パクられる心配よりも、パクられるほどのモノやコトを作るのが先決。
中西 和夫氏:デイジーヒル(株)

中西氏

雑誌の編集記事や社内報、会社案内といった企画・編集系の制作に携わるデイジーヒル(株)。さらに、パッケージデザインやポスター、フライヤーといった販促物をはじめ、商品パンフレットやカタログといった広告制作物全般を扱っている。今回は代表の中西氏に、クリエイターになるまでの道のりや企業経営の大変さ、“人が繋がる”上での東京と大阪の違いなどについて話をうかがった。

大学進学も就職も、きっかけは友人との再会から。

子どもの頃から絵が好きで、漫画家になることを夢見ていた中西氏。漫画少年のバイブル『マンガ家入門』も購入したそうだ。
「大学ノートに短編漫画を描いてよく友達に見せたりしていたんですが、高校生の時にある友人の作品を見て、その才能の差に愕然として挫折してしまいました」
その後大学受験を二度失敗してしまい、二浪はできないとアルバイトを始めたある日、偶然にも高校の同級生と出会う。
「彼は芸大に通っていて、絵を描くのが芸大の試験だと言うんですよ。好きな絵を描くのが試験なんて夢のようで、すぐに『俺も大学生になる!』と(笑)」

こうして受けた3回目の受験は見事合格。晴れて芸大生になった。
「でも学生時代はバンド活動にのめり込んで、今度は音楽でメシを食おうなんて考えていましたね」
だが、卒業間近に音楽の道は挫折。就職活動をしていなかった中西氏は、卒業を挟んで半年ほどアメリカを放浪していたが、帰国した直後に開催された大学時代の同級生の集まりで転機が訪れる。
「同級生の一人がリクルートで働いていたんです。聞けば、仕事でイラストを描いていると。今度は『絵を描いて給料がもらえるなんて!』と考えて紹介してもらいました(笑)」
面接を受けてリクルートに入社した中西氏の仕事は、求人の募集広告の制作だった。

経営者になりきれなかった代表取締役就任当初

取材風景

リクルートで働いて7年目、中西氏は外注先の制作会社に転職した。
「転職後の仕事も広告制作でした。転職の理由は二つありました。一つは前の職場では『ジジィがやるもの』と思っていた『企業の管理職』しかキャリアプランがなかったこと、もう一つは転職した会社が一人に一台のMacを持たせる完全デジタル体制に移行していたからです。将来はMacで制作することがメインになる時代が来ると思っていました」

こうして新天地での仕事をスタートした中西氏。最初は現場監督的な立場だったが、事情により代表取締役として会社全体も監督することになった。
「最初は現場監督の意識のままで、会社のマネジメントや経営という感覚が皆無で……。経営者になって人を雇うこと、給料を払うことの大変さを実感しました。適正な会社規模になって経営体制が整うまで2〜3年かかりましたね」

経営や人材の悩みは、リクルート時代の中小企業取材で知り合った先輩経営者に相談したという。
「肩書きが変わっても自分自身は変わらないと思っていました。でも、周囲の見方は変わる。それを理解できていなかった。プレイングマネージャーってカッコイイですが、経営者の意識と現場の意識を上手に切り替えながらクライアントやスタッフに接する必要があります。そのバランス感覚が難しいですね」

人との繋がりが、東京は“面”であり大阪は“点”。

事務所風景

中西氏に東京と大阪のクリエイティブの違いについてたずねると、“人のネットワーク”という視点から話を聞くことができた。“人好きで人なつっこいのが大阪人、ドライで冷たいのが東京人”といった既成概念はもはや通じず、真逆になってきているそうだ。
「大阪は自宅率が高くて、東京はひとり暮らしが多い。そのせいか、東京の人は積極的に人と交わって友達を作ろうとするのを感じます。東京は人の繋がりがどんどん“面”になっていきます。大阪は昔からの繋がりが多く、固定的で流動性が少ない。だから“点”になっていく印象がありますね」
必要性が薄い中で意識的に行動する必要がある分、大阪の方が繋がるためのハードルは高いのかもしれない。

パクられてナンボ。口にして初めてカタチになるものもある。

“点”のつながりを“面”にするために、中西氏はどんな点に留意してコミュニケーションしているのだろうか。
「一番のポイントは、秘密を作らずに想いを口に出すことです。あるアイディアがあったなら、パクられることを恐れて隠していてはダメ。素晴らしいモノはいずれパクられる(笑)。逆にそれほどのモノや企画を実現できるかが重要です。パクられることを恐れずに口に出し、多くの仲間を募る方が実現可能性は高くなりますよね。本当に素晴らしいモノや企画なら、想いを口に出していれば、きっと誰かが手伝ってくれたり、人を紹介してくれて実現するはずです。そんな想いを語ることこそが、“点”を“面”にするための最高のコミュニケーションだと思うんです」

コミュニケーションを創造することにこだわりたい。

中西氏

最後にデイジーヒルの未来について、中西氏の思いを語ってもらった。
「ジャンルに縛られずに挑戦したいですね。実はデイジーヒルという社名も、どんなビジネスに挑戦してもマッチするように考えて決めました。もし一つルールを決めるなら、コミュニケーションを大切にするということでしょうか。雑誌編集もウェブ制作も商品開発も、すべてコミュニケーションを重視して仕事を進めています」

雑誌やカタログ、商品などは、コミュニケーションを重ねて生まれた“結果”でしかないという。
「クリエイティブにこだわるのではなく、コミュニケーションをクリエイティブすることにこだわりたい。それがデイジーヒルのスタンスであり続けたいですね。私自身はたくさんの人と出会って楽しいお酒が飲めればOK。それが最高の幸せですよ(笑)」

公開日:2011年07月29日(金)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社グライド 小久保 あきと氏