システムはゼロか100しかない。そして100が当たり前の世界。
宮本 哲也氏:(有)プロトコルラウンジ

宮本氏

(有)プロトコルラウンジの宮本氏は、独立してまもなく10年というキャリアの持ち主だ。主にECサイトや企業内で使われる顧客管理や在庫管理データベースなどのウェブシステム開発を得意としている。「縁の下の力持ち的な役割」(宮本氏)というシステム開発の仕事。どんな楽しみや喜びがあるのか、仕事の獲得方法など、システムエンジニアと経営者、両方の立場に関わる話をうかがった。

クライアントが教えてくれた、独立という選択肢。

大学時代は情報系の学科でプログラムについて学んだ宮本氏。小さなホームページ制作会社でプログラマーとして働いた期間が、独立した今となっては最も役に立っているそうだ。
「プログラマーという形で入社しましたが小さな会社だったので、営業や制作、回収まで一人で担当していました。だから、営業と企画に時間を取られてプログラムする機会が少なかった。でも、不思議と営業は苦にならなかったですし、ここでの営業と企画の経験がなければ、独立して10年も続けられなかったでしょうね」

当時はネットバブル全盛期。ベンチャーとして起業することが花形の時代だったが、宮本氏の頭の中には「起業」の二文字はなかった。しかし、転機が訪れる。勤めている会社が倒産の危機にあると知ったのだ。
「それでも独立ではなく転職を考えていて、信頼関係が築けていたクライアントに相談しました。すると、皆さん『独立すればいいよ』と言ってくれた。中には、独立後の支援を約束してくれるクライアントもいて、初めて独立という選択肢を意識しました」
独立後の今も、当時のクライアントの多くと取引が続いている。
「独立時にアドバイスをくれたクライアントの皆さんには本当に感謝しています。素晴らしい方々と仕事ができて幸せです」

ワクワクの瞬間は二度やってくる。

宮本氏

独立して10年のキャリアを持つ宮本氏に、ウェブシステム開発の面白さをたずねた。
「やはり、自分が考えた通りに動くモノを作るのは純粋に楽しい。モノづくりと同じ面白さがあります」
クリエイティブとしては、デザインとは少し違う部分もある。
「システムは“動くか、動かないか”の世界。要はゼロか100かのどちらか。納品物はきちんと動くこと、つまり100が当然ですし、クライアントも100じゃないと喜んでくれない。99の出来でも動かないシステムはゼロと同じ。ここがシステムエンジニアの大変な部分でもあり、楽しい部分でもあります」

システムエンジニアとしての仕事で好きな時間が、宮本氏には二つある。
「一つは最初の設計時。クライアントにヒアリングした結果をもとに、設計を頭の中で考える時間です。ヒアリングで出てきた様々な要望を頭の中でシステムを組みながらどんどん実現していく。この瞬間が最高に面白い。そして二つ目は納品後。『うまく使えているよ。役に立っているよ』とクライアントに喜びの感想をいただいた瞬間。システム完成時や納品時は“動いて当然”ですから、喜びよりもホッとします」

“三角関係”こそ最良のビジネス関係。

独立時から支援するクライアントが存在した宮本氏。当時からポリシーとして、そのシステムを使うクライアントとの直接取引でビジネスを展開してきた。
「下請けに入ると、階層構造の中の歯車となり、やりたいことが一切できませんし、ただの作業者になってしまう。それでは、私がこの仕事の中で楽しみにしている部分が得られませんから」

クライアントを増やした方法をたずねると、営業活動はせずに既存クライアントからの紹介が多いそうだ。それは、独立時に支援者にアドバイスされた“三角関係”の考え方を守っているおかげかもしれないという。
「自分とクライアント以外にもう一人関係者を作って“三角関係”を構築するように、と。自分とクライアントという相互関係だけでは、一度関係がこじれれると誰もサポートしてくれません。でも、第三者的立場の関係者がいれば、2人がトラブルになっても残る一人がサポートしてくれますから、関係を修正して前に進める可能性が高まるんですね。紹介の仕事は、自動的に関係が三角になりますからね」

今度は“私が誰かを応援する”順番です。

宮本氏

これまではクライアントと直接取引のみだったが、最近新しい試みを始めた。
「ウェブデザイナーをはじめとした優秀なクリエイターとのネットワークが広がってきました。そこで、新しいビジネススタイルとして、ネットワークを活用したコラボレーションの取り組みを始めました」
同業者の下請けではなくて、才能あるウェブデザイナーやグラフィックデザイナーと、提携あるいはコラボレーションという形でお互いのビジネスの幅を広げる方法だ。このスタイルでコラボレーションを進めながら「プロトコルラウンジ=宮本」を一歩進めて、組織で仕事に取り組む体制にしたいと考えている。

事業を安定させ、さらに多くの人と繋がることで、意欲がある若い人をサポートしたいという目標があるそうだ。実際に2年前に採用した現在のスタッフは、プログラム経験やHTML作成経験がほぼない状態で採用した。
「みんなに自殺行為だと言われました。でも、暗くて厳しいイメージが先行するシステム業界に飛び込みたいというガッツと意欲がある若者を応援したい。今の自分の力で応援できるのは一人ですが、これからはより多くの若者を応援できるようになりたい。今度は私が応援する順番ですからね」

公開日:2011年02月24日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏