カラーマネジメントの技術で、発想と表現の領域を拡げる。
安平 健一氏:(株)ダイム

安平氏

カラーマネジメントを任せるならダイムしかない。その信頼で選ばれる製版印刷会社になる。株式会社ダイム・安平健一さんのビジョンは明解だ。国内屈指と自負するカラーマネジメント技術。その技がより広く活かされる機会をつくりだしたいと、2012年6月、自社ビルのワンフロアを使って「DAIMU GRAPHIC STUDIO」をオープン、クリエイターたちに無償で開放している。その空間で生まれる新たな世界への期待についてお話を伺った。

自分たちにしかできないことをやろうと考えぬいて見極めた強み、「色の技術」


紙質による発色の違いを確認する色サンプルを制作中。色にこだわるダイムならではの取組み。

安平さんは写真製版会社として創業されたダイムの二代目社長。大学時代の4年間に、レタッチなど技術系の仕事から営業の仕事までをアルバイトで経験。自らのかかわったものが形になり、世の中で「きれい」「かっこいい」と喜ばれるのを見て、自分の仕事が社会の役に立っているのを実感した。大学卒業とともに入社し、20代半ばごろから製版業だけでやっていくことへの限界を見据え、IT部門、クリエイティブ部門などを立ち上げ、多角的な事業展開を図った。「中小零細企業にとっての電通のような存在になろうと思ったんです。プロモーション活動の支援をしようと」。しかしそこに、何故それを自分たちがやるのかという価値を見出せなかった。製版のプロとしてやってきた仕事人集団である自分たちにしかできないことをやろう。それまで築いてきた地盤に立って考えたとき、自ずと浮かび上がってきたのが「色の技術」だった。「原点回帰です。自分たちが保有する資源を最大限に活かそうと考えぬいたら、そこに至りました」。設備に頼っているように見えて限界を感じた製版業で培ってきた底力は、実は設備を活かす仕事人の技だったのだ。その後2004年に30代半ばで社長に就任、明解なビジョンと実行力で事業を牽引し続けている。

これだけは抜きん出ていると胸をはって言える技術を磨く。

何でもできますは禁句。これは、自分たちの価値を「色の技術」をコアにした製版印刷の腕に絞ると決めてから、安平さんを筆頭に全社員で共有している意識だ。自分たちにできるのは、カラーマネジメントに徹した製版印刷。これしかできない、けれどこれだけは抜きん出ている。自分たちが自負する能力を裏付けるために、中小規模の印刷会社ではダイムのみという3つの色認証制度取得を果たした。資格に裏付けられた色管理技術は、外に向けての能力の証明だけでなく、社員たちの自信やモチベーションを高めた。そしてそれは、カラーマネジメントの技術という確かな軸足をもった次のステップを踏み出させた。絵であれ、写真であれ、表現者のイメージに限りなく近い色を出す。それも常に安定して再現する。ダイムがかかわった仕事においては、刷りの環境−たとえば印刷機やロットなどが違ったとしても、いつでも、どこでも、何度でも、表現者がこれだと肯いた色を再現する。「色の仕事人」として磨き続けてきたその技術をより広く使ってもらえる機会をつくりだそうと、クリエイターたちのための工房「DAIMU GRAPHIC STUDIO」を自社内にオープンしたのだ。


工房には多種の光源が用意されており、制作物が提供される空間の光を考慮した色校正が可能。


印刷サンプルや紙見本をそろえた工房は、ワークルーム、MTGスペース、セミナー会場など、自由に使える。

自分たちの技術を活かしてくれる人との出会いを求めて。


サンプルを前に、取材チームのクリエイターたちの発想もどんどん膨らんでいく。

感性と技術の融合。安平さんが「DAIMU GRAPHIC STUDIO」に求めるものだ。「私たちの持つ技術でどんな風に世の中の役に立てるだろうか。そう考えた時、自分たちにはない感性を持つ人たちとの出会いが必要でした」。色には人の五感を刺激し心を華やがせる力がある。そしてまた色は健康や安全のバロメーターとなる機能を持つ。「色というのは実に豊かなコミュニケーション能力を持っています。それを活かすことで解決できることや、もっと良くなることが世の中にはいっぱいあるはずなんです。それを一緒に探していける人たちと出会いたい」。明解なビジョンを持ち行動に移す。思いを実現するために安平さんの開いた工房は、必要とする人に無償で開放されている。様々な素材に、多様な技法で印刷されたサンプルを展示したスペースはクリエイターの感性を刺激する。たとえばレンブラントの絵画を想起させる黒のグラデーション表現サンプルは、捉えた光の再現にこだわる写真家の心をくすぐるのではないだろうか。また白のインクを重ねて立体的な造形をつくるサンプルは、グラフィックデザイナーの発想の幅を拡げるのではないだろうか。

色のディレクターとしてソウゾウの世界を拡げる。

色校正の行ったり来たりで費やす時間を、表現のクオリティアップに当てることができればいいと、かねがね思っていた安平さん。氏が準備した工房は、多種の光源を設え、24時間待機する職人がクリエイターとともにその場で校正を重ね仕事を仕上げていくという具合に、ソフト面でのバックアップも万全だ。良いものを作るため自由に使ってくれるのがいいと、用途の幅は決められていない。色校正の場にクライアントに立ち会ってもらう手もある。「クライアントやクリエイターが作るチームの輪に、私たちも色のディレクターとして参加できるのが理想です」。ダイムの社名に込められた思いは大きな夢。色にできること。色を通じて自分たちにしかできないことを探し続ける安平さんの胸に今ある夢は、この工房に人が集い、色の力でできる世界を共に広げていくことだ。

公開日:2012年10月05日(金)
取材・文:フランセ 井上 昌子氏
取材班:森口 耕次氏、bold 鈴木 信輔氏、有限会社ユース 植田 由貴子氏