Kyo2 Designのキョウツウしないふたり
新名 興生氏・堀 智久氏:Kyo2 Design


堀氏(左)と新名氏(右)

新名興生さんが代表兼アートディレクターを務めるKyo2 Design。2007年の始業以来、営業から実務までを一人でこなしてきたが、以前にクライアントとしてやり取りをしていた堀智久さんが今春から営業担当として加わり、二人体制となった。
「二人を身体で例えると、僕はデザインのコンセプトを考えて実際に制作したり、戦略を練ったりするので頭と手のある上半身。彼は僕の指示を受け、各クライアントに対して営業活動をする足の役割をしているので下半身になります」と、新名さんは互いの関係性をそう解説する。

緩急を駆使して信頼を得る

堀氏

新名さんのモットーは、「デザイナーはアーティストではない。クライアントの思い・考えを整理し形にしてユーザーに伝える」こと。あくまでクライアントに収益をもたらすことを目的とする。だから企画段階から携わり、提案を行うコンサルタント的な動きに必然となってくる。
「単にかっこいいデザインを提供するだけでは、デザイナーの自己満足になってしまいます。大切なのは、根本的なところに目を向け、クライアントのもつ課題を解決してゆくことなんです」。
企業の根底部分に関わってゆくのに、相手の“ご機嫌うかがい”をする必要はない。最初の打ち合わせから、新名さんは非常に厳しい姿勢で臨む。「これから何をしたいか?」という未来の願望を聞くのではなく、「何が原因で、現在の問題を抱えるようになったのか」と過去の過ちを拾い出し、それがなぜ過ちだったのかを検証し、厳しく指摘する。
「相手が機嫌を損ねて仕事がおじゃんになったとしても、それは仕方のないことです。クライアントの根本的なものの考えが変わらなければ何も進みませんから。そのかわり、僕自身も言っただけの責任は果たします」。
2回目の打ち合わせまでに、どうすればクライアントの抱える問題を解消できるか。経営上の改善点、販売促進に向けたイベント、商品のデザイン等々、あらゆる角度から考えを巡らし、総合的な見地で提案を打ち出す。
初回の打ち合わせで問題点が明示されている分、クライアントは提案に対して素直に耳を傾ける。また、初回の厳しい指摘と、2回目の明確かつ妥当な提案とのギャップが「こんなに自社のことを考えてくれていたのか……」と、かえって相手に信頼感を抱かせるという。Kyo2 Designの“頭脳”である新名さんのこのアプローチ方法には、かつて同じようにアプローチされただけに堀さんも信頼を置く。
「新名さんが考え出すデザインは、問題の本質をきちんと捉えた上での戦略を駆使されたもの。デザイン性ばかりを押し出す他のデザイン事務所とは明らかに違います。それを実感している分、自信を持って営業活動ができます」。

異なった能力だからこそ、威力が増幅する

新名氏

仕事を通じて出会い、意気投合して二人で事業を展開することになったが、これまでの経歴はまったく異なっている。
これまで10年間、複数のデザイン事務所で経験を積んできたという新名さん。柔軟な発想力と、豊かな創造力を活かし、数々のデザインに携わってきた。それに対し堀さんは、半導体業界等で営業畑を歩んできた根っからの営業マン。法人営業の経験から各業界の知識が豊富で、物事を総合的に捉える判断力、理解力に長けている。また、仕事に対するスタンスも、「3年後、5年後……とあえてスタンスを決めず、今の流れのまま楽しくモノづくりを続けていきたい」とざっくり考える新名さんに対し、「いや、数年先まで計画を明確にし、きちっと目標を達成していきたい」と堀さんは緻密な計画を打ち立てるなど、面白いほど対極的だ。
しかし、「考え方がまったく違うからこそ、僕たちはうまくいくんです」と新名氏は語る。例えば企画を提案する際、新名さんの斬新なアイデアにクライアントの頭が追いつかない場合、堀さんの市場分析データが加わると、数値的な裏付けが生まれ難なくクライアントを説得できる。堀さんの論理的な交渉が、新名さんの斬新な企画・デザインをより引き立てるのだ。

大将を操る兵士

新名氏

今後の会社運営について、堀さんは何事も挑戦してゆく積極性が必要だと話す。
「一見マイナス要素のある仕事であっても、その先に大きな収穫が望めるのであれば、会社としては挑戦していかなければいけません。どんなリターンが潜んでいるのかを見極め、新名さんに納得してもらえるよう伝えることも、僕の役割だと思っています」。デザイナーとしての新名さんをいかに動かすかは、堀さん次第なのだ。
「完全にペースを握られていますね(笑)」と、その点については新名さんも認める。どちらかと言えば、出不精で人見知りと自身を語る新名さんは、堀さんが来てからというもの以前は顔を出すことが少なかった同業者との会合にも参加するようになった。
「情報交換や協力体制を作るなど、同業者同士の横の繋がりは会社を運営していく上では非常に大切です。今後も僕はさまざまな機会をセッティングし新名さんの活動の幅を広げていくつもりです」。頑固な性格の新名さんを見事に誘導する、その交渉力は「さすが」としか言いようがない。

「僕はデザインもできて、営業もできる、完全無欠人間やと思っていました」と、独りよがりだった以前の自分を新名さんはそう振り返る。現在、自分を引き立て、また新たな分野へと導いてくれる“戦友”ともいうべき堀さんを得て、晴れて完全無欠になったのではないだろうか。
時としては、堀さんが頭脳のある上半身で、新名さんが会社の歩みを止めない足を持つ下半身なのかもしれない。

公開日:2010年11月15日(月)
取材・文:竹田亮子 竹田 亮子氏
取材班:株式会社PRリンク 神崎 英徳氏