあり、モデルや描く対象も、明るいもの、綺麗なもの、構図の見やすいものでなければならない、という概念にとらわれていた時期もありました。ですが、ここにきてようやく仕事としてのイラストレーションと、趣味で描くアートを完全に別物として割り切れるようになり、純粋に絵を描くことを楽しめるようになりました。今では自分がその時いいなと思ったものを素直に描くことができれば、それでいいと思っています」。
自分の作品を客観的に見ることは難しいが、クライアントやデザイナーの視点を通すことにより、“見やすく使いやすいイラスト”というものに気づかされることも多いという。
「自己満足にとどまらず、相手に喜んでもらえるイラストレーターでありたい。その中で、自分らしさも少しずつ見つけていきたいですね」。
フリーランスとしての厳しさ、力不足さを思い知らされることも。それでもイラストの仕事ができることへのありがたさを実感している。
「他のイラストレーターに比べ、私の作品には自己主張、オリジナリティが少ないので、そういった意味ではクライアントの求めるニーズに柔軟にこたえることができるんです。『こういうタッチで描いてほしい』とご要望さえいただけたら、ほぼイメージ通りに描くことができるので、発注する側の理想の作品に近づけることができます」。
夢は、猫を飼うこと
得意分野は風景や植物、生き物を描くこと。それらを表現しながら生まれ故郷・香川の穏やかな気候や豊かな自然環境へと思いを馳せている。
また小さい頃から魚が好きでよく図鑑に載っている魚を模写していたという三宅氏は、いつか水族館を日本全国制覇したいという夢を持つ。
「写実的で緻密なものを絵にすること……例えば、魚のヒレや背骨の数など詳細なことを求められるとやりがいを感じますね。風景だったら空気感を出せるような作品、空や雲の表情を描くのが得意です。肌で感じる曖昧な、日常の中で出会う一瞬を絵で表現したいんです」。
個展などに出展したオリジナル作品には、彼女にしか表現できない独自の世界観が息づいている。
今後の夢は「いつか好きなことを仕事に生かせたらと思っています。それから、猫を飼いたいですね。いわゆる『猫と暮らせるゆとりある生活環境』を整えて、年齢を重ねても絵を描く仕事を続けていきたい。だからこそ、もっとたくさんの物を描けるようになりたいし、上手くなりたい。とにかく描き続けるしかないと思っています」。
幼い頃からの夢を叶えた今、ひとたび新たな夢に向かって大きく飛躍しようとしている。