2割増しの“クオリティ”を提供したい。
合田 健二氏:(株)ギャラクシーオブテラー

合田氏

映像プロダクションにはプロデューサやディレクター、撮影カメラマンや編集がいるケースが多い。だが(株)ギャラクシーオブテラーは、そうした実写映像の企画に加えてCGによる映像制作やプロジェクト管理が行えるスタッフもいる希有な映像プロダクションだ。しかも、2010年にはフリーランスの映像クリエイターが集まって法人化した。今回は代表の合田氏に、自らが映像クリエイターになったきっかけや、フリーランスとして活動できていたのに法人化した理由などをおうかがいした。

就職できず、フリーランスに。

映画制作やVPなどさまざまな映像制作で活躍する合田氏だが、実は就職活動に失敗してやむなくフリーランスの道を選択したという。
「京都市立芸術大学の大学院まで行ってずっと映像を作っていました。もちろん就職活動はしたんですが、結果的には就職先が決まらなくてフリーランスでやるしか選択肢がありませんでした。そんな時、学生時代の最後に作ったデジタルムービーの作品がコンペで入賞して、そのコンペの主催会社が私にウェブデザインの仕事を発注してくれました。今では考えられないんですが、当時はITバブルの絶頂期でデジタル動画の黎明期。経験者が少なくて僕みたいな若造に仕事が回ってきたんだと思います」

まだ黎明期の業界で、しかも関西となるとその世界はそう広くはない。一つひとつの仕事をやっていくうちにクチコミや紹介で仕事が次々と舞い込むようになった。しかし、仕事を得るのと同じぐらい仕事を進めることが大変だった。
「映像制作のディレクターの仕事を初めていただいた時の話です。普通、映像の現場は下働きしながらノウハウを学びますが、僕はいきなりディレクターの仕事から。しかも、組織というかプロのスタッフを使って制作した経験はゼロだったので、撮影初日は自分がどこにいていいかすらわかりませんでした。そのせいか、わからないことはほとんど自分で調べたり聞いたりして自分のものにしていました。今となっては、それがノウハウとして自分の中に蓄積されて強みになっていると思います」

フリーランスが集まって法人化した理由。

取材風景

ギャラクシーオブテラーのスタッフは、ほぼ全員がフリーランスとして10年以上のキャリアを持つ。組織から飛び出してフリーランスとして活動するクリエイターが多い中、あえてフリーランスから法人組織の中に身を置くようにした理由をたずねた。
「やはり、未来のことを考えています。映像業界は不況ですが仕事の量は結構あります。でも、単価は下落し、要求されるクオリティは上がり、納期は短縮傾向。将来、高いクオリティを維持して生き残るためには、仕事のやり方を変える必要があると感じたんです。その第一歩が法人化です」

また、近年の映像業界の変化に対応する意味もある。
「デジタル映像の業界は、この10〜15年の間にPCが1台あれば一人でほとんどの作業ができるようになりました。すると、一人で仕事をどんどん抱え込む人も増えてきた。実際僕らはそういう形でかなりの量の仕事を得てきました。でも、それは業界の未来には良くなくて、若い人の成長も考えれば仕事を分散させる必要があると思うんです。もちろん外注する方法もありますが、法人化して若いスタッフにノウハウをしっかり受け継いでもらえる環境を作りたいと思いました。人を増やすのは大変ですが(笑)」

最近の若い映像クリエイターは大変だという。
「今の若いクリエイターは、機材や映像が氾濫している分、何から手をつければいいのか迷うと思うんです。僕たちの世代は徐々に機材の進化や映像情報の増大を体験したので消化できましたけど……。そのせいではないと思いますが、若い世代の人は、一から考えることよりも、言われたものをきちっと作る仕事を好む傾向があるように思います」

ちょっと過剰なサービス精神がウリ!?

フリーランス時代から長らく活躍する合田氏が、クリエイターとして大切にするモノとは何だろうか。
「面白いと思ってもらえるものを作りつづけることですね。求められる体裁を整えて納品すれば、仕事としては成功という考え方もありますが、それでは面白くない。カチッとした映像は私たちじゃなくても作れますから。「これいいかんじやな〜」と思われる要素を入れるのがギャラクシーオブテラーらしさ。「あそこに頼めばちょっと“いいかんじ”にやってくれる」と思われる、ちょっと過剰なサービス精神といいますか(笑)。常にクライアントが求める2割増しのクオリティを目指しています。ただし“クオリティの高さ=かけた労力の多さ”ではないはず。この部分については、法人化してから特に考えるようになりました」

未来を切り開くために、アウトプットまで完結する。

合田氏
SUPIE & GOO

最後は、将来の展望や目標について話が及んだ。
「会社としては法人化したばかりですから、3〜4年の間にスタッフを3〜4名増やすなど、会社の体制づくりを目指します。個人的には5年以内に2本目の劇場公開映画を作りたい気持ちはあるのですが、いかんせん大手の体制以外が収益を上げるのが非常に困難な産業ですから、なかなか難しいですね。他には、あらゆるデバイスに表示するコンテンツの芯となるようなアイディアを考えていきたいですね。実現するには、面白さや才能はもちろん、政治力や運も必要。でも、最大の目標はこれらをきちんとアウトプットすることなんです。やりたいなぁ、と考えている人は多いですが、アウトプットに至っている人は少ないですから。オリジナルコンテンツを少しでも出しているところは意外と少ないですからね。法人化直後に利益が見えない部分に手を動かすのはパワーが必要ですが、今が未来につながる頑張りどころなんだと思います」

公開日:2011年01月14日(金)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏