来るものは拒まず、このスタンスこそ仕事を大きくしていく基本。
田中 大氏:タナカビデオプロ

田中氏

現在、舞台をはじめ幼稚園・保育園の記録、ブライダルのビデオ撮影を中心に活動するタナカビデオプロの田中大さん。思いもかけないことから独立をして5年、最初の2年は大赤字であったが、いまやビデオ撮影は田中さんでないと、という固定客を多く持ち忙しい毎日を過ごしている。そんな田中さんに今後のスタッフの育成も含めた将来へのビジネスの抱負を聞いた。

音楽を続けるためのバイトが本職へ

ロックバンド時代の田中氏

高校生の頃からロックバンドのヴォーカリストとして活動を始め、23歳の頃までメジャーデビューを目指していた田中さん。当然、バンド活動を主力にするとフルタイムでの仕事は難しくなる。そこで目に留まったのが“土日のみの勤務で20万円”という求人広告。そのキャッチフレーズに惹かれて入社したのが、ブライダルのビデオ撮影を主にしている映像の制作会社だった。
「もちろん教えてもらうことが前提でしたが、なんといっても土日祝だけで月20万円稼げるのが魅力でしたね、面白そうでしたし。」
土日祝は撮影、平日は編集という日々を送りながら少しずつ仕事を覚えていった。

田中氏

「結局、バンド活動からも離れてしまってPOPの広告制作の会社へ営業職で就職したのですが、土日祝は引き続き映像の仕事を続けました。平日は固くサラリーマンとして生活費を、休みは映像の仕事で小遣いを稼ぐというスタイルが一番安定していました。」
約10年、この仕事のスタイルを継続してきた田中さんだったが転機が訪れる。映像の仕事を外注として受けていた会社の社長が体調を崩し、会社を閉じる事になり、その社長から仕事を引き継いでほしいと頼まれたのだ。
「得意先の仕事の内容も要望もよく知っていましたので、信頼してくれていたのだと思います。ただ本当に悩みましたね。これまでやってきた仕事のスタイルが一番だと思っていましたから。」
それでもお世話になった社長のたっての願いをむげに断る事も出来ずに、ひとまずサラリーマンとの二足の草鞋を一度は履いてみたがやはり難しい。そこで引き受ける人間が自分しかいないのなら、思い切って会社を辞めて独立しようと決心した田中さん、結婚資金にと貯めていたお金で機材を調達した。
「外注として仕事を出す事はあっても、なかなか仕事を譲ることはできないですよね、そこは僕を信頼してくれていたんだと思いますね。」

営業が大好き!100件飛び込みなんてなんでもないこと

田中氏

それでも引き受けた仕事はその会社がやっていた仕事の1/3、やりたくない仕事は断った。
「独立して2年間は大赤字でしたね。最初はひたすら飛び込み営業をこなしました。サラリーマン時代は営業職だったので、飛び込み営業はいといません。大阪市内の幼稚園や保育園なら全部回ったんじゃないかな。ほとんどは門前払い、それでも僕の営業経験からすると100件回って1、2件取れるというのが普通ですから。そんな100件のうちの1件の幼稚園とはいまもお仕事させていただいていますよ。」
現在、タナカビデオプロの仕事は幼稚園系が3、音楽・ダンス教室が3、ウエディング1、その他3となっている。来るものは拒まずというスタンスで仕事を受注してきたと語る田中さん、最近は舞台撮影の仕事が増えてきている。舞台の仕事はタナカビデオプロのホームページを見て連絡をしてきた、教室を持つ先生からの依頼が最初だった。その仕事が評価され自然に口コミで広がっていったという。
「舞台の仕事は好きですね。自分が長年バンドをやっていたからかもしれませんが、エンターテイメントなその一瞬のライブ感を撮るのが好きです。僕のこだわりはお客さんによって撮り方を変えていることです。例えばヒップホップ系のダンスにしても、教室によって撮って欲しい要望は違います。先生にヒアリングをし、その要望を咀嚼してどう仕上げていくかが腕の見せ所です。特に要望がないというお客様に対しては、こちらでいくつかのパターンを提示してあげるようにしています。
仕事の評価というのは、クオリティと値段とのバランスなので、この値段でここまでやっているのなら前の業者さんの方がいいのではないでしょうか、ともハッキリ言います、うちではこの値段ではここまでできませんと。その正直さも納得してもらえるところだと思います。結局、業者を変えたいというのは、対応が悪いとか動きが遅いとか、何かしら問題があるということですから。」

作業風景

ブライダルの撮影から始まった映像の仕事だが、いまや幅広いジャンルの仕事をこなし、特に自ら舞台に立って歌っていた頃の躍動感を今度は映像を通して表現している田中さん。
「ステージが好きですね。特に音楽系の仕事はやはり音にこだわります。マイクセッティングにも気を抜かない。自分が舞台に立っていたからこそ、どんな仕事も少しでもいいものをと思います。そのためにも、ああいう風に、こういう風に撮ってあげたいといろいろなアイデアがつきることなく溢れてきます。」
しかし初めてのジャンルの仕事を受注したときには、まずは類似のビデオを徹底的に見ることから始めるという田中さん。
「撮影は得意なんですが、編集は僕よりもっと上手い人は沢山いるだろうなと思います。だからこそ、どうすれば効果的に見せることができるかとか、常に考えていますね。結果的には締め切りギリギリに神が降りてきて、上手くいくことが多いですけど(笑)。」

現在は仕事ごとに外注スタッフとチームを組んで仕事をしているが、今後はスタッフを育てていきながら、今までに無い、映像を使っての新しいビジネスにもどんどんチャレンジしていきたいという田中さん。
「この仕事は僕にとって天職だと思いますね。そんな僕に天職を与えてくれた人をはじめ、育ててくれた方に恩返しするためには、この仕事を辞めるわけにはいかない。10年後にはすごく大きくなっていますよ!数字を口にするとその数字以上になれないような気がするのであえて言いませんが、可能性は無限大だと思っています。」

公開日:2010年11月29日(月)
取材・文:株式会社ルセット 松本 希子氏