「どシロウト」感覚のまま、一流をめざそう。
南野 光一氏・坊 雅和氏:(有)Try KID'S

一流を目指すデザイナー×2

南野さんと坊さん
Try KID'S デザインオフィスにて

困ったことに、2人そろって男前である。それもイキがってクセのある輩ではなく、南野さんは柔らかく、坊さんはやや辛口の、どちらも静かで澄んだ雰囲気をまとった男前2人が、真新しいデザインオフィスの入り口からつづく長いカウンター状のテーブルに座っている。さぞこだわり屋で、「この直線デザインがね…」なんてデザイン美学を語り出すのかと思いきや、最初に口から出たことばが「僕ら、どシロウトなんですよ」。どうやらタダの男前デザイナーではない。
南野さんは建築科専攻、坊さんは外国語大学。高校からの友人だが、互いにまるで畑違いの学生が「これからどうする?」と、先のことを考えはじめたのは卒業の1年前。コレと思う何かがあったわけではないが、とりあえずどこかに勤めるという、一番当たり前の道がピンとこなかった。「多くの人生の先輩方に相談するうち、ある方より『良い感性をもっているから、デザインなんかどう!』と。さらに『いまからやってもいいんじゃない』ということばを頂きました。なんだか強く惹かれたんですよね。『そうやな、やったら良いやん』って。ハハハ、僕らも若かったので勢いがありましたね」

古い長屋が KID'S の生まれ故郷

ブライダルアルバム
ブライダルアルバム
ブライダルアルバム

というわけで、大学卒業のご祝儀を、そっくりつぎこんで立ち上げたデザインオフィス。南野氏の祖母が住む古い古い長屋の一部を借りて、当時3人いたメンバーの制作道具は、旧式のiMac一台きり。「1年半は、今思えば勉強期間でしたね。営業の仕方も、印刷業者の見つけ方も、イラストレータの使い方さえ知らないんですから。知り合いの名刺づくりがやっとのこと。みんなで昼は事務所、夜はバイト。まるで売れないバンドですよ」 その間、大げさではなく一日20時間ぐらいパソコンをいじっていたという坊氏。人気絶頂の「バガボンド」というマンガをペンツールでトレースしまくり、形の取りかた、そして自分のイメージを形にする方法を身につけていった。
「2年目にブライダルのアルバムを作る仕事がやってきて。だんだんと良い出会いが増えてきたんです」「僕らの仕事の基準は、自分がクライアントの立場になったとき、ここまで考えて提案してくれたらうれしい、というところまでやることですが、それを教えてくれたのはクライアントなんです。要は、僕らもどシロウトだったからこそ、相手の気持ちを素直に吸収できたのかなあって思います」

デザインは相手のためにある

建築工房ロゴマーク
(株)トーカイ建築工房のロゴマーク

トン、と時間の進み方が早くなったのはこの3年目から。得意先がふえて、地の利のよい天満にオフィスを移転。寝る間も惜しい忙しさ。そんな中でも、時々クライアントに言われるのは「コンサルティングみたいなことをしてくれるよね」。プロ技術を高めつつも、相手と向きあう、どシロウト感覚を手放さないのがこの2人だ。「たまにクライアントから漏れるんですよ、ほかのデザイナーに対する不満とか。で、感じるのは、自分のデザインを押し売りするアーティスト寄りの人が多いのかなって。僕らデザイナーは相手の思いを形にするもんだ、ということを忘れたくないし、それ以上に枠をこえて、色々なことを相手のために考えたい。デザイナーという肩書きは窮屈ですよね」
アイデアやコミュニケーションを形にする。その仕事を表すのに一番近いのがデザイナーだから、いまはそう名乗っている。妙な気負いもなく、穏やかにそう語る2人は、満4歳の KID’S にして、すでに大モノの風格あり。「僕らは表現や技巧に凝るバリバリのクリエイターではないし、また、そうならなくてもいいと思っているんですよ」「僕らのマインドやアイデアをバリバリできる人に提供して、一緒に最高の仕事ができたら満足なんですよね」

どシロウトが一流の始まり

南野 光一さん
南野 光一さん
坊 雅和さん
坊 雅和さん

シロウトだからこそ、他人のデザインもまた、素直に受けいれられる。「変わり者だけど単純で。ほしいものは、ほしい。かっこいいものは、かっこいい」 そんな2人の愛するデザイナーはアートディレクターの浅葉克巳氏。僕らは浅葉マニアなんですよ、といって額に飾ったポスターをうれしそうに見せるようすはまるで少年。「仕事をするなら、一流の人達と仕事をするといい。そうすると相手のやり方や考え方を身近に学べる。ある人にそう言われて納得しました。一流にならなきゃ一流の人とは仕事できない、なんて勝手な思いこみですよね。やらないだけで、みんな本当はできるんです。だって同じクリエイター同士なんですから」
「一流の人達の人脈には恵まれているんですよ!」という彼らなら、いまに大きな仕事もつかむだろう。その時、自我を押しつけず、クライアントと解りあう手間を惜しまず、ただやりたいからやる、という彼らならではのパワーをふるえたら。それこそ半端なプロにはできない仕事を、世に送りだしてくれるだろう。近い将来ビッグになるであろう天満の Try KID'S は、ただいま成長まっさかりである。ちぇっ。その前にいっしょに写真撮っときゃよかった。

※2013年9月に「有限会社TriplePRIME」に社名変更されました。

土谷 佐知子氏

公開日:2006年07月04日(火)
取材・文:つちやさちこ 土谷 佐知子氏