子どもの成長を見守りつつ、それをデザインの力に変えたい。
松村 裕史氏・竹川 朋恵氏:(株)マチック・デザイン

松村氏と竹川氏

株式会社マチック・デザインは、ご夫婦でもある二人のデザイナーが運営するデザイン会社だ。企業広告やパンフレットをはじめとした広告デザインをメインに、展示会用の立体物デザインやイラストなど、幅広く活躍している。今回は二人がグラフィックデザインの仕事に携わるまでの経緯や、子どもがいる環境で仕事をする喜び、さらには将来についてお話をうかがった。

航空機の整備から未知なるデザインの世界へ

松村氏

子どもの頃は絵が好きで、先生に褒められたくて頑張って描いていたという松村氏。高校進学時には美術系への進学も考えた。だが、周囲の反対と建築士という父親の影響、さらには機械いじりが好きということもあって理系を選択し、航空関連の専門学校へ進学。航空機メーカーに就職し、飛行機の整備や修理を行っていた。
「空や機械いじりが好きで、飛行機の修理や整備はとてもやりがいがありました」
しかし、遠い未来に夢が持てず退職を決意。実家がある大阪に戻って手に取った求人誌にあった“デザイナー募集”の文字が目に止まり、アルバイトとして働き始めた。
「最初は軽い気持ちだったので、もちろんデザインの知識はゼロ。でも、働くうちに『もっと知りたい!』という気持ちがわいたんです」
その思いに従ってスクールに通い、改めてデザイン会社に就職。本格的にデザイナーとしてのキャリアをスタートさせた。
「ルーチンの業務が多い整備の仕事とは全く違いましたね。デザイナーの仕事は自分で発想して自分で仕事を進めていく。就職初日から夜中まで働いたりして大変なこともありましたが、刺激的で面白かったですね」

3年ほどすると、もっと面白い仕事、もっと大きな仕事がしたいと、ステップアップのために別のデザイン会社に転職。さらに数年後、充実した仕事に加えて結婚して子どもが生まれた。そんな中での独立だった。
「ずっと、独立なんて考えていませんでした。でも、自分の想いと会社の方向性が合わなくなり、それが仕事にも影響してきてしまって。結果的に、ほぼ準備ゼロでの独立でしたが、周囲に助けていただきました」

「描かされる苦しみ」から「描く楽しみ」を実感

作品

竹川氏も子どもの頃は絵が大好きだったという。
「特にディズニーが大好きで、両親が録画して見せてくれていました。今もキャラクターが大好きです。でも、当時は絵を仕事にする気持ちはなくて、父親が美術教師だったので、無理に絵を描かされた時期があったんです。むしろ幼い頃は本当に嫌で……。でも、そのおかげで絵を描く楽しみを知ることができました。ですから人生を導いてくれた父親にはとても感謝しています」

両親の理解もあり、美術系の大学に進み商業デザインとグラフィックデザインを学んだ竹川氏。
「イラストを描ける環境にいられる会社を探してデザイン会社に入社しました。幸運にも入社当初から挿絵やイラストを描くことができる会社で充実していましたね。グラフィックデザインにも楽しみはあるんですが、今は子どもも私もキャラクターが好きなので、イラストの仕事にしっかり取り組んでいきたいです」

秘訣は「スイッチのありか」と「ズレ」

竹川氏

ご夫婦で運営するマチック・デザインの事務所は、自宅兼仕事場でお子さまもいる環境。デザインにどんな影響があるか松村氏にたずねてみた。
「子どもが仕事場にいる環境は大変ですが、大切な仕事の原動力となっています。ただし、仕事部屋の前に看板を掛けて、子どもは立ち入り禁止。扉一枚で自分の中にある父親とクリエイターのスイッチを切り替えるようにしています。それよりも自宅を仕事場にすることで、情報から隔絶された状態にならないように気をつけています」

マチック・デザインのスタッフでもあり、二人の子どもの母親でもある竹川氏に同じことをたずねてみた。
「子どもが寝てから仕事を始めるなど、私はようやく子どもの世話と仕事を両立するスタイルに馴染んできました」
現在、マチック・デザインは松村氏がディレクター兼デザイナーという立場ですべての仕事をマネジメントし、竹川氏はイラストをはじめとした制作に携わるというスタイルで運営している。
「二人のデザインテイストも異なりますし、今は私がグラフィックデザイン中心で彼女はイラストが中心。二人ともお互いの意見を冷静に聞けますね。あとは、私がディレクション的な立場で最終的に判断するという立場の違いがあるのがいいのかも。そこは家族じゃなくて上司と部下なんです(笑)」
と松村氏。

カッコイイデザインよりも、社会に貢献するデザインを。

松村氏

松村氏はマチックデザインが大きく変化する時期なのかもしれないと感じている。
「おかげさまで独立してからは、順調にお仕事をいただけています。でも、それに安心することなく、もっと外に目を向けて刺激を受けなければと感じるようになりました。コミュニケーションを大切にしながらネットワークを広げたいですね」

竹川氏は、母としてイラストレーターとして、働き続けることが目標だという。
「子どもが生まれたあとも仕事が出来るのは幸せなこと。将来はオリジナルキャラクターを作って、ネット上で発信していきたいです」
また、松村氏は子どもや両親を見ている中で、仕事に対する考え方も少しずつ変わってきたという。
「広告は好きですが子どもや両親を見ていると、単にカッコイイものを作りたいというよりも、社会に役立ち貢献できるような仕事を残したいと思うようになりました。子どもがそばにいるおかげで、自分の心に新しい目標が生まれたような気がします。近いうちに実現したいですね」

公開日:2011年06月30日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社ジーグラフィックス 池田 敦氏