デザインの力で、よりよい日々をめざしたい
北條 佑布子氏:デザイン・エイド

北條氏

取材時間に合わせて、足早にメビック扇町のロビーに入ってきたデザイン・エイド北條さん。朝の風をふんわりと身にまとい、朗らかに挨拶をする姿は以前よりやわらかな印象を受ける。
「変わったねって言われるんですよ。肩の力がいい感じで抜けたのかな」と、清々しく笑う北條さんは現在、自宅の一部を事務所にして仕事をする毎日だという。初夏の到来を感じるメビック扇町のロビーで、インキュベーション施設を卒業してから今まで、そしてこれからの展望などを伺った。

実行力と向上心が今の自分を作った

「デザインの仕事がしたい。その一心で大学に行きながらデザインの専門学校にも通っていたんです」
という北條さん。学生時代は、卒業後にグラフィックデザインの仕事に就くことを目標に、大学とデザイン専門学校との二重の学生生活を送った。自分で決めたことへの実行力と向上心は、その頃から健在だったようだ。卒業後、広告制作会社に就職。そこで経験を積み数年後退職。転機はその後に訪れた。
「会社を辞めてから少しブランクがあったんです。そんな時に以前のクライアントから声をかけていただいて、商品パッケージのデザインをしました。今思えばそれが転機ですね。そこからフリーとして仕事が広がっていったので」
商品がシリーズ化され、それに伴う仕事が入るようになると、また持ち前の向上心が頭角を現す。
「仕事に関するノウハウやスタイル、考え方まで、もっといろんなことを知りたい、もっといろんな人と出会いたいって思ったんです。それでメビック扇町のインキュベーション施設の入所に応募しました。初めてメビック扇町に見学に来たときに、『あ、私ここに通うことになる』って思ったんです。直感って大切ですよね」


デザイン・エイド 制作物一例

日々進歩していたい。それがデザインの原点

メビック扇町に入居後も全力投球だった北條さん。意図していたとおり、人脈が広がり、知識やノウハウも身につけ、2010年、順調にインキュベーション施設を卒業した。
「自分の中の“幹”を太くしたい。そう思って入居したのですが、メビック扇町ではそれ以上のものを得たと思っています。その経験や人脈が今の仕事にしっかり結びついていますから」
現在は販売促進ツールやパッケージデザインを中心に制作をしながら、展示会のブースのデザインや博物館の館内サインのデザインなども手がけてきた。デザインとして“形”を提供するだけではなく、その元となる“考え”も提供したいと話す北條さん。創業時にその想いをデザイン・エイド(design aid)という屋号に込め、現在も常に初心を忘れないように仕事に取り組んでいるという。
「何のためにデザインをしたいのかって考えると、私の場合、人の助けになりたいからだと思うんです。名刺に入れた一言“aims for incredible days”にも、そんな意味を込めています。相手によりすばらしい明日を提供したい。そして私自身も日々進歩していたい。私のデザインの原点、もっと言うと人生の原点はそこだと思うのです」
鮮やかな黄色と力強いロゴが印象的なデザイン・エイドの名刺。そこには北條さんのデザインへの想いと決意がいっぱいに詰まっているのだ。

心のアンテナをいつも張っていること

現在は自宅で、いいペースで仕事ができていると語る北條さん。仕事の受注のタイミングや人との出会いは、流れにのっているだけ。そして仕事の方向性や人との関わり方の選択は、自分の中の“アンテナ”が決め手なのだと語る。
「直感にウソをつかない。でも流れに逆らわない。あくまでも自然体で、でもおもしろそうな仕事や、おもしろそうな人に出会ったら、それをキャッチできる“好奇心のアンテナ”はいつも敏感にしておきたい。人の評価や周りの雰囲気に流されずに、自分の感覚を大切にしたいと思いますね」
20代の頃から持ち合わせていた直感力。そしてチャンスや転機を逃すまいとする努力と意志。それに加えて現在の北條さんは、悠々としたしなやかさも感じさせる。
「がむしゃらに走っていた頃の自分と比べると、少し余裕が出てきたのかなと思います。自分のペースやスタイルというものが分かってきたのかもしれません」
目標に向かって走り続けた20代前半。様々な経験を乗り越えてきた20代後半。今、当時を思い出し、時にジョークを交えながら語るその口調には、のびのびとした強さがあふれている。そんな北條さんの気分転換は海外旅行だそうだ。
「オランダ、ニューヨーク、ケニアには2回。こうして旅行に行って刺激を受けるのが、また仕事への意欲につながるんです。将来は国際的な仕事をしたいと思っているんです。あ、本気ですよ。こうやって公言しておくんです。そうするとチャンスがやってくると思うし、その夢に向かって自分も努力しますよね。他にも考えていることたくさんあるんですが、でも今は秘密にしておこうかな」
そう屈託なく笑う北條さんの視線は、常に前向きだ。この先もきっと彼女は、周りの人を魅了しながら、好奇心のアンテナの導く方へと走り続けるに違いない。


趣味は旅行。左はNYで、右はケニアで撮った。

公開日:2012年07月10日(火)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村 彩氏