家具作りを通して独自の世界観を発信する
阪井 信明氏:Roots Factory

阪井氏

Roots Factory(ルーツファクトリー)は、浪速区木津川にある家具工房。USED家具のリメイクやオリジナル家具の製作を行っている。“本当に使えるモノ”を創ることをコンセプトとし、常識と思われているパターンを見直し、モノの本質を考え抜いて創る家具は、30代を中心に「こんな家具をずっと探していた!」と熱烈なファンを集めている。今回はそんな工房の代表、阪井氏にお話をうかがった。

旅人と音楽の生活からリサイクル店オーナーへ

キャビネット

どこか飄々とした独特の空気感をまとう阪井氏。20代の初めはフリーターをしながら世界や日本国内を旅して、ニュージーランドでスキーをしたり、沖縄で野宿をしたりしていたという。また、バンドのボーカルとして音楽活動も行っていた。
「いわゆる世間の本流の外側にいた」という阪井氏は、8年前にリサイクル店の店主となる。
「家具の買い取りをして、再生する仕事をしていました。当時はリサイクルの形態がまだできておらず、同業の先輩には、いまや大手のリサイクル店の社長となった人もいます。まさに黎明期でした」

だんだんとおもしろさを感じ、家具の世界にのめりこんでいった。休日には木工を趣味とし、仕事で預かった家具では出来ない自分のアイデアを形にするべく、壊したり作ったりを繰り返した。

スクラップ&ビルドで知る家具作りのおもしろさ

超低座スツール

「自分の居場所は家具作りにある」と感じた阪井氏。その技術は、主にリサイクルショップ時代のスクラップ&ビルドで身につけた。
「中古屋として、ありとあらゆる製品を見る機会があるわけです。それこそ国産のものから海外製品まで、内側を見る仕事を日々やってきて、国産のよさ、海外製品のよさ、センス、いろいろ肌で感じるんですよ。そうするうちに、日本製はモノ作りのレベルが高いが、センスという点でもっとできることがあるんじゃないか、と思えてきて。日本から発信できる独自の世界観を生み出したい、と考えるようになりました」

家具作りへの探究心は、街の師匠ともいえるさまざまなベテラン職人たちとの出会いも生んだ。
「やっているうちに“なんでこれはこういう形なんだろう?” “ここがこうなるのはなぜ?”ということが出てくるんです。そういった疑問を、街で見かけた工房などにふらっと入っていって、職人さんに投げかけたりします。ベテラン職人の方ほど、気持ちよく教えてくれますね。向こうも僕が考えに考え抜いて困っていることを、“実はこうだ!”と披露するのを楽しんでいるみたいです。工房にはそれこそ有名工房で修行したスタッフや、専門的な勉強をしたスタッフがいますが、習ってしまうと、疑問を持つことが少なくなってしまう。自分で考えて手も動かしながら街を歩きながら疑問を解決していく、この勉強スタイルは僕の財産かもしれません」

“新しい世界観を創りたい”と家具工房を設立

工房

2010年初春に「Roots Factoty(ルーツ ファクトリー)」として工房をリニューアルした阪井氏。満を持してオリジナル製品のデザイン&製作工房としての新たなスタートを切った。
現在、スタッフは6名。それぞれ家具に対して熱い思いを持つスタッフだ。

「ひとつのものを創り出すのは真剣勝負。ピリピリすることもありますが、そんな中でも遊び心を大切にするようにしています。先日は“家具をどう搬入したらおもしろいか”という議題で会議をしました(笑)。気球に乗せるとか、船に乗せるとか、レッドカーペットを敷くとかいろんなアイデアが出ましたよ。何らかのアイデアは実現させるつもりです。お客さんの立場から考えると、やっぱり部屋づくりって、ワクワクするものじゃないですか。楽しくなきゃ」と茶目っ気たっぷりの瞳で語る阪井氏。

「家具作りのおもしろさは考えるところ。使うのはどんなプロフィールの人で、どんな生活をしているんだろう、とか。だったらこんな暮らし方したら楽しいだろうから、イスの高さは…。そういったことが一番楽しいですね。そうして生まれたのが超低座スツール。おかげさまで、発売以来ファンがついています」

木津川から世界へ向けて

オリジナル家具

阪井さんの家具の世界観は、いろんな文化やテイストが混ざり合っているけれど、どこか統一感があるというもの。日本人ならではのDNAに“今”を感じさせる佇まいをプラスした家具は、オリジナリティと柔軟さを併せ持つ。

「まだまだ発展途上です。今は、例えば古い三段積みの和ダンスをTV台に作り変えたり。レトロな家具に新たな解釈をつけるようなことをしつつ、オリジナル家具のアイデアも熟成させているところ。“こんな店を探していた!”とまとめ買いしてくれた国際結婚の方や、遠方からわざわざ足を運んでくれる方もいて、単に売れた喜びではなく“共感してくれた”という何ともいえない喜びがあります」

最後に「実はバンドでやってた音楽もミクスチャーというジャンルなんですよ。できすぎっぽくて言いたくなかったんですけど(笑)」と明かしてくれた阪井氏。
「小さな規模でもいいので世界に自分が創る家具の世界観を届けたい。それが夢」と語るその瞳は、しっかりとその日を見据えていた。

公開日:2011年07月27日(水)
取材・文:ユーモア株式会社 漆垣 美也子氏
取材班:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏