あらゆるタッチに対応する、職人気質のイラストレーター。
福永 洋一氏:エフズ・ファクトリー

福永氏

電車が通過する音が心地よい西中島南方にあるマンションの一室にあるエフズ・ファクトリー。代表の福永洋一氏は、30年以上のキャリアを誇り、独立してから20年近く個人で活動しているイラストレーターだ。福永氏のスゴさは、イラストのセンスはもちろんのこと、その膨大なタッチ数にある。今回は、イラストレーターになったきっかけや膨大なタッチ数を描くようになった理由などの話をおうかがいした。

学生ながらプロイラストレーターの展覧会に参加。

子ども時代は、絵が大好きだった福永氏。小学生の時に目指したのはもちろん漫画家。当時は「巨人の星」や「タイガーマスク」が全盛だった。
「小学生時代は、雑誌に投稿して名前が掲載されたこともありました。ちょっとだけ『本当に漫画家になれるかも』なんて思った時期もありましたね。でも、ストーリーを考えるのが苦手で(笑)」

そんな福永氏を変えたのは、姉が通信教育で学んでいたレタリングの発表会。そこで、生まれて初めて“イラストレーション”の存在を知ったという。
「イラストの作品を見た瞬間ですね、僕の将来が決まったのは。『よし! いつかイラストレーターってやつになろう』と」
ただ、その後は通信教育のイラスト講座を受ける程度で、高校も美術系ではなく普通科に進学。部活も美術部には入らず好きなイラストを遊び半分で描いていたという。だが、そんな福永氏を今度は兄が変えた。
「家の近所にテクニカルイラストを描く方がいて、イラスト教室をされてましてね、兄と一緒に私も通いはじめたんです。生徒は我々二人だけ(笑)。そこでペンやカラーインクの使い方を教わりました」

高校卒業後は専門学校のイラスト課に進学。その先生や兄の関係で繋がった大阪イラストレーターズクラブの展覧会では、学生時代からプロイラストレーターに混ざって作品を出していたという。卒業後はデザイン事務所にイラストレーター兼デザイナーとして入社。プロとしての活動が始まった。

デザイナーにもチャレンジしたサラリーマン時代。

作業風景

就職したプロダクションではパッケージデザインを中心に、それに伴ったさまざまなデザインも行っていた。入社当初はやはり悩みも多かった。
「自分にはプロのイラストレーターとしての力はまだなかったんです。そこで、デザインの勉強もしながら、デザイナー兼イラストレーターとして仕事をしていました」
だが、結果的にはイラストの仕事だけをやるようになっていく。
「客観的に見て、自分のデザインに自信が持てなかったこと、何よりもデザインするのがしんどかったんですよ。最後は自己判断でイラストレーターとして働きたいと会社にお願いしました」

そうなると、事務所的にもイラストの提案を積極的に行うようになり、夜も休日も一人でイラストを描く日々。そんな毎日が続く中で福永氏は独立を決意した。
「独立といっても、しばらくは勤めていた会社からの仕事がメインでしたから、仕事場や体制は変わっても仕事内容は変わりませんでした。徐々にそれに加えて新しいクライアントからの仕事が増えていった感じです。もちろん大きな波はたくさんありましたが、20年近くもフリーランスとしてやってこれているのは幸せですね」

職人志向と性格が生んだ膨大なタッチ。

作品

これまでさまざまな業界のWEBやパンフレットといったさまざまな媒体にイラストを描いてきた福永氏。描いたイラストも動物から風景、人間からアニメタッチのイラストまで、その引き出しは無尽蔵とも言える。
「依頼が来て困るのが建築パース。図面が読めないんですよ。ですから、それだけは依頼が来てもほぼお断りしています。それ以外の仕事は何でも対応します。描いていて楽しいのは「その時」描いているイラスト。好きなのは、、強いて言えばリアル系でしょうか。」

イラストレーターには、自分の作風やタッチを前面に押し出して活動するスタイルのイラストレーターも多い。だが、福永氏はまったく逆。過去の実績を拝見すると、そのタッチ数がひとりのイラストレーターが描き分けたとは思えないほど膨大なのだ。
「作家志向がないんですよ。どちらかというと職人志向なんでしょうね。これしか描かないというこだわりを持つ作家的な志向よりも、求められるテーマや制限の中で最高のモノを作る職人的志向の方が惹かれます。あとは、私自身が飽き性なこと。この2つが今の膨大なタッチの絵が描けるようになった理由なんでしょうね」

また、毎日違うタッチの絵を描いている方が好きだという。
「このタッチで20点描いてくださいという依頼よりも、20種類のタッチで1点ずつ描いてください、という依頼の方が好き。同じタッチで20点も描くとなると飽きそうで(笑)」
面白いのは、福永氏との付き合いが長くなると、どれだけタッチが違っても福永氏の作品だと見極める事ができるようになるそうだ。
「特徴がどこかにあるみたい。私自身もあまり気づいていないんですが(笑)」

描きたいモノを描くよりも、ずっと描いていたい。

作品

最後に、将来の目標をおうかがいしたら思わぬ答えが返ってきた。
「私は過去の事はすぐ忘れるようにしているんですよ。同じように遠い未来もあまり考えません。現在が一番大切ですし、過去や遠い未来を考えるよりも、現在を大事に過ごしたい」

独立して18年間、毎日違うタッチのイラストを描いていると、描き終わった瞬間に頭の中のスイッチが、自動的に次のタッチの頭に切り変わるという福永氏。
「将来の目標というほど大きなものはありませんが、私に依頼していただいける限りは、ずっとイラストを描き続けていきたいですね。そして、お仕事をいただけている現在の状況に感謝しながら、この状況を少しでも長く継続できるよう一日一日を大事にしていきたいです。」

公開日:2011年12月06日(火)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:有限会社ガラモンド 帆前 好恵氏