一コママンガの世界に挑戦していきたいと思っています。
川崎あっこ氏:

川崎氏

川崎氏はフリーランスのイラストレーターだが、平日のほとんどの時間を毎日放送の作業部屋で過ごすという。そう聞いて2Fのスタジオの向かいにある控え室を尋ねた。「毎週平日放送のちちんぷいぷいの仕事をしているので、番組がはじまるまでの時間から放送中までずっとこちらの部屋でイラストを描いているんです」と語る川崎氏。いったいどういうきっかけでテレビのお仕事をはじめられたのだろうか。

ちちんぷいぷい角さんの顔を描くのが日課?

学生時代は奈良ドリームランドや、住宅展示場などで似顔絵バイトをしていたという川崎氏。
「即興で絵を描くのが得意でした。赤ちゃんの似顔絵を描くときに、ウルトラマンの着ぐるみを着せて描いてあげたりすると喜んでもらえるのがうれしかったです」。

そんな芸大生の頃に先生から紹介されたバイトが、番組内で使用されるイラストを描くバイトだった。その番組こそ毎日放送の人気番組「ちちんぷいぷい」。
「最初はスタッフルームのホワイトボードに絵を描きに行っていました。卒業後もずっとレギュラーでお仕事させてもらっています」。

川崎氏

午後の生放送に備えて、作業部屋に午前11時から待機する。プロジェクターの文章やイラストの指示が、作家さんやディレクターさんからFAXで送られてくる。それをだいたい14時半までに納品するのが日課だ。
「一日7カットぐらい描きます。食品やモノなどは簡単に描けるんですけど、出演者の方が一同に揃っている似顔絵イラストなどは難しいですね」。

生放送までにイラストを仕上げるプレッシャーは計り知れない。

放送まであと何時間。あと何分。締切の時間はいつもすぐにやってくる。
「あまりにも仕事が切羽詰まっているときは、息ができなかったことがありました。それに顔面の半分が硬直してしまったり。このプレッシャーはぜんぜん慣れないです」。

イラストを描けなくなることもあるという。
「一枚の絵でも下書き10〜20枚ぐらい描くこともあります。結局シンプルに描いたほうが良かった、ということもあるし、見返したくない絵もあります。」。今は南堀江の自宅まで、1時間かけて歩いて帰るなど、健康的なストレス解消を心がけている。

製作プロセス

忙しいながらも、彼女は毎日放送以外の仕事を何本かイレギュラーで担当している。毎日放送の仕事が終わってから自宅兼事務所に戻って他局の仕事に取り掛かるそうだ。特番などで仕事が詰まっていたら断らざるを得ない。テレビの世界では眠る時間を確保することも仕事のようだ。
「一週間お布団で寝れないということもありました。もしかすると何日も制作期間をいただくと逆に動揺するかもしれません(笑)」。

働き方もアルバイト契約から制作会社の契約社員、フリーランスなど時期によって変遷がある。
「身近に仕事のことで相談できる人がいなくて苦しんだ時期がありました。先輩がいないことは幸いなこともありますし、しんどいこともある。今だって正しいかもわからず進んで、不安いっぱい、手探りの毎日です」。

テレビはあらゆる人が視聴する。例えば明治時代の街の様子を描いてほしいと依頼があっても、表現を間違えてテレビに苦情がくることだって考えられる。そのプレッシャーは計り知れない。

個展もやっていきたい。

「最近は毎日放送のOSAKA漫才ヴィンテージという特別番組のイラストを描かせていただきました。満足いく仕上がりだったので、反響があるかもしれないと思ってブログを立ち上げました。

『番組を見て探していたらブログに辿り着きました!』とコメントをいただくこともあって、うれしかったですね」。

暇があればコンペに出そうかと考えていたり、インタビューに同行された帆前氏ともブランディングの企画を考えているという。多忙極まる中でも現状に満足せず攻め続ける。テレビ業界のスピードに流されることなく、スキルの幅を広げていく川崎氏のタフさが見え隠れする。

ゆくゆくは個展などもやっていきたいと語る。
「今はディレクターさんや作家さんの頭の中を絵にするのが私の仕事になっていますが、芸大生の頃は自分発信でいろいろやっていました。あの頃の感覚を取り戻したいですね。私は学生時代、カートゥーン(cartoon)と呼ばれる一コママンガの世界に没頭していたんです。日本にもっと浸透したらいいのにな、と思っているので、私もどんどん挑戦していきたいと思っています」。

公開日:2010年09月27日(月)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班:有限会社ガラモンド 帆前 好恵氏