「みんなで助かる道を見つけよう」介護家族に向けて介護情報を発信
横井 孝治氏:(株)コミュニケーター

横井氏

大阪市中小企業支援センター・経営相談室「あきない・えーど」を始め、「販促・広告戦略、営業支援」のコンサルタントとして活躍する株式会社コミュニケーターの横井孝治氏。同時に、介護情報サイト「親ケア.com」の運営や、オールアバウトの「介護」ガイド、講演活動など今や介護分野でも知られる存在だ。
長年、販促一筋で仕事をしてきた横井氏が介護情報を提供する役割を仕事として選択した理由とは。それまでの道のり、そしてこれからのことを伺った。

販促・広報支援と介護情報の提供を二本柱に

株式会社コミュニケーターの横井孝治氏は、2006年から2008年までの2年4ヶ月、メビックに入所していた。事業内容は、販促・広報支援と介護情報の提供。「起業当初から、両方を仕事としてやると決めていた」という。

「最終的にやりたいのは介護情報の発信でした。でも、それを最初からやっていては会社が回っていかないのは目に見えている。そのために、これまで販促一筋でやってきた自分のキャリアで事業の土台を作りながら、介護の方はステップを踏んで進めていこうと考えたんです」。
介護情報の提供が、収益の見えにくい事業であることは承知の上だった。「客観的な視点での評価が欲しかったというのもメビックに入所した理由のひとつです」。

自らの介護経験が起業のきっかけ

横井氏が、介護家族に向けた情報提供にこだわるのには理由がある。
2001年に、相次いで両親が要介護となり、「遠距離介護」を経験した。当時、仕事で大阪と東京を行ったり来たりする生活を送っていた横井氏だったが、さらに週2回、親の介護やケアマネジャーとの打ち合わせや手続きのために実家の三重に帰るという超多忙なスケジュールに。
そうしている間にも、夜中3時に「お母さんがおかしい」と突然電話がかかってきたり、実家でボヤ騒ぎがあったと連絡が入ったり。「24時間365日、両親の心配をする状態でした。両親の状態がさらに悪化し、遠距離介護を諦めてグループホームに入居させざるをえない状況になって、ようやく壮絶な日々から抜け出せたんです」。

「介護家族」の現実を痛いほど知った。「介護にまつわる悲しい事件は無知によるものが多いと思う」と横井氏。「介護家族は、精神的にも経済的にも想像以上に大変です。でも、制度や情報を知って利用することで解放される負担や悩みも多くあります」。しかし、介護には難しい制度が多く、うまく活用されていないという現実も。「私は介護サービスの専門家ではありませんが、販促に長く携わった経験から情報を発信することには自信がある。介護情報を介護家族に向けて分かりやすく発信しよう、と思ったんです」。

介護情報サイトを着々とオープン


親ケア.com

横井氏は、介護情報事業の実現に向けて、起業当時に10年先までヴィジョンを立てた。そして「1年で出した利益の範囲でできるものを作る」というルールも。
まず1年目に、介護情報サイト「親ケア.com」と、介護関連のニュースを検索・閲覧できる「親ケアニュースの森」、SNSサイトである「親ケアコミュニティ」を立ち上げる。そして、2年目にはおそらく日本初であろう携帯の介護情報サイト「親ケア.comモバイル」、3年目には商品点数1万9000点を誇る介護商品のショッピングサイト「親ケア特選ショッピング」を。
「ほぼ、最初のヴィジョン通り計画は進んでいます」。

中でも「親ケア.com」は、自身の介護生活を綴った記録が反響を呼んだ。「介護家族に気持ちだけでも楽になってもらいたいと作ったサイトですが、父が亡くなったとき、SNSを通して多くの声をいただきとても励まされました。このサイトが、介護家族同士が支え合える場所になっているんだと、身をもって実感しました」。

「介護情報のプロ」として講演活動も

オールアバウト

専門家による情報サイトオールアバウト「介護」ガイドとして執筆を依頼されたり、企業や行政から依頼されて講演やセミナーを行うなど、「介護情報のプロ」としての仕事の依頼も増えている。

講演の様子

執筆や講演の内容は、3年に一度変更になる介護保険制度について分かりやすく解説したり、知られていない介護制度を紹介したり。時には、制度をうまく使って節約する裏技を紹介することも。「介護はきれいごとだけではやっていけません。お金という切り口で介護を語ることもしばしばです」。講演会の参加者から直接受けた悩みの相談や質問を講演のテーマにすることもある。「‘みんなで助かる道を探そうよ’というスタンスです」。
ややこしくて難しい介護情報をどう整理してどうアレンジして伝えるかは、「完全に編集の仕事」と横井氏。販促畑でのキャリアが大いに役立っている。

いよいよ、10年ヴィジョンの最終段階へ

「自分を信じてくれた人に対してベストを尽くす」という真摯な姿勢と、長年のキャリアからの費用対効果を重視した提案で、販促のプロとしても多くの企業から支持を得る横井氏。起業してから現在に至るまで、販促コンサルタントとしての実績はのべ200社を越える。現在の売上げも、その7割が販促によるものだ。
今後、2つの事業はどのように展開していくのだろうか。
「2つもの好きな仕事に携われるのはとても幸せなことですが、自分の中では徐々に介護の方にシフトしていきたいと思っています」。

それに向けて、新たな介護情報サービスを開発中だという。
「親ケア.comの運営や執筆・講演活動で介護情報の発信者として信用を勝ち得るところから始まって、ネットショップの運営を実現させ、ようやく最終段階に入ろうとしています」。
詳細はまだ発表できないものの、これまでにないアプローチから介護情報を扱ったサイトとのことで、年内のオープンを目指して着々と準備が進んでいる。

公開日:2012年08月01日(水)
取材・文:わかはら 真理子氏